61-4 『知識パック』の光と闇、そしてベルさん衝撃の告白!<SIDE:ST>
2021.07.04
誤字修正いたしました!
いつか→イツカ
「ええ。……あ、説明してませんでしたねこれ。
『成人の試練』を突破すれば、年齢がどうでも成人なんです。
喫煙、投票はもちろん、結婚だってできます。
これはソリスでもそうですし、ステラでもそうです」
レムくんが言えば、『シエル・ヴィーヴル』隊員たちはうんうんとうなずく。
「ただ、それだと社会活動的に不便なこともあるので、旧ステラ国領では例外があります。
便宜的に、平民階級の場合は16歳、貴族階級以上の場合は14歳から、基本的にすべて成人と認められるんです。
いずれにしても、月萌と違って成人前からお酒は飲めますけれどね。
ステラの地では水に溶け込む六元素の力が強く、井戸や川の水をそのまま飲むと、元素過多症など、体に悪影響が出ることもあるので」
「へえ~」
これは興味深い情報だ。六元素は地火風水聖闇、元素過多症は技の暴発などの起きる症状としてミッドガルドでおなじみだったものだが、成人の試練とは。そして、年齢による例外の理由とは。おれも前のめりにならずにいられない。
「『成人の試練』てどんなの? バトルと筆記試験とか?」
「はい。正確には技術試験と知識試験です。
高天原の卒業試験と違うのは、総合得点で判定がされるというところです。
極端な話、どちらか一方がたとえば0点でも、もう一方が満点ならばそれでOKなのです。
ただ貴族の子女の場合、12歳までに全員が『ステラ国知識基本パック』をインストールされるので、大きな事故でもない限り、本人が何もせずとも14で試練を受け、合格していくわけですが」
「マジに?! 勉強しないでいいのっ?!」
案の定イツカがめっちゃ食いつくが、すぐにその勢いを落とすことになる。
レムくんが口にしたのは、恐ろしい可能性。
「思想統制を受ける危険もありますよ?
たとえば、イツカさんやハヤトさんのような『赤竜』ですと、国の命令には絶対服従の思考回路を組み込まれる可能性があります」
「うぐっ」
自由人イツカが、最大級の嫌そうな顔になった。
頭のふさ耳も完全に水平だ。思わずよしよしと撫でてしまう。
ちなみにおれのとなりでは、アスカとハヤトが同じ構図になっている――すなわち、ふきげんアスカをハヤトが撫でてなだめている。
「実際、百年前まではそうしたことが行われていたそうです。
王族や高位貴族の場合は遺伝子レベルにまで手を入れられ、血が濃いものは国に、女神の任務とされるものに、過剰なほどの忠誠心をみせることがいまなおあります。たとえば、兄の……シグルドのように」
語り続けるレムくんの表情は、複雑なもの。
レムくんは、シグルド氏のことをただ嫌っているわけではない。そんな感じがした。
今そう聞くとハチャメチャになりそうなので、黙って先を聞くことにしたのだけれど。
「ステラ領を治める王族の方々は、そうしたことがないよう、常に学び、思考を統御し、現代のステラを導いているそうです。
僕は母が平民でしたので、そうしたことがなく。つねに自由にものを考えられるので、母にはとても感謝しています」
しかし話がお母さんのこととなると、レムくんは優しい笑顔に。その場の雰囲気も柔らかく緩み、再びイツカも口を開いた。
「んじゃあレムは、成人の試練受けるのに、めっちゃ勉強とトレーニングしたんだな!」
「いえ……半分は知力ブースト、半分はステラ領軍のおかげです。
僕に知識ブーストが発現し、従軍を志願した際にステラ領軍が知識パックのインストールをしてくれたので、即パスでした。
技術試験のほうは、てんでダメでしたけどね。
そこは入隊後に基本技術パックを入れてもらってから、全力でがんばりました!」
「えらいなレムー!
