7-6 黒と黒の決闘(デュエル)!(1)
2020.07.31
『 腰の左側には、黒鞘に入った細身の剣。』追加いたしました。
メインウェポンを書き忘れる痛恨のミス……!!
そうして、おれたちは闘技場控室にいる。
モニターに映った観客席には、すでにギャラリーがずらり。
昨日の今日ということもあり、毎週定例試合のときほどの人出はないが、それでも黒VS黒の対決を見るためにとつめかけた人々の熱気は相当なものだ。
「イツカ、いける?」
「……。」
しかしとうのイツカは、まったくのローテンション。
返事したのは、小さく揺れたしっぽだけ。
どうしてこうなった。寝た(というか寝るのを許した)のは夜の二時半だ。
そして午前の通常授業も午後の実習も、『免罪符』使って休ませたのに。
ちなみに、午前中は爆睡するに任せ、昼になって起きだしてもまだダメな状態だったので、大好きな親子丼を出前し食べさせた。
はぐはぐはぐとあっという間に完食し、しばしのったり食休み。
その後、熱めのお風呂に入れてやり、手伝いながら身支度をすませると、部屋を出る時間。
いくよ、と声をかけると自分から立ち上がり、靴を履いて部屋を出て、まっすぐ歩いて闘技場にやってきたのだ。
しかしその間、いや今に至るまで、イツカはひとことも言葉を発していない。真顔のままで表情も変えない。
いつもバトルのまえにはハイテンションで、笑顔で軽口を飛ばしているはずなのに。
「ねえイツカ、どうしちゃったの?
カナタと、けんかでもした?」
「緊張してる、のかな……
イツカ、元気出して! おわったらおれが生姜焼きつくるから。ね?」
一緒についてきてくれたみんなもイツカを案じる。
シオンが心配そうに寄り添い、ミライもぽんと背中を叩きつつ大好物の名を出してやる。
すると現金なもので、やつめはぴんっとしっぽを立てた。
「しっ、しっぽでしか返事しない?!」
「意思疎通は、ちゃんとできるみたいだね。
おそらくバトルが終わってゆっくり休めば、だんだんに回復してくると思うよ」
「ま、まさかなんか、やばい薬でも使ったのか……?」
「うーん、これはちょっちハードにしごきすぎたのかなー?
ゆうべは学食にも来ないで部屋にカンヅメだったし☆」
ソウヤがあわわとびびれば、ミズキが優しく冷静に診断を下す。
それでもハヤトがいぶかれば、アスカがあははと笑う。心外だ。
「待ってよ。おれ、別にイツカにそんな、ひどいこととかしてないよ?
それは網羅するべきパターン多いから時間はかかったけど、イツカは何時間も一人で大物狩りしてることよくあったし……
それにちゃんと、毎回ポーション飲ませて疲労やダメージはしっかり飛ばして……」
「………………」
なぜかその場は静まり返った。あはは~と笑ってるアスカと、ロップイヤーのミズキ以外の全員が(そう、イツカのやつまでが)、明らかに耳を折っている。
「えっ、おかしい? おれいつもそんな感じで錬成してるけど……」
「うん、あとで、そのあたりについてゆっくり話そうか?」
「う、うん。わかった……」
ミズキがおれの肩に手を置いてそういう。
彼も含めてなぜか全員顔色悪いし、しっぽもめっちゃ垂れている。なんなんだろう。
おれの頭は?マークでいっぱいだが、ともあれいまはイツカを元気づけなければならない。
生姜焼きはミライが作ってくれるし、となるとおれにしてやれるのはこれぐらいだろう。
「ね、イツカ、元気出して?
ちゃんとラストまでバトったら、おいしいお菓子食べさせてあげるから。ね?」
「……」
イツカは小さく尻尾を振るのみ。不足か。ならば。
「しかたないな……特別だよ? おれのことモフっていいから。
だめ? 耳両方好きなだけ!
