7-7 黒と黒の決闘(デュエル)!(2)
2019.11.28
すみません……受け身が取れなかったようですorz
彼女たちが老若男女問わず、声援を送る理由がよくわかる。
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老若男女問わず、様々な人が彼女たちに声援を送る理由がよくわかる。
「これじゃあらちが明かないわね。そろそろ決着つけましょう! いくわよっ!
『フォーリン・スター』……」
ルカは黒の翼を翻し、一際高く舞い上がってチャージ。
溜めが終われば全パワーを翼に宿し、地上に向けて鋭く羽ばたく!
斜め下方のターゲットにむけ、加速をかけたら翼をたたみ、剣を構えて一直線。
ルカのキメ技、『フォーリン・スター・ピアス』だ。
イツカの『ムーンサルト・バスター』と同じ、重力加速度を利用した突撃タイプの技で、まともに決まればストーンゴーレムすら一撃で仕留める鋭さを持つ。
対してイツカも剣を構え、溜め始めた。
肩の後ろに剣を引き、身体をねじったそのフォームは、野球のスイングに酷似している。
まさか、女子をかっ飛ばすつもりなのか? ギャラリーがざわつき始める。
しかし、おれは見た。降下するルカがニッ、と、いたずらっぽく笑うのを。
次の瞬間、イツカは剣を振りぬいた!
くの字におれたシルエットと、その中央に食い込むまっすぐな光が、絡み合うように回転しつつ、フィールドのはしまで飛んでいく。
「『キャンセル』!」
そしてルカは、地に伏すイツカの背中に座り、首筋にナイフを当てていた。
それはまさしく、瞬速の攻防だった。
あと3秒で双方激突するだろう、というところで、ルカはイツカに剣を放った。
同時にたたんでいた翼を広げ、くるり、背面飛行に移行。
投てきによる反動と、翼による制動によりルカのスピードは落ち、イツカの剣の軌道には降りてこない。
それでもイツカは剣を振りぬいた。
飛来するルカの剣を弾き飛ばすと同時に、イツカブレードを手放す。
そして発動、『短距離超猫走』。超速で跳びあがる。
それはベストの判断だった、と言ってよかったと思う。
剣を避けるために移動すれば、ルカを仕留める千載一遇のチャンスを棒に振ることになる。
かといって必殺の威力を宿した剣に刺されれば、流石のイツカでもやられてしまう。
ルカの剣を弾き飛ばしてその位置にとどまり、剣を棄ててフリーになった両手を駆使し、跳んで組みついて強引に、格闘戦に持ち込む。これがベストアンサーだ。
特訓で体得した呼吸は、完全に完璧。イツカはやれる、はずだった。
しかし、ルカはそれを、華麗な飛行テクニックでいなしてしまう。
イツカの目前でくるり、下向きループを描いて一旦下降、また上昇。
タイミングをはずされ、前のめりになったイツカの背後に下降してきて、そのまま背中に体当たり。
かくしてイツカは制圧された。
「降参する?」
イツカは声を発しない。
黒いしっぽが一度ぱたんと地面をたたき、そのままだらんと横たわる。
「イツカ、降参です」
おれが言葉で通訳すれば、歓声がフィールドを包んだ。
「ルナ、カナタ! ヒールお願い!」
空の女王はさっと地面に降りた。
ナイフをしまい、俺たちを呼びながら、イツカをあおむけにする。
そして、その傍らに足を延ばして座り、膝に頭を優しく載せた。
会場がどよめいた。そう、これはかの有名な、『ひざまくら』というイベントだ。
おれも動揺してしまう。彼女は、エルカのことが好きだったはずじゃ……
「え、あの……」
「なっ、なによ?! 地面に頭転がしっぱなしなんてかわいそうでしょっ?
