60-1 ハニートラップを叩き潰せ! 白うさちゃんのもふもふ配信大作戦!<SIDE:ST>
ルゥさんたちとの打ち合わせ、お風呂にご飯も終わって、あとは寝るだけのころ合いだった。
イツカをたずねて、美しいお客さんが来た。
屋根伝い、ベランダに忍んできた彼女らを、イツカは拒まなかった。
イツカがしなやかな背中に優しく指を滑らせるたび、甘やかな声が上がる。
そしてイツカも、満足げな吐息を漏らす。
「うにゅーん」
「ごろごろごろごろ」
「はーにゃんこ……にゃんこ……しあわせ~……」
そう、いままさにイツカは、宿の看板にゃんこ二匹をひざにのっけてご満悦である。
にゃんこたちもイツカのなでなでがお気に召した様子で、すっかり甘えてる。
微笑ましい。微笑ましいが、うらやましい。思わず口にしていた。
「うんうん、イツカは今日はブラッシングいらないねー」
「えええ!」
「おお、ハーレムにゃんこに正妻ちゃんからのジェラシーが! いいねいいねー、やっぱスキャンダル映像はこーでないと」
「ってなに動画取ってるのアスカは」
「ええー。そりゃーモフモフ同士のモフモフシーンは絶対撮らなきゃ~。きみたちのモフモフ画像は全世界が待ってる宝だかんね!」
アスカはというと、とんでもないこと口走りつつニコニコ動画取ってる。もしかして。
「……それ、配信してる?」
「もっちのろんよー! さあさあカナぴょんはそこに座っておれたちにブラッシングされつつドールちゃんたちのブラッシングね!」
「あざとっ!」
「そりゃーアイドルおーじさまたちの初海外プライベート画像ですから!」
おれは思わず叫んでいた。なんつうあざといこと企みやがるこのうさちゃんは。
とはいえ、拒むべくもない。
なぜならその理由は、おれにも想像ついたからだ。
しょーがないなーといいつつ、おれもブラッシングを開始。
しばらくすると宿のスタッフさんがにゃんこたちを迎えにきて、イツカのにゃんこタイムは終わりを迎えた。
ブラッシング、やっぱなし……? と寂しげに甘えてくる(しかも無意識の上目遣いだ、こいつめ)イツカをざくざくブラッシングしてやったら、今日はもう寝ることにした。
アスカの手により潰されてない隠しカメラがひとつ、部屋の中を映し続けていることを知らないふりして。
このソリスで堂々と、月萌との和平に反対している人といえば、ライアンさんだ。
彼は約束してくれた――『俺たちは和平に反対している。だが、卑劣な手段でそれを達成するような真似は許さない。安心して、視察に集中してくれ』と。
短い付き合いではあるが、彼はまっすぐな、信用できる人だと感じた。
自分の言ったことを果たすために、ベストを尽くすひとだと。
けれど、その力が及ばないこともないとはいえない。そして、今ここにいる反対派のすべてが、彼のような人であるとはいえない。
たとえば――横丁の物陰から、不穏な視線をよこしてきた者たち。
かれらがとってくるだろう手のなかで、もっとも厄介なもの。それは『ハニートラップ』である。
いまのおれたちの身体には、そうした機能は搭載されていない。けれど、夜中に誰かを部屋に入れて、あんなことこんなことをした、させたということをでっちあげられる、それが一番厄介なのだ。
昨日のコテージは、パレーナ八世の支配地域にあった。もしそこで事を起こせば、海の民が敵に回るし、犯人もすぐに挙がる。
しかしここ、インティライムはすべてのソリス人の土地。裏を返せば、誰の土地でもない。犯人は警備のスキを突き、雑踏に紛れて逃げおおせることが可能だ。
そのたくらみを叩き潰したのが、アスカによる全世界ライブ配信なのだ――みずから隠し撮りカメラまでしかけての。
これまでもダンス練習動画配信をはじめ、いろいろな動画配信を手掛けてきたアスカが、いつものようにノリノリでそれをやるのは、むしろ自然なことだ。
これがおれたちだけだったら、どうなっていたことか。
おそらく、だが。
さきほど、宿のスタッフがにゃんこを回収に来た。
これを使って、でっちあげがなされたことだろう。
あのスタッフのふりをした人物と、自称・それをたまたま見ていた人物が、マスコミに向けて偽証して。
目的を同じくする同志とはいえ、ほんとうにアスカにはお世話になりっぱなしだ。おれももっともっと、できることをしたい。そう、強く思った。
もちろん、お世話になっているのはアスカだけじゃない。
ハヤトやイツカ、ナツキとバニー。
『シエル・ヴィーヴル』のメンバーや、女神様たち。
六獣騎士やその周りの人たち。
いまのおれたちのホームベースである、ステラマリスの町の人々。
そして月萌でおれたちの『帰り』を待つ仲間たち。
そのなかにはおれのことを、好きだと言ってくれるひともいる。
彼らのために、いまおれは、何ができるだろう。
『うさプリスマイル』で落ち着いて振る舞い、ときにイツカの手綱を取るほかに、何が……。
そんなことを考えていたら、いつの間にか寝入っていたらしかった。
両手ににゃんことかうらやましすぎて悶えます(爆)
次回、月萌サイド。ノルン山にいったイーブンズやM2たち。
どうぞ、おたのしみに!




