61-3 体は子供、だけども? レムくんの大人宣言!<SIDE:ST>
怪しい者はすぐに割れた。
前日にシグルド氏がメイ・ユエ氏をともない、あそこを訪れていたというのだ。
イツカがうっしゃーと立ち上がる。
「っていうかほぼビンゴじゃね?」
「あり得ます。あいつ、手段を選びませんから。
あとはミルルさんがあいつと会っていれば、ほぼ確定でしょう」
レムくんは意気込んでミルルさんに確認してみたのだが、結果は外れ。
「シグルド様……ええ、いらしてましたけど、ずっとライアン様とお話してらして……
その間、メイ様にお琴を聞かせていただいて、それからみんなでお茶会をしたのですけれど、とくにわたしだけ、特別に何かということは……。」
ミルルさんは頭の回転が速い。自分にだけなにかがあったというわけでないと、聞かれる前に話してくれた。
これは手詰まりか、と思ったところでアスカが言い出した。
「ふーむ。
ところでさ、あすこの村って『スポーンエッグ』っておいてる?
ほら、モンスターを出現させるアイテムだけど」
ミルルさん、ベルさんは、はっきりと首を横に振った。
「いえ、そうしたものは。
『スポーンエッグ』の使用は摂理に反する、禁忌とされていますから」
「あー。
……やっぱビンゴだ」
「えっ?」
アスカが言うには。
「いやね。
あのときのサンドブルの群れ、いやーにタイミングよく来たなーって。
もしかしてスポーンエッグでも使ったのかと思ってさ。でも『超聴覚』使ってもそんな表示出なかったし」
「ええ」
ベルさんがうなずく。彼女も『超聴覚』もちだ、当然獲物の確認はしている。
「なんかどーも怪しいからさ、さらに深く聴いてみたんだよね。そしたら……
ほい、あすこにいたサンドブルずの履歴っ!
狩られる三時間前に、村の南東3Km地点に定時出現。でー、ウォーキングベルを捕食しながらまっすぐまっすぐ村に向かってる。
まるであらかじめ播かれたエサを食べながら、誘導されているようにね」
ウォーキングベル。ベル状の花から放つ音色でどんどん仲間を召喚する『動く植物』系モンスター。サンドブルなど、多くの草食系モンスターに捕食される存在だ。
かれらは仲間を呼ぶモンスターの常として、素材を集めやすい。さらに平均レベルもそこそこでレベル上げにいい。
そのため、そのスポーンエッグはミッドガルドでは広く、安価で取引される人気の商品だった――インティライムのマルシェゾーンでもそれは同じようで、木箱に入ってダース単位で売られていたのを覚えている。
ともあれ。
アスカが携帯用端末に表示したデータを見、おれたちの間に緊張が走る。
サンドブルは、出現後ひたすらまっすぐ、あの村へと向かっていた。
不自然だ。あからさまに、不自然だ。
「いやほら、おもてなしのためにそーっと呼んでくれた可能性もあるし、そこではなんも言わなかったんだけどね?
さらにもんのすごくい~いタイミングでミルたんの防具破損してたから、これはどっかに『仕込み』があるなと。
おれが調べたっていうと面目つぶしちゃうしさ、ベルたんがこれ、ライアンさんに出してあげてくんない?」
「……!!
わかりました。
すぐにこれらの地点、および周辺で探査をしてもらいましょう。
もしかしたら、何らかの痕跡があるかもしれませんっ!
ちょっと失礼して……」
ベルさんは急いで携帯用端末から通話をかける。
ワンコールで出たライアンさんに状況を伝え、アスカのデータを転送。
折り返し連絡するとの言葉をもらってから、アスカにありがとうを伝えた。
「ありがとう、アスカさん。
インティライムでのハニートラップ対策もクリティカルでしたし、なんとお礼を言ったらいいのか」
「ほんとです。あの日、本来なら僕は夜半過ぎから徹夜でモニターする予定だったのですけれど、それもなくなって。翌日すごく楽でした」
レムくんもぺこんと頭を下げる。
「いーっていーって。
イツカナをフォローしてあげるって点からいえば、おれたちはとっくに仲間じゃん? 水臭いことはいいっこなしだよん♪
つかそれよりさ、レムくんて11歳なんだよね。その歳で徹夜の仕事とかすんの?」
アスカはいーってといいつつしっかり右手でベルさんと握手し、左手でレムくんをなでなでし、しかるのちさらっと話をきりかえるというナチュラルハーレム野郎ぶりを発揮。いや大事なのはそこじゃない、レムくんが徹夜するという話だ。
そう、そもそもの話、『シエル・ヴィーヴル』のメンバーは、軍人としては若すぎる気がする――15のおれたちがいえたことではないかもだが、11といえば月萌では小学校4年か5年だ。
対して帰ってきたのは驚くべき答え。
「大丈夫ですよ、夜半からですし、その前後はしっかり休みでした。
11歳に完徹なんて無茶、マルねぇさまがさせませんよ。
まあ、僕は社会的には成人なんですけどね」
「しゃかいてきにせいじんっ?」
おれたち月萌勢はおもわず全員リピートしてしまった。
某名探偵を思い出します(爆)
次回、11歳の少年が成人である理由とは?
どうぞ、お楽しみに!




