Bonus Track_61-2 覚醒しなきゃ全滅しちゃうぞ☆彡 星女神さまの激アツスタート・バトル! ~アキトの場合~(2)<SIDE:月萌>
「はー助かった……死んだと思ったわ……」
「ごめん」
「いや、あれは、タイミング悪かった、だけだから」
セナが謝ってくれると、トラオはかぶりをふる。
するとエアリーさんはニコニコと……
「うんうん、ナイスフォローね! それじゃあもう一回」
「ちょっまっぎゃあああ!!」
2発目をぶっぱなしてきた。
うん、スパルタだ。まごうことなきスパルタだ。
俺たちはふたたびトラオを引っ張り、逃げ出した。
「わ、悪い……」
「こっちこそ……」
笑顔の局所的流星雨攻撃は、そのあともう三発続いた。
トラオをひっぱって夢中で逃げおおせ、ぜはぜはしてるとサクラちゃんの声が飛んできた。
「こーらー! 逃げ足おっそいトラちゃんがおとりになってどーすんのっ!
ここはセナちゃんとアキちゃんが上とんで、『メテシャワ』よけて『セレ・スフ』やぶらせるんでしょ!」
「そうだった!」
絶妙のタイミング悪さでこんなんなってしまったが、本来の作戦はそうだった。
「とっ、とりあえずっどうする俺っ」
「えーと、とりあえずいったん『瞬即塹壕』で埋まってて!」
「なんとなくひでっ!」
トラオは黙って澄ましてれば王子様なのに、ちょっとあわてるとこうして残念にゃんこになってしまう。
トラオが白にゃんこの耳を折りつつもざかざかとその場に穴を掘って埋まり、この場の俺たち全員がほっこりしたところで、いちはやくセナが浮上した。
「アキト、下お願い。
行ってくる!」
「って…… 了解! 気をつけて!!」
ホントのことを言うと心配だ。
万能すり抜け技と誤解されがちな『アーススイム』は、攻撃や防壁技そのものをすり抜けることは基本、できない――つまり、セナがこれからするのは、純粋に機動力頼みの回避、当たればアウトだ。
だから作戦では、俺と二人でこれをやることになっていた。
けれど、いまのでタイミングが狂った。もしかしたらエアリーさんは、ここで再び『プチスター・ストーム』を撃ってくる可能性もある。
「ちゃんと考えてるのね、偉いわ。
正解よ、『プチスター・ストーム』!」
はたして予感は当たった。いや、おれたちの工夫にこたえるために、エアリーさんが合わせてくれたのか。
俺はギリギリひきつけて回避。よし。
『セレスティアル・スフィア』はもう出てるし、今回『豊穣の角』はなし。なので、つぎは『プチメテオ・シャワー』、セナの番だ。
やれるやつなのはわかってる。でもなんとなく心配でセナを見れば、セナもきれいな海色の目で俺を見ていた。
『ソナー』があれば、わざわざ目で見なくとも状況は把握できるのに――こんなところを見るたびなんか、こいつと組んでよかったな、なんて思う。
セナは小さく笑うと、ぐるりと身をひるがえして余裕の回避。『プチメテオ・シャワー』は無敵の防壁の上に降り注ぎ、その耐久を削りはじめる。
「っしゃあ、これで……?!」
即席の塹壕からちょこんと顔を出し、様子を見ていたトラオが今度こそと飛び出した。
しかしやつは『あれっ』という顔になる。
「あんま、削れてなくね……?」
「ふふふ。
トラオはもう一度、エアリエイルのわたしと戦ってるでしょ?
だからこれはサービス。また天空神殿に来るなら、もっと別のバリエーション出すからね!」
「えええええええ!」
トラオの白猫耳がそりゃないよーと折れる。可愛い。
エアリーさんはそんなトラオにやさしく発破をかけた。
「ほらほら、がんばるがんばる。
覚醒するんでしょ? サリイといっしょに。
ここはふたりの合体技でドーンと! かっこよく決めてちょうだい?
ほら、サクラとリンカも、アキトとセナも。
みんなで力を合わせないと、今日のわたしは倒せないわよ?」
それというのは、つまり。
「最低でも『メテオリック・シャワー』なみの威力を、この六人で出さないと、か……」
セナと俺は顔を見合わせた(けっこう距離があるけど)。
「サリイさんとトラは合体技があるし、サクラちゃんはセイ・ブレあるけど……」
「ぶっちゃけ俺たち機動力しかないよなー……」
そう、俺とセナは破壊力より機動力。
飛んでかわして不意を突き、セナの『スタン・ソニック』で動きを止めてクリティカルで仕留める。もしくは、攻め疲れさせてから料理する。
だから、機動力を上げる方向での覚醒を目指していた。
なのにそれがまったく通用しない局面が、その直前でやってきてしまったのだ。
どうしよう、となってしまった俺たちを救ったのは、さすがのプリースト。リンカさんの柔らかな声だった。
「アキト君、セナ君。
大丈夫よ、機動力方向で。
二人にはもともと、ハイレベルのスピードとコントロールがある。
それを剣に乗せていけば、それがそのまま攻撃力になるはずよ」
「……!!」
ぴん、とひらめくものがあった。
セナも力強くうなずいてきた。
俺たちにはもう、はっきりと見えていた。俺たちの求めてきた覚醒、その形が。
エアリーさんも、ニコニコ笑ってうなずいている。
「うん、大正解よ!
