62-4 はじまるおひろめ! 果樹園の森のミッションインポッシブル!<SIDE:月萌>
「はー、はー、間に合った――!!」
今回のショーは、ルカとルナも楽しみだったよう。
ステージ衣装のまま、VIPブースに駆け込んできた。
「おつかれさまでしたわ、はいどうぞ」
「とても素敵なステージだったわ。生で見れるなんて夢みたいよ」
「また腕を上げてきたな、ふたりとも」
ライムが二人にアイスティーの入った紙コップを渡せば、エルメス殿下とセレネさんも一緒にお出迎え。
二国のトップレディたちが仲良く交流する光景、実に麗しいものである。
当初和平のための人質となる予定だったエルメス殿下は、セレネさんの計らいでその立場を逃れた。
このときから、殿下とセレネさんの仲は非常に良好だ。
さらに、気さくな殿下はライムとルカとルナともあっという間に仲良くなった。
おかげさまで、その点についてはおれたちもほのぼのしていられるというわけである。
女神に次ぐ地位にドタバタと着いてしまったド庶民のおれたちにとっては、実にありがたいことだった。
「さ、もう始まりますわ。
ルカさんはカナタさんのお隣に座ってくださいませ」
「ありがとう、ライム」
「ルナもイツカの隣にゆくがよい。私はエルメスとふたり、仲良く見守っておるでな♪」
「ありがとねセレネちゃん!」
そんなこんなでおれたちがシートに落ち着いてまもなく、今日のメインイベントというべき覚醒おひろめショーは始まった。
* * * * *
事前公開動画で、ここに至るまでのいきさつは語られている。
王子トラオが冒険者となり、メイドのしごとのなくなってしまったユキさんとナナさんは、城勤めの騎士と医術士になっていた。
ある日城の外を巡回していたユキさんは、魔物に追われる子供を見つける。
子供を逃がし、魔物を撃退。城に帰ってはきたものの、事情を伝えるがはやいか、全身石になってしまった。
ナナさんの見立てによれば、犯人は古代の魔物。石化を解くには、伝説の木の実と、それを使って治療薬を調合できる、腕利きの錬金術師が必要だった。
間の悪いことに、一番の腕利きである宮廷魔術師アスカは、狼王ハヤトとともに遠い外国にいっており留守。城に戻るまでに、一週間以上はかかってしまう。
しかし、希望はあった。
国王代理ミライの知恵袋である、ハルオミが言うには。
「伝説の木の実は、チナツの実家の森にあると思います。
ここは騎士としての修行を兼ねて、弟のハルキにとって来てもらいましょう。
錬金術師にも心当たりがあります。俺の妹のコトハです。
彼女は、アスカ様に次いで優秀な術師です。俺が迎えに行ってきましょう」
* * * * *
すっかりと暗転したフィールドと客席。
どこからか、不穏なざわめきが満ちてくる。
ゆっくりと照らされたのは、観客席の一角。
客席が撤去され、空になったブースに、ゆっくりとひとりの騎士が姿を現す。
あたりを警戒しながら歩いてきたのは、初々しい騎士姿のハルキくんだ。
「チナツさんちはこの先のはずだけど、無事なのかなあ……ってちょおおおお?!」
フィールドを見下ろしたハルキくんは、目をむき叫ぶ。
同時に、パッとあかりのともったフィールドには、ハルキくんでなくとも叫んでしまうような光景が広がっていた。
立ち並ぶ木々……のあいだには、スケルトン。
そのとなりにもスケルトン。スケルトンスケルトンスケルトン、ところどころにスケルトンフェンサー。
ひしめき騒ぐ山ほどの骨軍団が、進軍しようとしている。
彼らを食い止めるため戦うのは、たった五人の戦士たち。
「加勢します!」
「待って!」
とっさに飛び込もうとしたハルキくんだが、戦士たちにそれを制止された。
「まずは、助けを呼んできて!
いま、動けるのはあなただけだから。お願い!」
そう願ったのは、南国風の装いで身軽に戦う美女。
大猿の神獣、ターラさんの人の姿だ。
「わ、……わかり、まし、たっ」
スケルトンたちと戦っているのは、人の姿を取ったチナツの神獣たち。つまり、一人を除いて全員、美女と美少女だ。
騎士ならずとも、これを置いていくのは心が痛い。
しかしハルキくんは葛藤を振り切り、ブースから走り出していく。
おーいだれかー、と呼ぶ声が遠ざかっていく。
「おいおいなんだこりゃ。すげえ不穏な雰囲気だな?」
すると入れ替わるように、ブースに人が入ってきた。
今度は二人。黒とアイボリーのマントを羽織った冒険者。
一人の背中には黒の翼。一人の頭にはコーヒー色のいぬみみ。
そう、レンとチアキである。
レンがぐるりと周囲を見回せば、チアキがくんくんと鼻をきかせる。
「あっ……レン、だれかくるよ!」
指さすのは、ブースの入り口。
おーいという声を引き連れてやってきたのは、ハルキくんだ。
「すみません、冒険者さんですか……
スタンピードで……スケルトンたちが、いっぱい……」
「っしゃあ、オレがまとめてブッとばしてやんぜ! どっちだ?」
「ありがとうございます! こっちです!」
レンがよっしゃと胸をたたけば、ハルキくんはぜえぜえしながらフィールドを指さす。
するとレンは『げっ』という顔をした。
そして気まずげに確認を取る。
「えーっとあの森……ブッとばしちゃ駄目なんだよな?」
「だめですよおお! あすこは兄の同僚の実家の森で果樹園もやっていて奥には家もありましてっ」
「えええ……」
「お願いします! あそこでとれる伝説の木の実が、兄の同僚の、あ、さっきとは別の人なんですけどその人の恋人のために必要なんです!
子供をかばって石にされちゃって、元に戻すには伝説の木の実がないと……ううう……」
それ無理! むりむりむり! な顔になったレンだが、うるうるしちゃう年下騎士を前に断るに断れなくなってしまっている。
「わかった! 僕いってくる!
こうしてる間にも、戦ってくれてるあのひとたちがあぶないもの!
レンはえっと……とりあえずおねがい! えーい!」
さらにチアキがブースから大跳躍! フィールドに飛び込み、戦い始めるのを見て頭をかきむしる。
「うあああー!! どいつもこいつもー!! オレにどーしろっていうんだあああ!!
ボムの爆風を操れってかあああ!! むりむりむり――!!」
もちろんおれたちはそれができることを知っている。なのでわくわく待つのみだ。
レンもそれをわかっているのだろう。引っ張るだけ引っ張って、ニヤリと笑った。
『むりむりむり』を連発すると婚約破棄も回避できるってばっちゃが(以下略)
次回、続き! お楽しみに!!




