Bonus Track_62-1 シャモアの恋の物語(2)~ハルオミの場合~<SIDE:月萌>
「あの、……実は俺。覚醒、……装備覚醒、できたんです!」
「おめでとう、ハルキ殿。
先週の末、ですか?」
「はい。みんなでミッドガルドの女神さまに、特訓してもらって!
それで、あの……
今週末、昇格記念試合があるんです。兄と俺、ふたりの。
もし可能なら、見にいらしてくれませんかっ?」
「ええ、喜んで」
俺とナナさんを紹介してくれたハルキだけれど、その間もずっとうずうずしていた。
四ツ星昇格試合を、覚醒した自分の晴れ姿を見にきてほしいと、お誘いの言葉を言いたくて。
エルメス殿下はわかっていたのだろう、ほほえましい目で言葉を待ち、にっこりとうなずいてくれた。
それを見る侍女さんたちの目もあたたかい。ハルキは、どうやら順調にソリステラスの姫君たちの心をとらえているようだ。
彼女の話し相手として御前に上がるのは、やはり良家の男子が多かった。
そのなかでもハルキは、いちばん殿下のお気に召しているようだと聞く。
兄のひいき目もあるけれど、ハルキはすごく頑張っているし、結果も出している。
一番わかりやすいのが、この覚醒だ。
もし、おれが女の子で……
ハルキのようなかわいい子に、自分のためにとこんなに頑張ってもらえたら、絶対好きになってしまうと断言できる。
『婚約者候補』たちのなかの誰も、ここまでのことはできていないのだ。
ハルキより勉強のできる男子も、いますでに四ツ星のイケメンも、いっそ月萌最強のイツカとカナタも候補にいることはいるけれど……
かれらのもつ強さは、殿下のためにとがんばった結果じゃない。
つまり俺が殿下なら、ぜったいぜったいハルキにする。
だいじょうぶ、いけるよ。がんばれハルキ!
そんな気持ちでハルキをみていたら、やわらかく笑いを含んだ声が俺に向いた。
「兄上様は、ほんとうにハルキ様がだいすきなのですね。
……もし、ハルキ様とわたくしが婚約の運びとなり。
ハルキ様に、ソリステラスにいらしてもらうことになったら。
さびしくはありませんか? わたくしは、それが心配です」
けれど最後は、まっすぐな目が俺を気遣う。
心洗われるような瞳。本当に、やさしい人だ。
俺も、まっすぐに答えた。
「たしかに、しばらくはすごく寂しく思うと思います。
弟は、家族は、わたしの宝物ですから。
それでも、その弟が、愛した人と幸せになれるなら……
それは、それ以上の幸せです。
ただ、同じことは殿下にも言えるかと存じます。
もしも殿下が月萌に輿入れとなれば、ご家族の皆さんも寂しく思われるのではと……
もちろんそんな思いをさせないよう、弟だけでなくわたしたちも、せいいっぱいがんばりますけれど」
正直、ドキドキしていた。
まったく婚約が視野に入っていなければ、こんな話題はでない。
そのことも踏まえていろいろ考えて、リハーサルなんかもしたけれど、いざ実際この場になってみると……。
それでもおれには、やさしい手の励ましがあった。
テーブルの下、ナナさんの柔らかな手が、さりげなく俺の手を握ってくれていた。
だいじょうぶ。この手があれば、俺はいくらでも強くなれる。
しっかりと握り返し、こたえる。
エルメス殿下はすこしだけ驚いたようだったが、すぐにその美貌は笑みほどけた。
「わたくしのことをまで、気遣ってくださるのですか……
本当に、お心優しいのですね。
ハルキ様が優しくなられるわけです」
「っ…………」
ハルキはすっかり赤くなってもごもご。
それでも頑張って言ってくれた言葉は、それ以上にうれしく、また会心のものだった。
「おやじとおふくろ……っじゃなかった、父と母は、もっともっと、優しいですからっ!
先輩も、先生たちも、みんな、いいひとばかりで!
ここにくればぜったいぜったいっ、幸せになれますのでっ!!」
そのときちょうど、約束の時間の終わりを告げる鐘が鳴った。
ハルキは我に返ったのだろう、まっかっかになってはわわわ。
それでも、そんなハルキを見つめる殿下の目には、たしかに愛おしさが見て取れたのだった。
けなげに頑張る子っていいですよね*^^*
次回、ソリステラスサイド。めずらしくマルキアも加わっての作戦会議。
皇女とその婚約者、そしてこのあとの捜査? についての話題となります。
どうぞ、お楽しみに!




