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<ウサうさネコかみ>もふけも装備のおれたちは妹たちを助けるためにVR学園闘技場で成り上がります!~ティアブラ・オンライン~  作者: 日向 るきあ
Stage_7 アイドルバトラーずの進撃!

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7-5『しろくろウィングス』との出会い(下)

「すみません先生――!! 実習が長引いて――!!」


 見れば、濡れ羽色の髪をショートにした、活発そうな少女がひとり。

 すらりとした足でスカートのすそを蹴立てんばかり、猛烈な勢いで走ってくる。

 ちなみに、肩の向こうでパタパタしている翼も同じ黒。たぶんカラスのものだろう。

 そのとき、おれは気づいた。彼女が、いや、彼女たちが何者かということに。


「おやおや、ルカ。

 いいんですよ、慌てなくとも。

 すべてレディというものには、男を待たせる権利があるのですか……」

「ちょっとちょっとそこどいてどいてどいてそこの男子――!! あぶなっ」

「へっあっわあああ!! ちょっまっわあああ!!」


 エルカはゆったりと『ルカ』に微笑みかけた。

 しかし彼女の方はゆったりというわけにはいかなかったようで、というか加速をつけすぎてもはやブレーキが利かなかったようで……


「……ら」


 三秒後、彼女は見事にイツカを下敷きにして倒れていた。

 見た感じ、怪我はなさそうだが、ノーダメージというわけにはいかなかったようだ。

 ふたりともうめきながら、動けずにいる。


「イツカ、生きてる?」

「たぶん……」

「えと、とりあえず『回復ヒール』! だいじょうぶ、ふたりとも?」

「立てますか、ルカ? 念のため医務室に参りましょう」


 みつあみ少女が、どこかおっとりとあわてて『回復ヒール』をかけてくれた。

 エルカが手を差し伸べれば、黒髪少女『ルカ』はそれを頼りに立ち上がる。


「だ、だいじょぶです……彼が、クッションになってくれたので……

 ごめんね君、大丈夫?」

「だいじょば……ない……」

「これはいけませんね、すぐに参りましょう。

 ルナ、ルカに肩を貸してあげて一緒に来てください」


 エルカはひょいとしゃがみこみ、イツカを抱き上げ歩き出す。

 それを見た『ルカ』は、愕然とした様子でつぶやいた。


「お、お姫様抱っこ……あたしもまだやってもらってないのにっ……」


 さすがに声は殺していたが、残念なことにうさみみ装備のおれには丸聞こえである。

 彼女もすぐにそれに感づき、気まずそうにしながらもささやいてきた。


「いまのは他言無用よ、いいわね?」

「基本的にOKだけど、詳細はきみの行動によるかな?」

「イツカが目を覚ましたら、ちゃんと謝るわ。その……カナタにもごめんなさい」

「ありがとう、ハルカさん。おれまで気遣ってくれるなんて、うれしいよ」

「っっっっ……べっ、べつにそんなんじゃないからっ!!」


 ちょっとだけ意地悪ごころがうずいたので、笑顔で軽くジャブを放ってみたが、かえってきた反応はまっすぐなもの。

 もともといじめるつもりもないのだ。もういいよと笑いかければ、なぜか彼女は顔を赤らめる。ぷいとおれから距離をとる。肩を貸している『ルナ』を引っ張る勢いで。

『ルナ』はひっぱられながらもなぜかニコニコ。

 黙って一部始終を見物していたタカヤさんも、なぜかいい笑顔でグッ! とサムズアップ。車に乗りこみ去っていく。

 ちょっとわけがわからないところはあったが、おれたちと『しろくろウィングス』、元祖アイドルバトラーユニットはこうして対面を果たしたのだった。



 保健の先生によれば、イツカは軽い脳震盪を起こしていた、とのこと。

 けれどほかにけがもなく、『ルカ』『ルナ』、そしてエルカさんまでがちゃんと謝ってくれたので、おれとしてはとても怒る気にはならなかった。

 とうのイツカも鷹揚なもので、『これも何かの縁だし、そのうちバトろうぜ! さっきの突撃マジ効いたしな!』なんて言っているのだし、これはこれでいいだろう。

 すこしばかり談笑し、じゃ、またねと三人が背中を向けたとき、ふいにイツカが大声を上げた。


「あ――!! しろくろ!! お前たち『しろくろウィングス』だよな、その羽根!!」


 その瞬間、ぴくっと『ルカ』の黒翼が震えた。

 ふりかえった彼女は、もっのすごーくいい笑顔。

 そう、半端なく、ブチ切れていた。


「ねえ、なに、それ?

