Bonus Track_60-6 闘技場に、やさしく甘い雨が降るまで~コトハの場合~<SIDE:月萌>
フユキくんはナツキくんとのユニゾンを、あっという間に身につけた。
いまでは、長年使い慣れたスキルのように、簡単にチカラや言葉を伝え合うことができる。
だからこそ、悩んでる。
ナツキくんの力を。自分のものじゃないはずの力を、当然のように借りてしまうこと――それが、ナツキくんのしあわせの邪魔になる。
そう、考える段階にいま、きているのだ。
こちらにくるまえ、フユキくんはナツキくんに伝えた。
次のバトルでは、ナツキくんの力を一切使わずに戦う。もしも力を貸してくれと言われても、スルーしてくれと。
ナツキくんは、まよいながらも飲みこむように、うん、と返事した。
わたしは、めいっぱいフユキくんを支えつづけた。
でも、戦況は予想以上のはやさで厳しくなっていった。
ルーレアさまもレイジくんも倒せないまま、わたしたち五人のクラフターは、手持ちのアイテムをほぼ使い切ってしまったのだ。
ミライくんも、広範囲高威力の神聖防壁を使い続け、限界が近い。
決断したのはイズミ君だった。
「フユキ、二分間だけ頼む。
ニノ、クロックアップ! さきにルーレアさまを倒す!」
「了解だ!」
「了解。俺の限界は気にせずぶちかませっ!」
「サンクス!!」
フユキくんが一つ押し込むと、ニノくんが輝く。
同時にイズミくんが、銀の尾を引く流れ星になった。
ダイトくんを、ミズキくんをとびこえて、黄金の竜の全身を閃光が走る。
「よし! 俺たちも畳みかけよう!」
「はい!!」
すでに疲労の色の濃い二人だったけど、声を掛け合い、ラッシュをかける。
よし。わたしもできることを。
さいわい、ルーレアさまもレイジくんも、私たち後衛までは手が回らない状態だ。
わたしはすばやく地面に陣を描く。
ここまでアイテム投げで戦ってきたおかげで、わたしにはTPもBPも、HPだってまだ残ってる。
それを、みんなに分けるのだ。
書きあがった陣に、用意してあったオーブを配置。
所定の場所に手を置き、力を流せば、わたしの身体からオーブへと、それらの力が流れ込んでいく。
まっさらの透明なガラス玉から、真珠にも似た宝玉と変わったオーブを、わたしは一つずつ投げていった。
まずは、いくつも傷を負わされながら、レイジくんの攻撃を防ぎ続けるフユキくんに。
つぎに、神聖防壁を何度もかけなおし、戦場全体の安全を図り続けるミライくんに。
「おい、コトハ?! これは!」
「コトハさん、これ!」
フユキくんとミライくんは、すぐになんだかわかったみたい。
驚いた声を上げるけど。
「だいじょうぶ、まだ、余裕はあるから!
どんどん投げていくわよっ!」
そう、守ってもらったおかげで。
動きの素早いダイトくんとミズキくんは、ちょっとむずかしいけれど、着地の瞬間を狙ったら、なんとか命中。
「ありがとうコトハさん……頑張るよ!」
「ありがとうございますっ!」
イズミくんはさすがにわたしもほとんど見えないから、ニノくんにふたつまとめて。
「サンクス! っしゃあ、もっと飛ばしていくぞ――!!」
それから、騎士団のクラフター三人組に。
「えっ待って、俺たちもまだポイントは余裕がっ」
「みんなはわたしより、錬成魔術がうまいし、攻撃に使えるスキルもあるわ。
わたしのぶんまで、お願いします!」
「心得た!」
すぐに、シロウくんが走った。
狐装備用スキル『フォックストロット』でレイジくんの側面に回り、『狐火』を繰り出す。
弱体化の追加効果もある炎攻撃が、フユキくんを援護してくれる。
わたしにはとてもできない、大胆な行動だ。
「さすがはコトハさん、冷静な判断力です!」
タマキくんは『バブルリング』で空中にそのまま円を描いて飛ばしていく。
まるでチャクラムのように、するすると飛ぶリングは二種類。
銀色に輝くほうは、あっさりとミズキくんとダイトくんに命中。『幸運』『水の守り』の補助効果を与えた。
その一方で暗い青のリングは二人をよけてルーレアさまに。水属性のダメージを与えていく。すごいコントロールだ。
「ミズキさんやダイの援護は慣れてますからね。
それより、その球。あと何発くらい投げられますか」
と、タマキくんはわたしに聞いてきた。とっさにわたしは――
「えと、二発くらいなら」
「そうですか。
ではあとはもう、休んでいらしてください。
これ以上をやらせたらフユキさんに叱られます」
きつめの数字をこたえてたけれど、ばれてしまっていたらしい。
そう、あと二発つくって投げてしまったら、わたしはもう動けないはず。
タマキくんは「いいですね」とくぎを刺すと、ふたたびバブルリングを繰り出し始めた。
コウくんはというと、地面に描いた陣で、『幸運』をかけていた。
みんなの名前を書きこんだ陣が、一人ぶんひとつずつ、地面にずらっと並んでる。
すごい速さと正確さ。おかげで戦況が有利に傾き始めた……と思った、そのときだ。
「みんな悪い、ニノが限界だ!」
イズミくんが前線離脱。ひととびにもどってぱっと抱えたのは、後ろ向きに倒れていくニノくんだった。
「え? あれ? ここ、てんごく……?」
「なわけないだろバカ狐!
いいかもう休んどけ、あとはもう使うな、いいな?!」
「いや……いや。ここでやらなきゃ、どこでやる……」
そうだ。ここでやらなきゃどこでやる。
タマキくんはもう休んでいなさいと言ってくれたけど。
わたしは描いたままの陣に手を置いた。
正直、頭がくらくらしていた。
手だって、ちょっとしびれていた。
でも、やるんだ。
だって、フユキくんが戦ってる。
だから、わたしも戦うんだ。
ミズキくんとダイトくんは声を掛け合い、自分より何倍も大きな黄金の竜を相手に、粘り強く戦い続けてる。
ミライくんは気力を振り絞ってまた神聖防壁をかけなおした。
シロウくんはレイジくんに吹っ飛ばされたけど、あきらめてない。
タマキくんが防御技を展開しながら、救援に向かう。
イズミくんが飛び出していった。
ニノくんも起き上がろうとしている。
コウくんは懸命に、陣を描き続けてる。
そしてわたしの頭の中には、アシストをがまんして送る、ナツキくんの声援が響いてる。
そうだ。ここでやらなきゃどこでやる。
でてこい、わたしの、本当の、力――
音が消えた。
頭の中が真っ白になった。
けれど、わたしは倒れなかった。
ぽつり、わたしの手にふってきたのは、優しい、ミルクのようないろあいの、命のめぐみの雨だった。
どうやら地下闘技場に覚醒ラッシュがやってきそうです?!(ラノベタイトル風に)
そんなわけで次回は、こちらの続きをお送りいたします。
どうぞ、お楽しみに!




