60-7 咲き乱れるは百合の花園? 蒼穹の恋愛大明神!<SIDE:ST>
「そんなことが……
あらためてごめんね、リン。それに、ミルルも。
『鳥は空を飛べてなんぼ』って固定概念が、二人に苦しい思いをさせてしまったんだね。
そこはほんとうに、申し訳なく思ってる。
走る鳥も、泳ぐ鳥も、みんな鳥なのにね……」
バーベキューパーティーののち平原の村を見て回ったおれたちは、またしても『拉致』された……ルリアさんたちが変身した、でっかい鳥さんによって。
着いた先は、天高く浮かぶ浮島『天空島』。
いくつかの浮島が橋で結ばれた、まるっきりファンタジー世界のなかの景色。
ただ天空城の建つ中央の島だけには橋がなく、翼持つものか、それに連れられた者しか入ることができなくなっている。
さらには、天守と王族用の部屋を含む卵型部分『コアエリア』は、二階部分から一階分上に浮いているという丁寧さである。
おれたちはそんな天空城コアエリアの展望室で、ルリアさんとお茶会をしていた。
今日のルリアさんは気品あふれるブルーのドレスで決めて、まさしく女王様という雰囲気だ。
ドレス姿なのはルリアさんだけじゃない。
女子一同も全員色鮮やかなドレス、おれたち野郎ども(ハヤトももう元の姿に戻っていた)はスーツ姿。
おれたちの前に並ぶお茶とスイーツも、明らかに最高級品。
おれたちの後ろには侍従さんらしき人たちがさりげなく控え、なんともゴージャスな雰囲気である。
しかしルリアさんは、わりとそれまで通りだった。
「だから、ねえ。
あたしたちでそれをブッこわそう。
ライアンのつぎの平原の六獣騎士にミルルがなるの。
そしたら、走る鳥だってすごいんだぞ! って認めさせられる。
で、リンはあたしに勝って後を継ぐ。どう?」
「えっ」
「ルリアさま?! それは……!!」
「いつかの話よ。
あたしたちだって不老不死じゃない。いつかは年を取って一線を退き、後継者を決めることになる。
その暁にドーンと殴りこんで来いっ、てなコトよ。
そんときまで『飛べないやつはどうのこうの』なんてつまんないことのたまってる輩がいたら、あたしごとブッとばしちゃってちょうだい!
そうなる日まで、いえ、もしもそうならなくとも。
二人のこと、どうかよろしくお願いします」
ルリアさんは席を立ち、ていねいにマルキアに一礼した。
マルキアも優雅に一礼を返す。
「はい、お任せを。
……その日までソリステラスの平和を、守らなければね。
そのためには、月萌との和平を破らせぬことが必要だわ。
イツカ、カナタ。どうか、よろしくね」
そしておれたちはマルキアと握手した。
まさか、こんなことになるなんて――
イツカと掃除のことでけんかして、郊外へ飛び出して。
ジュディに警備モンスターと間違って捕獲され、悪役モードのマルキアに捕まった時には、こんなふうに握手することになるなんて、思ってもみなかった。
でも、わるくない。
腰を掛けて口にしたお茶の味は、これまた……
「でさ、でさ。
みんなこっちで気になる子いない?
もう明日帰りでしょ。つまり今夜が最後のチャンスだよ!
ここは恋愛大明神の異名をとるルリアさまにどーんといってごらんっ?
たとえばー、ベルちゃん。
あのうさちゃんと例のオオカミくん、どっちを選ぶのっ?」
「ファッ?!」
……格別だったが危うく噴き出すところだった。
気を利かせてくれた侍従長さんが『コアエリアの見学をなさりたい御方はどうぞこちらへ』と声をかけてくれたので、おれたち野郎どもは全力でさりげなく逃げ出したのだった。
コアエリアの見学、といっても、見られるところは限られている。
それはそうだ、ここは個人の居室も執務室もあるし、エリアに浮力を与えているなんらかの機構もある。いわばトップシークレットのかたまり、立ち入れるだけでも特別というものなのだ。
けれど渋いロマンスグレーの侍従長・セバスチャンさんは、そこを案内しつつ、そっと伝えてくれた。
「リン様のこと。ありがとうございます。
リン様はアリオン家の姫君であらせられましたが、ご幼少時、事故で翼を失われました。
選民思想に侵された者たちの中傷からご両親を守るため、リン様は自ら王家を出、翼を取り戻す努力を続けていらしたのです。
けれど、旅立ちのときのお顔はまるで、命を断ちに行く方のそれで……。
それがあのような笑顔を取り戻せたのは、皆様のおかげ。
ミルル様やライアン様。マルキア様たち『エルメスの家』の方々――そして、あなた方、月萌国の皆様のおかげなのです」
「えっ、おれたちはリンさんにまだ、何もしてあげられていないと思いますけれど……」
「とんでもない。
あなたがたの――とくにカナタ様、貴殿の活躍を動画で見て、リン様は大いに勇気づけられたのです。
ガンナーこそが、戦局を動かす司令塔となりうる『一番カッコイイ役割』だと。
けしてただ、目の良さだけのわき役などではないのだと」
「そうだったんですか……!」
誇らしさが湧き上がる。
おれの一生懸命が、絶望していた女の子を勇気づけていた。
こんなにうれしいことがあるだろうか!
「リンさん、あれで照れ屋だから言いませんけど。
今日あたりきっと言いに来ると思いますよ!」
「よかったな、カナタ!」
「よかったね、カナタおにいちゃん!」
「うん!」
レムくんもニコニコと言ってくれた。
イツカがぽんっと右肩を叩くと、ナツキも左の腕に抱き着いて。
アスカとハヤトも笑ってくれて、ほのぼのほっこりだ。
「国をたがえるもの同士、難局を迎えることもあろうかと思います。
それでもどうぞ、リン様と……そしてルリア様と。
いつまでもよき友でいていただけると、大変うれしく存じます」
「おれたちもそう思います。
どうか、……」
その時聞こえてきたひときわ華やかな声たちに、おれたちは全員凍った。
「だーいじょぶだいじょぶっ! マルキアはパレーナの好みドストライクだから!
きょうのクルーズの目標はメアド交換! しまっていくわよ!」
「おー!!」
「ありがとうルリア様。まさかこんな日が来るなんて……」
「だからもールリアでいいっての。マルキアおねえさまって呼んじゃうぞ?」
「あ、それいいかも……」
「いいですね……」
「いいと思います!」
『異議なしよ!』
「『お姉さま』が取れる瞬間もぜひ拝見したいものです……」
「ミルちゃんわかってるー!」
「わーん! お姉さま~妹たちがルリアをいじります~」
「もう、しかたないですね……ルリア?」
「キャー!!」
開いたままのドアから聞こえてくるのは、爆走ガールズトーク。
このなかにおれたちは入れない。入る勇気がない。
比較的耐性のあるはずのレムくんもフリーズ、能天気イツカすら耳を折って入ろうとしないのだから、これはほんものの魔境とみていいだろう。
「……よろしければわたくしのオススメスポットをご覧になりますか」
きっとよくあることなのだろう。セバスチャンさんはいい笑顔でそう申し出てくれたのであった。
ガールズトークもまた楽し。
次回、職人街をめぐってクルーズ船に乗り込むまでを描く予定です。
いやはやほんと忙しいツアーだな! お楽しみに♪