……今のイツカは中身子猫なんだから。
そうじゃなかったらこんなこと、ぜったいしないんだからねっ!」
「あ……。」
「うふふ、カナタくんてばあわてんぼさん☆
ほら、いっしょにヒールしよ? せーのでいくよ~」
そういうことなら納得だ。恥ずかしさに包まれるおれに笑いが起きた。
ルナはかわいらしく笑いつつも、おれを回復に誘ってくれた。
二人で紡いだ光の輪が、イツカをひざまくらしたルカ、ルカに優しく撫でられるイツカを回復させていく。
やがてイツカが目を開けた。ややぼうっとした様子ながらも上体を起こす。
「はいっ、モフモフごちそうさまっ。金曜日は一緒にステージだからね! 忘れないでよ!」
最後にぽんっ、とその背中を叩くと、ルカは立ち上がってギャラリーに手を振る。
その隣ではルナが、白いスカートのすそをつまんで可憐に一礼。
二人はさっそうと走ってフィールドを出ていった。
アイドルバトラー『しろくろウィングス』。バトル動画は何度も見ていたが、やはり生で見ると本当にカッコいい。そして、さっぱりとして気持ちがいい。
老若男女問わず、様々な人が彼女たちに声援を送る理由がよくわかる。
けれどその声援は、相性と闘技経験では不利ながら、善戦したイツカにも向けられていた。
ナイスファイト。うらやましいが今回は許す。次は頑張れよ。そんな言葉が温かくイツカに降り注ぐ。
付添人にすぎないおれまで、おもわず胸が、目頭が熱くなってしまうほどに。
「――ありがとうございましたっ!!」
イツカを立ち上がらせて、二人の去った入場ゲートに一礼。ついで、ギャラリーの声援に手を振ってこたえる。
もっともイツカはまたぼーっとしていたので、おれが頭に手を添えて下げさせ、手を取ってフリフリさせたのであったが。
かわいいいいという声が聞こえるが、今回ばかりは仕方ない。そう、いまのイツカは中身が子猫なのだから。
ルカもうまいこと言ったものだ。きょとんとしたようにおれをみる顔はまるっきり子猫。
かわいらしく思えて、思わずいいこいいこしてしまう。
「みんなほめてるよ、イツカ。最後までよく頑張ったね。
さっ、戻ろう。ミライの生姜焼きと、おれのクッキー食べ……っ?!」
しかし、イツカの手を引いて歩き出したその瞬間、やつはばふっとおれに抱き着いてきた。
不意をつかれたおれは、横合いからうさ耳ごと抱え込まれてしまう。
何をしようとしているかはすぐにわかった。やつはおれをモフろうとしてるのだ!
フィールドが水を打ったように静まり返る。
ぶっちゃけ、腕力じゃかなわない。おれはあわてて声を上げた。
「タ……タイムタイムタイム!! ここじゃだめ!! みんなみてるから!!
ミライ、こいつログアウトさせて!! いますぐ!!」
「あっ、はい!!」
もちろんやつめは聞いてない。
おれはやむなくミライに頼み、イツカをログアウト。
同時に自分もログアウトして、難を逃れたのだった。
「あははは! あははは! いやー公開もふもふ二連発とか!!
いやーもー永久保存版だわ今日の決闘!! はーもーごちそーさま!!」
「イツカさん……ダイタン……」
「…………。」
ログインブースに意識が戻れば、アスカが笑い転げ、ソウヤとハヤトが顔を赤らめていた。
そのわきではシオンとミライとミズキがほわほわニコニコしていて、いつ現れたのかノゾミ先生が頭を抱えている。
「よかった、ふたりはやっぱりなかよしなんだね!」
「だね!」
「ほんとにね♪」
「おまえらな……。」
そしてイツカのやつめはいつの間にか、おれのうさ耳に顔をうずめ、腰のしっぽにもしっかり手を伸ばし、それは幸せそうにモフモフしていた。
そういえば、『みんなが見てないところでやれ』とは言ってなかった。
なんたる不覚。こそばゆく恥ずかしいながらも、叱るに叱れぬおれだった。
ま、またしてもブクマいただけましたー!
なんてこった! ありがとうございますっ!
次回、収拾編。意外と大変な事態だったようです。そのはず。