……ああもうわかった! しっぽもいいから! しっぽも! ね?」
イツカはようやく納得した様子。
ぶんっとひとつしっぽをふると、黙ってフィールドへの出口に向かう。
「はいはい、通訳ね。まったく世話が焼けるんだから……」
背後からなぜか、なんでわかるんだとかまさしく黒猫使いだとか甘辛のギャップがひどすぎるとか、よくわからない言葉が聞こえるが、とりあえず今は勝負だ。
気持ちを静め、おれはイツカとともにフィールドインした。
スタート位置には、すでにいつもの衣装のルカが待っていた。
スタンドカラーのノースリーブ。マイクロミニ風のスカートパンツ。
すらりとした足には、右ふともものナイフホルダーとショートブーツ。
腰の左側には、黒鞘に入った細身の剣。
アクセサリー的なものといえば、ナイフホルダーにあしらわれた銀の羽根のモチーフだけという、きわめてシンプルな出で立ちだ。
彩色は、黒多めのモノトーン。大きな黒、小さな白の三角を互い違いに重ね、全体にクールかつモダンな印象だ。
『真に美しいものは、飾らないほどに美しい』という、エルカの美学を体現したような戦乙女が、凛々しく堂々と立っていた。
彼女の姿を確認すると、ふわっとイツカの毛並みが立つ。
その目は完全に、獲物を見る目。
ルカは慌てた様子で問いかけてきた。
「ちょ……ど、どうしたのよこれ?
あきらかに人間じゃなくなってるみたいなんだけど?!」
「ごめんね、ちょっと特訓しすぎてビーストモードになっちゃったみたい。
それだけ気合入れてきたってことだから、許してやって?」
「……仕方ないわねっ。
でも、そんな手負いの獣みたいな状態じゃ、あたしは仕留められないわよ?
さあ、勝負よイツカ!! 負けたらこの場でモフモフ! そして金曜ミニライブよっ!!」
ルカは気丈に宣言して抜刀。
こたえるようにイツカも抜刀。
一瞬睨みあったのち、ふたりは同時に地を蹴った。
遅れて歓声が爆発し、新参黒猫と先輩カラスによる、プライドとモフモフをかけた決闘が始まった!
高天原学園では、模擬試合による『決闘』が公認されている。
チームの平均星級が二つ以上違ったり、賭けられるものが重大な場合は審査が必要になるのだが、そうでなければ原則、申請すればほぼ必ず即認可される。
いま二人が行っているのは『JUNO』。もっともシンプルな1on1の一本試合だ。
双方一名の立会人がいればよく、審判は不要――どちらか片方が『自力回復不可能な行動不能状態になる』か、降参することで勝者が決まるからだ。
もちろん、両者ともがそうなればドロー。和解してノーサイドというのもアリだ。
もっとも、今回はイツカがビーストモード。ノーサイドというのはなさそうだったが。
動きを見る限り、体力気力は完全に回復しているし、頭の冴えも悪くない。ルカの動きの特徴もしっかり体得している。
だが、ルカはミズキ以上の高機動タイプ。イツカとはそもそも、相性が悪い。
ルカの細い体は確かにパワーで劣る。耐久力もはるかに少ない。
しかし、力強い翼の羽ばたきは、彼女の剣撃に威力を上乗せする。軽い身体が可能にする身ごなしは、イツカの鋭い斬撃をやすやすと回避させる。
『短距離超猫走』を応用した高速ジャンプで追おうとしても、羽ばたき一つでするりとかわされてしまう。
せめておれかミライがいれば、アイテムや魔法で支援できるのだけれど……。
舞い上がって回避、鋭く降下して攻撃。
三次元的に踊るようなヒット&アウェイにより、イツカは翻弄され気味だ。
ルナ、そしておれは、付添人待機位置からそれぞれに声を飛ばす。
「がんばれー、るかー! その調子ー!」
「イツカ、無理に追わないで! 待ち伏せて確実に斬って!」
「あっまーい!! 止まったらみじん切りだぞー! そーれっ!」
ルカは滞空して溜め、必殺技『エア・スラッシュ』を四連発。
イツカはそれを、防御姿勢をとってしのいだ。
思ったほどダメージが稼げなかったのだろう、ルカは再び溜めて『エア・スラッシュ』。それもイツカは耐え抜いた。
よし。イツカの高い耐久力は、ルカの軽い斬撃によるダメージをあまり通さない。
うまくしのいで、ルカがしびれを切らすのを――勝負をかけてくるのを待つだけだ。
細い身体であれだけ激しく飛び回れば、消耗は当然大きい。
しろくろウィングスは『電撃決着スピードバトル』を信条としているが、裏を返せば彼女らは、その作戦でしか勝てないのだ。
ルカもそれをわかっているのだろう。しばらくイツカに攻撃を加えると、わかりやすく勝負に出てきた。
案の定二つに分かれました!
やっぱり剣狼戦は次章のようです……!




