Bonus Track_60-7 地下闘技場の覚醒とパワーアップ!~コウの場合~(1)<SIDE:月萌>
『マリアージュ発生:プレイヤー・コトハとけも装備『ホンドタヌキのしっぽ』のエンゲージレベルが限界突破しました。
スペシャルスキル『スイート・ミルキィ・レイン』が解禁されました』
響いたのは、そんな声だった。
フィールド全体に降り注ぐのは、優しい雨。
真珠のようなあたたかな色合い、甘い香り。たぬきの毛のようにあたたかく、柔らかな手触り。
ひとつぶひとつぶ、降り注ぐたびに回復していくのがわかる。
TPも、HPも。
そんな奇跡をひきおこしたコトハさんも、すっかり装いを変えていた。
シックなチャコールグレーのメイド服ふうローブは、清楚なイメージを失わぬままにグレードアップ。白のフリルはさらに重なり、各所に繊細な金の縫い取りが施される。
その背中には十字と翼の模様が浮き出し、まるっきり聖女さながらの姿だ。
コトハさんは自分の姿を確認すると、眼鏡の下の目元をぬぐう。
「わたし……できたんだ……
うれしい。これでもっと、助けてあげられる。
ありがとう。ほんとうに、ありがとう……」
なんて、なんて、けなげなんだろう。
聖女だ。まさしく聖女だ。
俺たちはこころまで奮い立った。
ミズキさんとダイの動きに、キレが戻ってきた。
しろーさんは立ち上がり、ふたたび狐火を。
タマもまた浮かび上がって、バブルリングを飛ばし始める。
俺は俺の描いた『幸運』の錬成陣に手を加え、ランクアップを図っていく。
「おいおい色男! お前それでいいのかァ?
いとしの姫君にあそこまでさせといて、お前ができませんでしたじゃシャレんなんねェぞ?」
狐火をはらいのけ、イズミの一撃をいなしたレイジが絶妙のタイミングで煽ると、フユキはやわらかな声でこたえた。
「……ありがとうな」
そのまま、フユキも姿を変えた。
『ふしふた』で着ていた衣装を思わせる、貴族っぽい黒コート。
背中にはコトハさんとおそろいの、十字と翼の模様。
聞こえてきたシステムボイスは、意外なものだった。
『『森猫の耳』のスペシャルスキル『お姉ちゃんのためなら』が上位進化しました。
スペシャルスキル『すべて、愛する者たちのために』が解禁されました』
大事な時に空気の読めるしろーさんは、狐火をいったんストップ。
イズミもその場で一度止まる。
レイジが剣を構えたまま、それでも別人のように優しく笑った。
「その目。受け入れたんだな、そのありかたを」
「ああ。
俺とナツキは、物心ついたときからずっとずっと一緒だった。
いうなれば、ふたりでひとつ。
いまさら完全分離とか、どだい無理な話だと気が付いた。
たとえナツキが別の身体を得たとしても、俺はやはりナツキに助けてもらうし、俺も、ナツキを助ける。そしてふたりで、コトハを守る。
……そうしていこうと今決めた」
場内のモニターに大写しになったフユキの顔。ふんわり微笑むその瞳は、はちみつ色とあかね色の、オッドアイに変わっていた。
「そっか。……そっか。
あー。レイジさんもーなごんじゃったわー。かわいいナツキのうれしそーな声がきこえてさー。
よーしここはさらにギア上げていかねーとなァ!」
「そこは和解でドローじゃないんかいっ!」
立ち上がれるほどに回復した、ニノがツッコミを入れた。
「何言ってんだ上司ども。まだお前らが残ってんだろーが。
お前らは、この世界をもっといいもんにしようとしてる。
それは、ホンモノの正義だ。
欲に負けて汚しちまった、俺のちっぽけな『セイギ』と違って。
せめて、糧にしてくれよ。世の中もっとやべぇ奴はいくらでもいる。そいつらにあった時、お前らの正義をくじかれねェためによ!!」
レイジの背中で、輝くようにまっしろな翼が広がる。
「オラ来いや! とりあえずお前らが覚醒するまでどんどんいくぜ!
頼む、グリ! エンヴィ、ラスト!」
大画面のなかのレイジの身体には、複雑な文様が描き出されていく。
腕には黄色で。胴体と足に紫で。
最後に、瞳に蛍光グリーンで。
一言で言うなら――改造天使。
一目でわかった。ヤバすぎると。
『ソアー』も月萌杯で同じようなことをやっていたが、体への負担を考えてだろう、ここまでの出力じゃなかった。
けれどいま、目の前のレイジはそうしたリミッターを全ブッパしているのが明らかだ。
ルーレアさまがあわてた声を上げた。
『ちょ、レイジ、それはやりすぎ!
わたしは退くよ。ミズキたちもそっち加勢してあげて!』
外でイケメンがケンカをしておりまして遅れました。
ええ、茶トラさんと白黒さんです。
切りが悪いのでもう一回続かせてください……!m(__)m




