Bonus Track_60-3 フユキの迷いと地下へのおまねき!~ミライの場合~<SIDE:月萌>
「コトハに問題はないんだ。シャスタ様も、順調に覚醒に向かっているとお墨付きをくれた。
問題は俺のほうだ。
……やはり『森猫の耳』の覚醒はあくまでナツキのもので、俺のものではないのではと思ってしまうんだ」
細かいところは本人たちから聞くがよい、ということで。
ふたりの参加をOKすると、すぐにフユキとコトハさんはやってきた。
「俺も、この覚醒によるブースト効果は、完全にではないが発動させられる。
けれどやはり、違うと思ってしまうんだ。
そもそも俺がここにいるのも、ナツキあってのものだ。
勉強もスポーツも、自分でも少しおかしいと思うくらいにできていた。
3S検査を受け、『暴食』の宿主になっていたと知って、やっと得心がいった。
それもこれも、身の内に宿った『暴食』の力によるもの。俺本人の本来のチカラでは、なかったんだと」
フユキはおさとういっぱいの甘いコーヒーを飲みながら、そう打ち明けてくれた。
「俺本人はもう割り切っている。力がないなら、つけるだけだ。
いずれナツキは自分の体を得、ひとりの人間になる。いつまでもナツキに頼っているわけにはいかない。
俺は、俺の力で守るんだ。コトハを、仲間を、――そして、ナツキのことも」
フユキは、ぐっと拳を握る。
「ナツキは俺のなかで抑え込まれていたせいで、まだまだ子供だ。頼りないところも多々ある。俺が、守ってやらないと」
「フユキ……」
まるでお父さんみたいなその姿に、おれたちはちょっとうるうるきてしまった。
でも、これは言っちゃダメ。と思っていたらダイトくんが。
「フユキえらいな……もうりっぱに父ちゃんだ……」
「えっ」
フリーズしたフユキに、コウくんが無邪気に追撃。
「うんうん、ちゃんとお父さんだよ!」
「ええっ」
「ふたりとも、そこはお兄さんって言ってあげよう? ごめんねコトハさん、急にへんなこといって」
「あう、いえ、はい……」
そう、フユキはもちろん、そのとなりのコトハさんももうまっか。
ミズキがフォローするけれど、さらに赤くなっちゃう。
「若いって素晴らしいな。」
「いやシロウいくつなんですアンタいったい。」
「今年で18だが」
「……………………とりあえず話を元に戻しましょうかみなさん。」
シロウくんがツッコミに大真面目に答えたのをきっかけに、タマキくんが軌道修正。
フユキが咳払いをして、再び話し出す。
「現実的に考えるなら、いまはこのままナツキのチカラを使って戦い続け、とにもかくにも卒業を目指すべきなのだろう。
就職先も、このことを正直に打ち明け、理解してくれる先にすればいいと……最悪、コトハがそのあたりはどうにかするとまで言ってくれている。
けれど、こうも思う。自分の力をまるごと再構築するなど、どれほどかかるかわからないものを、働きながら……それは非現実的だ。コトハの負担も、大きすぎるだろう。
ならばいっそ、コトハには信頼できる別のバディと先に卒業してもらい、俺はその後を追いかけるというのではと考えたのだが……」
コトハさんが、ぎゅっとフユキの袖口をつかむ。
フユキは、わかっているというようにそっと腕を添わせて。
「コトハは、それは絶対に嫌だと……
俺と、ナツキと離れず、守り続けたいと。
ナツキも、それでコトハや俺を守れるなら、自分はこのままだっていいとまで言ってくれている。
けれど、そんな二人だからこそ俺は……。」
「そんじゃ、とっととやっちまえばいいんじゃないか、フユキ?
第一がおまえのじゃない気がしてるってんなら、サクッと第二覚醒しちまえよ」
と、横合いからゴキゲンな声が聞こえてきた。
目を上げれば、ニノ。そして、イズミが立っていた。
「いやーイェリコしゃちょーきっびしーわー。
『でしたら、いますぐ覚醒なさればよいことですわ』ですって! ニノさんうっかり別の扉ひらいちゃいそーってあいたたギブギブちょっイズミとれるとれるからいたたた」
イズミにヘッドロックされてギブギブと腕を叩くニノは、なんだかたのしそう。
その姿を見てフユキはひとこと。
「アテがあるんだな?」
「おう。
行こうぜ、イーパラ地下闘技場。
ルーレアさまもそこにいるってよ」
森猫のおみみはふっさふさー♪
近日中にスピンオフを上梓いたす予定であります!(背水の陣)
次回、ソリステラスサイド。のんびり郊外ツアーと意外な? 事実。
どうぞ、お楽しみに!