でも、やっぱ勉強はいるんだな~……」
耳を垂らしてがっくしうなだれるイツカ。
いちおう月萌最強ハンターのトホホな姿は、おれたちに笑いを連れてきたのだった。
「んでんで、ソリスではどーなん、成人の試練まわり! おしえておしえて!」
連絡はまだ来ず、興味は尽きない。今度はアスカが手をあげた。
ベルさんとリンさんとミルルさんが、てきぱきと、かつ仲良く教えてくれる。
「旧ソリス領の成人の試練は、各地方で違うんです。
たとえば空の民は、飛ぶ力を試される。平原の民は、平原で三日間、自力で生き抜くことができれば成人と認められることになってます。
年齢などによる例外規定は、……ミルちゃん、まだないんだよね?」
「うん。ソリスではまだ、年齢の例外規定はありません。
どこのであっても、試練を突破すれば、一人前。それまでは何歳であっても未成年で、成人のみの儀式や会合には出席できないと決まっているんです。
ただ、結婚は16からできますし、そのほかのことも上長の許可を得られればだいたいOKなんです」
「場合によっては別の土地に修行という名目でゆかせ、そこの試練を受けることもある。
たとえば私は空の民だけど、翼をなくし、空の民の試練をパスできる見通しがなくなったから、平原の民の試練を受けようとしてた。
結局そのまえにこっちにきて、試練も受けちゃったんだけどね」
「リンちゃんナイフ使いになるのかなって思ってたから、ガンナーになりたいって聞いたときは驚いたなあ……。
でもすごく似合ってる感じしたから、わたしからもライアン様にお願いしたんだっけ」
リンさんミルルさんが笑いあう。
そのとき、ベルさんがハッと息をのんだ。
至極真面目に言い出すことは。
「今……気が付きました。戦闘能力に欠けるうさぎのわたしが、平原の試練に行く羽目になった理由……
兎<アルネヴ>領の成人の試練は『家事一般』なんです。
実はわたし、料理がその……ちょっとまあ、アレでして……」
「……。」
『シエル・ヴィーヴル』専用ラウンジがほぼ沈黙に包まれた中、ジュディが無邪気に言った。
「あ! たしか前はベルちゃんの料理、毒耐性付与属性あったよね!」
「ジュジュ――!!」
叫ぶベルさんだが、ジュディはこともなげに言った。
「え、でもそれってなんか問題なの? 普通においしかったけど!」
「えっ」
「えっ?」
「え……」
それぞれ違う意味の「えっ」を発するおれたちだったが、うるうるしたベルさんの一言でそんなもんはふっとんだ。
「わたしジュジュとなら結婚してもいいかもしれません……!」
「えー? あたしもいーよー! ベルちゃんかわいいから!」
「ちょー! まってー!! まってくださいー!!」
あわてたレムくんの叫びにベルさんはあわててとりつくろう。
そう、おれたちはジュディとレムくんを何とかくっつけようとしてるのだ。これではいけない。
「ハッ、そうでした! ごめんなさいジュジュ、わたしは一生独身を貫くのでした!!
そういうわけなので……レムちゃん! どうかあとはお願いしますっ!!」
「あわわわわ、はいいっ!」
いろいろ丸投げされたレムくんが言葉を選びつつ解説するには。
「あの、ですね。あくまで一般的な話ですが、毒耐性を付与するアイテムというのは、摂取したものを毒状態にし、そこからの回復によって耐性を与えるという機序をもっています。
つまり大変いいにくいのですが、そもそも毒耐性を有する者以外にとっては、毒の状態異常に陥る可能性を有したアイテム、なのでして……
ジュディは『蜘蛛のクロン』の特性で、先天的に毒無効を持っているので毒状態にはならないと、そういうわけで……」
要約すると、毒、というわけである。
ベルさんが一生懸命リカバリーを試みる。
「い、いいいまはそのっ、改善されてますよ?! みんなにいろいろ教えてもらいましたし! アイテムができちゃうのはたまに! ほんのごくたまに、一年に何回かだけの出来事ですから!!」
ハヤトがアスカを見た。
アスカはハヤトのほうを見ないまま、おもいっきり肘鉄をお返し。ベルさんにはニッコリと手を差し出した。
「まーあるよねあるよねそういうこと! じつはおれもそーだしっ!
なんでかなーホント、やっぱ天才の宿命なのかなっ!」
「アスカさんっ……」
「おれたちさ。ひとりぼっちじゃなかったんだね!」
「はいいっ!!!」
輝く笑顔でしっかと手を取り合うポイズンクッキングうさちゃんず。いろんな意味で破壊力抜群だ。
でもうん、おれ天才じゃなくてよかったかもしれない。
なぜって、毒状態になってしまう料理なんて、ミライやソナタに食べさせたくない。たとえそれで強くなれるとしても、だ。
イツカのやつには百歩譲って、いいかもだけど。
そう思ってイツカを見れば、余計なところでカンのいい黒猫野郎はのたまった。
「カナタ? なんかこええこと、かんがえてね……?」
「ううん? ぜんぜん!」
「うそだあああ!!」
笑顔で返すと、イツカがにゃああと逃げ出した。
ライアンさんからの折り返しはまだだったけど、引き上げるにはいい頃合いだ。おれも暇を告げると、イツカを捕獲するため走り出すのであった。
のんびり進行ばかりでもアレですよね! そろそろ巻きで行き……たいところです。( ー`дー´)キリッ
次回、月萌サイド。
レンがもらった『秘伝の書』のなかみは……?
どうぞ、お楽しみに!




