7-8 こねこのゆめと、災難と
10:14
ふと気づけば→気づけば
何で気付かなかったのか……orz
もちろん、こんなありさまで校内を歩いたらとんでもないことになる。
やむなくノゾミ先生がイツカの意識を落とし、『縮地』で寮室まで移動。
そして、事情聴取が始まった。
とはいっても、キッチンではミライが生姜焼きを焼き、シオンがそれを見学。イツカはすぐ横のソファーでぐうぐう、他のみんなはそのへんで思い思いという、何とものんきな状況でだけれど。
それでもみんなの頭の耳は、あきらかにこっちに向けられている。
そんななか先生は、ゆっくりと口火を切った。
「最初はただの演出だと思っていた。
だが、どうもそうでないように見え始めたから飛んできた。
イツカにゆうべ、一体どんな特訓をしたんだ、カナタ」
「ええと……3Dシミュレーター機能でルカの動きをシミュレートして、イツカとバトらせました。時間がなかったので、パターンは最低限の300通りに絞り、疲れが見えたところでこまめにポーションを飲ませて、疲労とダメージを飛ばすようにしました。
間におそめの食事とお風呂、お茶休憩をはさんで各パート二時間。
全部おわったのは夜の二時半です。
星降園にいたころのイツカは、しょっちゅうこんな感じでしたけど……」
「……イツカはどんな感じだった?」
「えっと、なんか脅えてました。
はじめる前は、絶対ルカにモフり殺される決闘なんかしないって。
金曜日のステージに出させる約束してるんだから命だけは助けてもらえるよ、でもこの作戦がうまくいかなかったらマジぎれしたルカにほんとにモフり殺されるかもね、っていったらしぶしぶ始めて……。
まあバトル大好きなイツカだから、始めちゃえば積極的だったんですけど、お風呂休憩のあとは疲れが出てきたみたいなんで、毎回ポーション飲ませてたんです。
そしたら、なんかだんだんもうやめよう怖い無理だって言いだして。
結局、なだめすかして最後までやらせたんですけど……」
そこまで聞くと先生は、ふうっとため息をついて腕を組んだ。
「……あのな。
確かに、ここでは『ティアブラ』のアイテムが現実にも効果を発揮する。疲労もダメージも、ポーションで拭い去ることができる。
だがな、それに対する『違和感』まではポーションでは取り去れないぞ。
絶対に限界を超えているはずなのに、それが一向にやってこない。最初はいいが、徐々に気持ちが違和感を覚え始める。そうなってくると精神的に追い詰められていく。
俺たちスターシードは比較的これに弱い。あまり知られていないことだがな」
「ええ……?!」
そうして聞かされたことに、おれは心底驚いた。というのも。
「でもおれ、これまで何度か自分で同じようにしたことあるんですけど、全然、平気で……」
「どの程度でそうなるのかには個人差がある。
例えばミソラや俺は一向に平気だが、トウヤは一度パニックを起こしている。
というか毎回ポーションがぶ飲みさせてぶっ続けでバトルなんぞ、月萌国防軍の特殊部隊でもなきゃやらない特訓、最後の最後の手段だぞ。
今後それはやらない方向で。もしどうしてもやらなきゃならないハメになったら、俺を立ち会わせること。いいな。」
「わ、わかりました……」
おれは眠るイツカを見やった。
いまは安らかな寝顔を見せているものの、やつには悪いことをしてしまった。
胸の奥からじわり、罪悪感が湧きあがる。
「イツカ、もとにもどれるんでしょうか。どうしてやったら……」
「意志疎通ができていたなら、すぐに治るだろう。
一にも二にも、ゆっくりと休ませてやることだ。
まさかイツカの弱点がここだとはな。俺も正直驚いた」
そのとき、炊飯器が明るいメロディを奏でた。
イツカはぱっと起き上がる。
そのまま一直線にキッチンへ走って行った……黒いしっぽをぴんっと立てて。
「……ぷっ」
「ふふっ」
「あはははは!!」
その現金きわまる様子に、みんなから笑いが起きた。
まもなく生姜焼き定食のトレーをふたつ持って戻ってきたイツカの顔には、満面の笑みが浮かんでいた。
やつはおれの前とその隣にお盆を置いて、おれの隣にぽんと座る。
そして、毛布にくるまるかのようにおれの耳を肩から掛けると、ぱんっと手を合わせてうまうまと生姜焼きを食べ始めた。
世にも幸せそうなその様子ときたらもう。
おれの向かいでぼうぜんと、先生……もとい、ノゾミお兄さんがつぶやく。
「イツカおまえ、そうするのが夢だったのか……」
「お兄ちゃんもミソラさんの羽根おっきくしてやってもらってるんでしょ?」
「なっ?!
な、なななななにをいってるんだミライ、お、おおおおれはそ、そそそんなことは……」
「ほおーう?」
「先生ほんとー?」
「のぞみんやっるー!!」
「よろしければその件くわしく……」
ミライが先生、もといノゾミお兄さんの前にトレーを置きながら、無邪気に爆弾投下。
室内は一気に大騒ぎになった。
気づけば、イツカも笑い声をあげている。
ふと目が合えば、きらきらした瞳には、確かに人の表情があった。
「……ごめんね、イツカ」
「……ん」
そしてそっと詫びれば、たしかに一声発して、うなずいてくれたのだった。
そこからの回復はあっという間。
その日の夕方には、おれたちは無事、学食に出向くことができたのだったが……
「ご結婚おめでとうございます!」
「おめでとうイツにゃんカナぴょん!!」
「さびしいけど……お似合いです……くうっ……」
「どうかお幸せに!!」
「式には呼んでね!!」
なぜかそこにはとんでもないうわさが充満しており、おれたちは早々に逃げ出す羽目になった。
そうして向こう三日間、おれたちの食事は外食と出前だけになってしまったのであった。
いつのまにか「勝手にランキング」さんでOUT6ポイント頂いているっ!! ありがとうございます!
次回、裏舞台のバトル。掲示板での攻防ともいいます。お楽しみに!
一瞬これを前書きに入れていた件……orz




