Bonus Track_61-7 お茶会という名の兄弟対決? ~アスカの場合~(1)<SIDE:ST>
「すでにネタは上がっていますから。
……とぼけるとためになりませんよ」
僕たちを紹介し終わったレム君は、開口一番そう切り込んだ。
「突然どうした、弟よ。
兄がおまえを溺愛しているということならばネタを上げるまでもなく」
「弟のクライアントに手を出そうとするのが溺愛と思ってるなら後ほど溺愛に謝ってきてくださいね。」
ポーカーフェースのひとこともぶった切る。
まあ実際溺愛してるんだろうけど。そこはノゾミ先生やカナタやハルオミとおんなじにおいがするんですぐわかる。
けれどそんなの、しごとのじゃまをされるレム君にとってみれば、ただのストーキングでしかない。
「誤解しないでくれ、弟よ。
兄は決して遊びのつもりでは」
「いい加減にしないと公務執行妨害が視野に入ってまいりますよフィル・シグルド・シルウィス」
レム君の、まだ高くかわいい声がちょっぴり低くなった。
鼻の頭にもちょっぴりだけどしわがよって、小さいながらも狼らしい、怒りのようすが表れる。
ちなみにもっともっと興奮すると狼の耳しっぽがピョコンするらしい。絶対かわいいのでいつかみたいものだが……
残念なことに、耳ピョコをうっかりさらすのは恥ずかしいものとされ、貴族の子女は戦い以外の公の場でやらかさないよう、訓練するらしい。実に実にもったいないことである。
シグルド氏もこの点については確定的に同感だろうが、さすがに公務執行妨害は面倒なようで、咳払いとともに話に応じる様子を見せた。
「それで。
聞きたいことというのはなんですか、『シエル・ヴィーヴル』管制担当官『ホワイト』、そして月萌の騎士たちよ」
「三日前の午後のことです。
ちょうど、ソリス領視察は一日目。
平原の村に戻った獅子<シンバ>家ライアン氏のもとを、あなたは訪れていますね。メイ・ユエ氏と一緒に」
レム君の質問には、すらすらと答えが返ってきた。
「ええ。『月萌との和平に反対するもの同士として』、話をしておきたかったですからね。
視察の場であまりおかしなことをされては、ソリスとステラの現状にもひびが入りかねません。戦端を開くのは、月萌とだけで充分ですので、そのあたりの確認かねて。
あとは『異国のけもみみ王子』たちを迎えることになった盟友を激励しに、です」
「塩を送りに、ではなく?」
「残念ですが、メイ氏も私も塩の商いはしておりませんので」
とぼけて見せるシグルド氏だが、レム君は調子を変えない。
「もうデータが揃ってるんですよ。
ライアン氏との話が、視察一行のおもてなしの話となり。できれば狩りができたらいいと言われたのちに、あなたは道すがら祈りをささげている。
その地点は、ライアン氏の村と、そこから三キロにあるサンドブルの定時出現地点を結んだ直線上。
翌日、そのあたりから平原の村に向け、連続的に『ウォーキング・ベル』が出現。それらを捕食することで、サンドブルの群れがまっすぐ村に向かっていったということがすでに確かめられています」
「私の普段の行いのよさゆえですね!」
「いえ、出発前に受けた祈祷のおかげでしょう。
出発前にあなたは、珍しく教会で祈祷を受け、『幸運』のラックバフをもらっています。それも、最大級の」
「……たまには、なにか役に立ってやりたいと思ったんですよ。彼らは戒律によって、スポーンエッグすら使用できないことになっているんですからね」
「本当にそう思っているなら、あなたはもっと別の手を講じる男です。
運任せだの精神論だの、軽蔑していたでしょう」
「さあ?」
「あなたはあくまで偶然を装って、『ウォーキング・ベル』をスポーンさせた。
平原の村でのもてなしが、安全性の高い試合ではなく、事故の起こりうる『狩り』になるように。そこで、3Sによる『事故』が起きるように」
レム君は兄という名の容疑者を、じっと凝視した。
耳ピョコはかわいい(断言)
次回、続きです! レム君は容疑を詰めることができるのか? どうぞ、お楽しみに!




