59-5 武器は結婚? ソリスのうさぎの戦い方!<SIDE:ST>
ソリスにおいて「人口はチカラ」です。
もちろん、かわいいは正義です。
「あー……
たしかにクローリン様がここに立つことはまずありませんね。
うさぎはそうなるまえに手を打ちますので」
ルゥさんは自分の黒うさ耳を指さした。
顔にはちょっといたずらっぽい笑みを浮かべ、明るい口調でさくさくと。
「我々は非力な分、知恵と魅力を磨き、人脈と情報に通じ、生み育てるチカラをはぐくみます。
よって、かりに誰かが我ら相手に横車を通したとしても、それはただ一時のことにとどまります。
最悪、そいつの一族は没落しますから」
「えっ」
いまなんかとんでもないことを聞いた気がする。
おれとイツカとハヤト、そしてナツキは思わず顔を見合わせた。
アスカと、やつの頭に乗っかったバニーはわかったようで『まあ聞きなよ』というにんまり笑顔。
「没落……ですか?」
「ええ。
俺たちは、ちっちゃくてか弱くて、優しくけなげなうさちゃんです。
それに無体をやらかせば、ソリスのほとんどが敵に回ります。
さらにはお嫁さんが来なくなります。
周囲から孤立し、優秀な次代を残せなくなった家に未来はないのです」
「ま、マジか」
やっぱとんでもないことを聞いてるおれたち!
なんかちょっと怖い話のような気がする。けれど、聞かずにはいられない!
「あの、お嫁さんが来なくなる、って……」
「ふふふ。うさぎトーテムの女性はみな、愛らしく多産な良妻賢母。ソリスでは引く手あまたの『最高の花嫁』なのです。
しかし、元締めである兎家の許可なしに、お見合いはできません。
ソリスはだいたい、世代交代がはやいですからね。他家はナイスなお嫁さんをもらってどんどん繁栄する一方で、自分とこには……となったら勝負は見えたというものです。
もちろん個人と個人の恋愛は自由ですけどね。その結果の結婚に兎家は文句は言いませんし、困った時には手助けもちゃんとしてくれます。もちろん、結婚しないのも自由です」
ルゥさんが目をやった先には、腕組みをしたベルさんがいた。
白く短いうさみみをパタパタさせて、彼女は言う。
「わたしは自分の人生を生きたい。ステラの技術はその道を与えてくれた。……父上と和解できたからって、わたしは戻らないから」
「……っという女性もちゃんといる、というわけです」
自慢げに笑ったルゥさんのその顔が、なんだか寂しげに見えたのは、たぶんおれだけじゃないようだ。
ベルさんもふてくされたように横をむいて、その場は微妙な空気につつまれた。
「あのー、そうなるとうさぎの男性はどういう位置づけに……」
とりあえず、このままというわけにもいかない。
おれは軌道修正兼ねて、気になった点を聞いてみた。
するとルゥさんは切り替えたのだろう、もとのように陽気に笑ってまくしたて始めた。
「そりゃーもう、愛らしくって元気で家事も育児もどんとこいの理想のお婿さんですとも!
どういうわけか、ソリスで生まれるうさぎトーテムは圧倒的に女性なんですよ。だから男が生まれたって知れるともう大変な騒ぎで。
一カ月間だけでも婿にきてくれ、その間は好きに遊ぶかたわら夫婦生活をしてくれればいい、ってハナシが成人前からわんさと押し寄せるんですわ。
……うらやましいって言われますけど、これはこれで大変なもんですよ。俺みたいないかれポンチならまだしも、内気な子とかは可哀想です。
そんなわけでうさぎの子は、性格が定まるまでは対外的に性別不明とされ、箱入りで育つことがけっこうあるんです。
存在公表されたときには一通り花嫁花婿修行終えてデビュタントってこともままあります」
「もしかしてルゥさんも、そうだったんですか」
聞けばルゥさんは、腰に手を当ててHAHAHAと笑った。
「やーまっさかー!
俺なんか物心ついたときはもう女の子と遊ぶために家抜け出してましたから! ご近所のほとんど全女性は老若男女とわず俺の恋人でしたから!」
「マジ――?!」
なるほど元気な少年だったと、そういうわけだ。一部おかしな表現が混じっていたような気がするんだが、そこは突っ込まないことにしておこう。
ベルさんはふかくふかーくため息をつく。
「あの。ルゥのような見境なしはむしろ例外なんで。うさぎトーテムがみんなこういうのだとはけっして思わないでくださいね」
「あ、いや一部誤解があるようですけど、俺が大事にしているのはココロのつながりでありましてむしろ」
「はいはいそーですね!
というわけで本日の行程は終了です、おつかれさまでしたっ!」
そして強引に宣言すると、しっしと手を振ったのであった。
元気ってのは……元気ってことですね! 深い意味は(ry
次回、新章突入。月萌サイド、今回の合宿のまとめと次回への展望です。
ノルンに行ってた一行の様子も語られるかと。どうぞ、お楽しみに!