あきらめなくっていいんだからね。機動力も、破壊力も。
そのほかだってほしければ、どんどん欲張りに、手を伸ばしていきなさい。
さあ、いらっしゃい! みんなのショータイム、はじまりよっ!」
女神様らしく杖を掲げた。
ぜんぶわたしが受け止めてあげる、というように。
ミッドガルド最強の女神の胸を借りて、みっつの覚醒が、いま始まった。
「いくぞ、サリイ!」
「オッケー、トラ!」
『シャスタのエンゲージリング』を掲げた二人が、同時に姿を変える。
それはまるで、『ふしふたアフター』の再現だ。
指輪の石からあふれ出す水が、意志があるかのように二人を包み、二人の装備をグレードアップ。
水の国の王子と、その婚約者の宮廷魔術師といった姿に変身だ。
もちろん、杖の先と剣のつかにかがやく、そろいの赤い宝玉はそのまま。
凍てつくがごとき清水と、燃え上がる灼炎を同時に操る、ロマンのかたまり状態だ。正直言ってカッコイイ。
「やれる、サクラ?」
「はいっ!!
お姉さまの……おねえさまのためならっ!!」
「ありがとう。わたしもがんばるわ。
……サクラのために」
一方でリンカさんとサクラちゃんも姿を変える。
向かい合った二人が、指を組み合わせ小さく祈れば、清楚な白と、かわいらしいピンクの花びらが吹き上がり、二人を包む。
舞い散る花びらの中、エアリーさんたちからもらった、ドレス風とメイド服風のひらふわローブが、梨とサクラの花の意匠をあしらい、さらに可憐に豪華にチェンジ。
まるっきり変身バトルヒロインだ。正直、もしもアニメになったら毎週録画して見たいレベルである。
正直この二組の後では、やりづらいと思ってしまいそうなとこだった。
でもなぜか、そんなことは全然なかった。なぜって。
「それじゃ、いこっか」
「そーそ! 俺たちは俺たちでね!」
セナがふわりと泳いできて、俺は翼を広げて飛んでって。
上空で合流したら、どうしたらいいかはすぐに分かった。
俺のこぶしと、セナのこぶし。グッとあわせたら、ぱあっと光がさしてきて。
キラキラ光る水の輪が俺たちを取り巻くと、おれたちの装備も輝きに包まれ、形を変えた。
シンプルイズベストの軽装備は、全体がより流線形のフォルムに近づいて、なんというか、めっちゃスピード出そうな感じで、すごく……。
「……カッコいいな」
「カッコいいなっ!!」
そう、俺たち的にドストライクのかっこよさ!
トラオとサリイさん、リンカさんとサクラちゃん。その二組ももちろんいいんだけれど、うん、これが一番かっこいい。
俺たちはうれしてうれしくて、ぱちんと手を打ち合わせていた。
「っしゃあ! いくぞォ!!
『コメット・ブラスト』ォ!!」
真っ先にいくのはトラオとサリイさん。
これまた『ふしふた』で披露していた合体突撃技だ――もちろんその時よりも、出力はずっとずっと上。5、6倍は優に超えているだろう。
続いて走るのはサクラさんだ。
リンカさんの全力支援をまとって輝きながら、流星のように一直線。
「『ウルトラスペシャル・とにかくすごい・超超全力わん・パーンチ』!!」
可愛いしぐさと可愛いネーミング、そしてかわいいチワワにくきゅうグローブが、無敵のはかいりょくを叩き出す!
そして、俺たちは。
「『水辺の俺たちは、最強最速』っ!!」
二人で呼び出した水の上を、ペガサスの翼と、馬の走力、イルカの泳力全部のせの全速力でダッシュ!
もし、失敗すれば顔面ビタンじゃすまないけれど――絶対大丈夫となぜか確信できた。
果たして、俺たち六人の全力は、ミッドガルド最強の障壁を打ち破ったのだった。
一話に収まらないかと思いました(爆)
次回、ソリステラスサイド。
ミルルちゃんが一服盛られてた疑惑が浮上?! どうぞ、お楽しみに!