 アンタ、わかんないで話してたわけ、ここまでずっと?

 さらにそのうえ宣戦布告? へ――え。

 つまり格下だと思ってナメた口きいてくれてたわけなんですか。ふ――ん?」

「へっ? べつにそーゆーわけじゃ」

「あんたに決闘を申し込むわ!! バトれてちょうどいいわよねっ!

 明日の放課後、闘技場に来なさいっ。

 あんたが勝ったら許したげる。でも負けたら、今週のクールタイム、あたしたちの代わりにステージパフォーマンスで歌ってもらうから。

 レモン・ソレイユ『夏色アドベンチャー』! 出来ないなんて言わせないからねっ!!」


 そして一方的にまくしたてると、ぷんすかと医務室を出ていった。

 エルカさんも困ったように申し渡す。


「うん、今のはちょっと弁護できないね……

 どんなレディにもプライドがあるものなんだよ、少年。

 彼女とのバトルで、それをしっかり学ぶといい」

「ええ……俺べつにあいつを馬鹿にしたつもりなんかねーんだけど……」

「うん、わかる。

 ただね、るかはすごくがんばってるから、自分を知らないっていわれると怒っちゃうの。

 せっかくイケメンの後輩がグイグイきてくれてちょっとうれしいなーっておもってたとこだし」

「おもってま・せ・ん!」


『ルナ』がほわほわとのたまいはじめると、戻ってきた『ルカ』がヘッドロックで制止し、ずりずりずりと医務室の外に連行していく。


「行きましょう先生っ、打ち合わせの時間なくなっちゃいますし!

 ルナ、いまのはあとできっっちり話しましょうね?」

「ごめんねふたりともー、またねー」


 女子二人の姿が廊下に消えると、エルカさんはおれにささやいた。


「ルカは『PAW☆PAW☆スイーツ』のマカロンが好きなんだ。あとで持っていくといいよ」

「ありがとうございます。お世話かけます」



 * * * * * 



「……はっ? イツカはあたしたちを知っていた?」


 それから、小一時間後。

 おれがそのことを伝えると、『ルカ』はマカロンをつまむ手を止め、大きな瞳を瞬いた。


 あれからすぐ、おれは教えてもらった洋菓子店にマカロンを買いに走った。

 事情を話して頭を下げればお店の人は、快く『ルカ』が好きなマカロンを詰め合わせにしてくれた。

 もちろん、『ルナ』の分のセットも忘れない。

 正直なところ、けして安くはない出費だった。もちろん、経費なんかじゃ落とせない。

 しかし、してしまったこととこれからのことを思えばけして高くはない。

 おれはきれいにラッピングされたマカロンつめあわせと小さなコサージュ、そして、おとっときの茶葉を携えてふたりの寮室を訪ねた。

 そして、作戦通りの言葉を伝えた――すなわち、『イツカは本当は『しろくろウィングス』を、二人のことを知っていたのだ』と。

 もちろん『ルカ』はけげんな顔だ。


「じゃあなんで別れ際になって、あたしたちだって気づいてるのよ?

 ま、まさか、本当は打ちどころが……」


『ルカ』は自分で口にしておいてさっと青ざめた。

『ちょっと導火線は短いけれど、さっぱりとした人柄』。噂通りだ。

 そのセンでハナシを進めるというのは、だから永久になしになった。

 おれは正直に打ち明ける。


「イツカのやつ、服装変わるとわかんなくなっちゃうんです。

 ほら、男ってけっこう、いくつになってもそういうとこあるじゃないですか。

 とくに二人の場合は、強いカッコいい絶対勝ちたいって何度も何度もバトル映像みまくって、いつもの衣装のイメージで固まっちゃってるから、なおのことで……

 あの衣装だとハルカさん、『クールでちょっぴりセクシー』路線だから、どうしても制服との乖離が激しいみたいで。なにマジふつうに可愛いじゃんって感じで」

「ちょ……なにそれ、ええっ……

 そ、そんなにあいつ、あた、あた、あたしのこと……」

「るか、それかくざとう。マカロンはこっちよ」

「ええ。とってもすごいアイドルバトラーだって、思ってますよ」

「そ、……やだ、あたしったらそしたらっ……

 謝りに行くっ!! 決闘なんてなしよっ!!

 あたしたちのファンの子に、あたし、あんなひどいことっ……」


 ばっと立ち上がった『ルカ』の目には涙。

 けれど、おれは彼女を引き留めた。


「悪いと思っているなら、一つお願いを聞いてくれますか?

