Bonus Track_59-5 おくる愛とこたえる愛と! 終結、テストバトル!! ~ハルキの場合~<SIDE:月萌>
俺たち全員の注目するなか、兄貴はてへっといったかんじで笑ってる。
ほんわかほんわかのたまうに。
「俺たちといったら、やっぱり山じゃん? だから、頑張っちゃった。
あ、その山ね、花も咲くから」
「え?」
「きーくんも俺もお花好きだし。カナタの覚醒見ててあれいいなーって。
そう思ってたら、できちゃった」
のんびりとそういう間にも、あちこちから芽吹く花、花、花。
聞くまでもなく、パワーアップ効果付きの花である。
ご丁寧に、高山植物だ。
目立つのは、青むらさきのしっとりしたリンドウ、燃えるようなピンクのアルペンローゼ、つやつや黄色いバターカップ。見ているだけで元気が出てくる。
白くてモフモフの姿が可愛いエーデルワイスはないけれど、そういうこともある。
「………………えーと……あー、どうも……」
「うん!」
効果範囲は数百メートルほど。しかしフィールドに発生した高低差も、百メートル近くある。
ぶっちゃけ、もはや神の所業といっていいレベルの大技だ。
けれど本人にその自覚はあるのやら、ないのやら。
ほんわか笑って――あ、後ろ向きに倒れた。
ナナさんに優しく受け止めてもらっているが、うらやむ気にはなれない。
「さすがにちょっと、頑張りすぎちゃったかも。
ごめんね、しばらくの間、お願い……」
「しばらくってもうこの後は休んでていいからっ! 顔真っ青だし!
だいじょぶです、クレイズ様。つづき、やっちゃいましょう!
ここで水入りにしたら、むしろ兄貴ががっかりします!」
さすがに心配そうな視線をやるクレイズ様に、俺から声をかけた。
クレイズ様も、うん、とうなずき、断崖の谷越しにこちらを見据えた。
「心得た! ならば来い。決着と行こうかっ!」
そして、ひょいと岩肌を蹴り、こちらに向けて跳ねてくる。
もちろん俺も跳躍だ。
大丈夫、俺には、できる!!
はじめて動画で見たイツカさんの跳び猫バトルは、俺の目に胸に焼き付いた。
年下でちま可愛くて、冒険者ランクだって俺より下なのに、すごくすごく、輝いて見えた。
その日から俺は、あれを目指して練習を始めた。
さいわい、岩肌を身軽に渡るシャモア装備は、そのスタイルに向いていた。
兄貴に見守ってもらって、最初は、低い岩から岩へ。
ときどき足を踏み外しながら、体で覚えていった。
その間にも、どんどん俺を追い抜いて突き進むイツカさんを、まぶしく追いかけた。
そうして高天原でぎりぎり、そのしっぽにおいついた俺に、イツカさんは『同じ、ぴょんぴょん仲間』としてコーチをしてくれた。
――だから、できる。
飛び違いながら、剣とこぶしをぶつけ合う。
その衝撃を利用してもろともに飛び離れ、再び岩肌を蹴る。
ぶっちゃけ、ここまでガチに空中戦したのは初めてなのに、不思議なほどに危なげを感じない。
それどころか、ジャンプのタイミングを調整し、クレイズ様とぶつかる位置をほぼ一定にすることすらできている。
クレイズ様はこぶしを繰り出しつつ、瞳を輝かせて笑う。
「ほうほう、なかなかセンスあるぞハルキ!
ふふっ、こんなバトルは久々じゃー!」
「ってクレイズ様も余裕じゃないですか!」
「そっりゃー女神じゃからの!
どうした、遠慮はいらんぞ。撃ってこいユキ、念願の大技じゃろう?」
と、クレイズ様は上空を見上げ声をかける。
そこには、旋回しつつパワーチャージを行うユキさんの姿があった。
その様子は明らかに、いつもと違う。
ユキさんがくるくると飛ぶほどに、まわりから風の力が集まっていくのだ。
なかでも高密度に凝集したものは、青く輝く木の葉のような形になっている。
頃合いよしと見たのかユキさんは、ホバリングに入った。
「それじゃ、遠慮なくっ!
離れて、きーくん!
――風よ集え、放てコノハ!『コノハライド』ッ!!」
そうして、大きく巻き込むように、すらりとした足を一閃。
風のチカラの葉っぱを無数に含んだ旋風が、はるか空から襲い来る!
その威力たるや、クレイズ様に両手で防御をさせたほどだ。
その余波も想像以上。余裕をもって回避したはずの俺だけど、油断すると吹き飛ばされそうだ。
「うむ、うむ! 愛の連係プレー、よいではないか、よいではないかッ!
さあハルキよ、お前もなんかやってみるがよい!」
「えっあっ、愛ってその、ちがいますクレハさんそんなつもりじゃっ」
思わぬ言葉に慌てれば、後ろから兄貴の声がした。
「きーくん、きーくん落ち着いて。
ほら、あそこ。クレハが、ユキさんを支援してるじゃん? あれのことだよ」
「え……あ……」
ふりかえればそこに兄貴がいた。一体どーやっていつのまに。いやこういう時の兄貴は『えっと、なんとなく』しか返ってこない。俺はあきらめて素直に兄貴の示す方向を見た。と、岩山のふもと、じいっとユキさんを見上げるクレハさんが見えた。
その瞳は清らかな輝きを宿し、まるで星空で一番まぶしい一等星のよう。
その時思い出した。クレハさんの覚醒の名は『タテガミオオカミの星眼』――見つめる視線が支援になる技。なるほどなるほど、愛である。
うらやましいなーなんて思ってると、兄貴が優しく謝りながら、はげましてくれた。
「きーくんはとりあえず、兄の愛で頑張って!
ごめんね、彼女じゃなくてね」
「まったくもー、お人よしすぎだよ兄貴ってば……
よーし、えっとじゃあ……じゃあ……そうだっ!」
うーんと気持ちを集中すれば、うすぼんやりと見えるものがあった。
それは、スゥさんの特訓のさなかに見えたものだ。
エーデルワイスのように白く、モフモフとした美しい姿。
追いつこうと駆けだせば、三日月を思わせる角がきらりと光り……
気づけば俺は、黄金に輝く剣を手に、クレイズ様に向けて跳んでいた。
湧き上がるもののままに、放つ一撃、全力で!
「いきますっ! でっやあああああああ!!」
クレイズ様が俺に向き直り、本気のガードを展開。
それでも俺は、食らいついた!
インパクトの瞬間、はっきりと感じた。
体全部で、確かな手ごたえを。
「……よし。掴んだな。
それがお前の覚醒だ、ハルキ」
聞こえたのは、優しい声。
見えたのは、それはうれしそうな笑顔。
「大切に、伸ばすがよいぞ」
けれどそれらはすうっと、安らかであたたかな闇に消えていくのだった。
エーデルワイスの画像を見てみたら、想像以上にモッフモフ!
かわゆいです*^^*
次回はソリステラスにて、うさぎの六獣騎士のなぞに迫ります。
どうぞ、お楽しみに!




