59-4 黒猫騎士さまはネコカフェを御所望です? インティライムの市場ツアー!<SIDE:ST>
「食材とか、実用品を本格的に求めるんなら、この先のエリアですね。
町の中心部分は、大規模なマルシェゾーンになってます」
ルゥさんが少しテンションを落ち着かせて示した先には、大きなアーチ。
その向こうには、月萌では見たことのないような光景が広がっていた。
大きな噴水広場を中心に、店、みせ、店。
青空露店の海を抜けると、小さな店舗。奥に行くにしたがって、大きな間取りの建物が姿を現すという配置のためか、もはやアニメか何かでみるような構図だ。
そのなかを、買い物かごを下げた人、籠を背負った人、荷車を引いた人がゆきかう。
呼び込みの声や値切り交渉も、へたすればお祭り通りより活気があるほどだ。
「大雑把な傾向として、森からつづく東南の門と、平原から続く南西の門の方面には、農産物やお茶、衣類や家具など植物製品が。
平原から続く南門と海から続く東門から続く方には、猟や漁による動物性のいろいろを扱う店が多いですね。
そうそう、もしここを歩くなら、フェイクでも買い物籠くらいは持っていた方がいいですよ。
もしも手ぶらで歩くと、求職中の収納スキルもちと思われてあっつーま群がられます。
あと、横丁には入らないこと。
ずっとここに住んでいる者や顔なじみならともかく、一見の旅行客さんは危ない目に逢わないとも限りませんからね」
「はーい! ……あっ猫ちゃん!」
イツカが手を上げて素直に返事した。一番危ないやつにかぎって返事はいいものである。案の定、舌の根も乾かないうちに横丁に向かって身を乗り出した。
「はいはい、視察中に現地妻を探さない!」
「ひどっ!」
うさみみロールで素早く捕獲しお説教をくれると、話が聞こえていたらしき周囲の人まで陽気に笑う。
その笑顔は、底抜けに明るく見える。けど、物陰に潜む者たちまでが同じ顔をしていると思ったら大間違い、ということなのである。
実際、そこここの横丁の奥から感じた視線に、不穏なものもいくつかあった。
目つきや身ごなしからして軍人とわかるマルキアたちが付いている以上、そうそう下手なことはしてこないだろうが、それでもそちらに近づく気にはなれない。
「まーでもそういうとこに穴場のお店もあったり……ゴホンゴホン。
そのへんはいずれ、オフの時にでもお話ししましょうね~」
つまりおれたちがそうしろっていったら、『夜間営業』のお店にもご案内してくれるってことである。大胆なほのめかしだ。
だがそれは残念ながら、がきんちょイツカには通じなかったようだ。
「穴場のネコカフェ……!」
「いやイツカ、それぜったいにちがうから。」
「え」
アスカがHAHAHAと笑ってのたまうに。
「ネコ化できるイツにゃんだとシャレにならないね~」
「えっ」
たしかにそうだ。おれもうなずく。
「あー。そうなったらルナとセレネさんに申し訳立たないからちゃんと捕獲しとかないとね~」
「おまえら。
済みませんルゥさん、先をお願いします」
ついにハヤトが軌道修正にのりだし、止まっていたバステキは再び動き出した。
インティライムのマルシェは、明日にはここにないかもしれない、だからこそ輝きに満ちたものたちにあふれていた。
つやつやとした野菜や魚。どんっとぶら下がる肉や毛皮。
うまそうなにおいを漂わす屋台料理や、甘い香りの花や果物。
あやしげな美術品や、喉を焼きそうなお酒、ツボいっぱいに入った茶葉や、オリエンタルなお香のわきに、質実剛健な日用品や、武器・防具などもずらりと並ぶ。
照り付ける太陽に負けない、とりどりの色や香りは、目に鼻に焼き付く。
どこか酔ったような余韻は、マルシェゾーンを北に抜けてからもしばらく続いた。
イツカはもちろん、ハヤトもアスカもちょっとぽーっとしたようすである。
「すごいですね、こんなの見たのはじめてです。
……なんかぼーっとします」
素直にそういえば、ルゥさんは得意げに笑う。
「市場酔いですね。はじめてここに来た人はだいたいなるんです。
ちょうどこのへんに、落ち着ける店があるんで、いったん休みますか?」
おれは一同を見渡した。特に休みたいという人はいないようだ。
最年少のレム君と、体が弱いというアスカも、心配だったが大丈夫そうだ。
「いえ、大丈夫です。
マルシェ北は職人街と行政施設があるんですよね。どうせなら、そちらを見てしまってから一息つきたいかなって」
「了解です!
それではまったりと行きましょう。
クラフターのみなさん、職人街にはまたいらっしゃいますよね。概要をお伝えするので、気になるところピックアップしといてくださいね」
「はい!」
ニッコリ笑うルゥさん。この瞬間おれたちクラフターのあいだで、ルゥさんの株がドンと上がった。やっぱりこの人、ガイドは天職だ。
「もちろんハンターとプリーストの方にも追加オプションをご用意してありますよ。
そこはのちほど打ち合わせましょう」
イツカは俺が全身コーディネートするようになってから、あまり装備に興味を示さない。闘技場などあったらヒャッハーと飛び込むだろう。もしくはマルシェで買い食いか。
ハヤトはプリースト方面に少し興味があるようなので、プリースト兼業のレム君やマールさんといっしょに見て回るかもしれない。
ともあれ、それはあとだ。
おれはいったん見学に集中。特に気になるところはメモをとり、いくつかの質問をしながら、職人街と行政施設エリアの視察を終えた。
「今ごらんいただきました通り、職人たちの住まいやアトリエは、北東エリア、職人街に多いです。
議場などの行政施設は北西に。
もっとも最大の施設は郊外に展開する『戦いの丘』です」
……いや、終えてなかった。
「行政施設なんだ?」
「ええ。
ここソリスでは、『最後は決闘』ですから。
どうにも意見がまとまらない場合には、決闘で決を採ることがあるのです。
六獣騎士がチカラで選ばれるのは、そのためもあります」
「え……」
いままさに、目の前で開かれた北の門。
そのさきにはかつて見た、海まで続く風の荒野。
それを背にして立つうさぎ男をみたとき、おれは疑問を覚えた。
「いや、いや! クローリンさんは戦わない……ですよね?!」
『一見の旅行客』って意外と言いづらいことに気が付きました。むきになって練習しました(爆)
ネコカフェって甘美な響き……(´-`*)
次回は月萌サイド、テストバトルがおわりま……終わるといいな!
どうぞ、お楽しみに!!