 明日の決闘は取り下げないで……

 イツカのやつめを、ボコボコにしてあげてください」

「え……っ?!」



 この件をノゾミ先生に報告したところ、スパッと言われたのだ。

『教育的指導をお願いしろ』と。


『この件は向こうにも多分に非がある。

 だが、そこをついて決闘を取り下げさせても何の得もない。

 むしろイツカにはそろそろ『口に気を付ける』という事を学んでもらわなければならんからな。とくに、女性に対して。

 幸い、いまのイツカはほぼ確実に『ルカ』には勝てない。

 思う存分やってもらえ。その程度でイツカは潰れる男じゃない。そうだろう?』


 おれとしては隅から隅まで完全に同意だった。

 そのため、即座にマカロンとお茶でお願いしたのだ――我が相棒への教育的指導を。



「憧れのアイドルバトラーに倒されるなんて、むしろご褒美ですから。

 ほらあいつ、ポテストでみんなと必殺技合戦やってるでしょ?

 あいつ、バトルが大っ好きなんです。大ファンへのサービス、兼、後輩への育成指導と思って、ビシバシやってやってください♪」



 いや、おれたちは、うそはついてない。

 確かにイツカにとって、『ルカ』は目指すべき目標の一人。

 その強さには、確かな憧れがある。

 ただその程度を少しだけ盛らせてもらって、時間軸を少しだけ前後させただけである。



 はたして寮室に戻ると、イツカは涙目でおれを出迎えた。


「カナタ……おまえあいつになにいったの……?

 モフモフとかモフモフとかステージ一緒とか! しかもなんかテンションおかしいし!!

 殺されるの? 俺あいつに殺されるのっ?!」


 やつが突き出す携帯用端末ポタプレには、『ルカ』からのメッセージ。


『ホシミ イツカ様

 突然のメール、ごめんなさい。

 どうしても今すぐに、あたしからの気持ちを伝えておきたくて……。

 事情はカナタから聞きました。

 そうとも知らずにあんなことを言ってしまって、本当にごめんなさい!

 おわびは、明日。闘技場でします。

 今のあたしの全てをイツカにぶつけるつもりでいくから、イツカもどうか、全力で来てください。

 よろしくお願いします! LUKA


追伸 負けたらモフモフもOKってことだったけど、イツカのほうだけじゃ不公平だし、イツカが勝ったらあたしの翼も触っていいから。そのときは、優しくしてね。

 ステージは、一緒に出ましょう。イツカの歌声、楽しみにしてます!』


「……ふつーに情熱的で好意的なメールに見えるけど?」

「うそだ――!!

 だってあいつが俺に好意的になるとか!! つい一時間前にあんっだけブチ切れてたのに! ありえない意味わかんない!!

 っていうかモフモフってなにっ? 知らないし聞いてないんだけどっ!!」

「あ、それね。

『イツカが負けたら、最悪金曜日の試合に出られる程度で許してもらうかわり、その場でモフっていい』って約束させられちゃった☆」

「うそおおおお!!」


 爆発しろ。そう言いたいのをこらえてニコニコと応えれば、ソウヤとアスカもイツカをあおる。


「えぇーまじー?! そんなみんなの見ている前でー!! やーだーえっちぃー」

「がんばれイツにゃん! ここはむしろモフられる方向で!! エンタメコンテンツにもふもふとイケにゃんとえっちぃ絵は必要不可欠だから!!」

「いやああああ!!」


 ちなみにミライとシオンとハヤトは、別室でミズキに見張ってもらっている。

 こんな言葉、ミライとシオンには聞かせたくないし、ハヤトはこの作戦をしったが最後、ぶち切れて事態を無茶苦茶にしかねないからだ。


「そんなこと言わないっ。

 いい、お前は『しろくろウィングス』、とくに『ルカ』の『隠れ大ファン』なんだよ?

 憧れのアイドルバトラーとの念願の試合。その前にやらなきゃならないことは何?」

「……遺書を書くこと……?」

「特訓だよ、と・っ・く・ん!!」


 ミソラさんも言っていた。

『幸いふたりは、ある程度『しろくろウィングス』についても研究してるよね。

 イツカはそれを今夜中に究める。

『ルカ』にどれだけ情熱を持ってるかを行動で示せるくらいに、彼女の呼吸を覚えこむの。

 それさえできてれば、たとえ寝不足のボロクソで負けても「楽しみすぎで……」で言い訳は立つからね。』


「乙女心を味方にする! これが今回のミッションだから。

 おれもつきっきりで協力するし、今夜は全力で頑張ろうね、イツカ♪」

「わああああん!!」

ブックマーク!! いただきました!!

ありがとうございます!!

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