Bonus Track_59-3 目からうろこ? クレイズ様の恋愛講座!~ハルキの場合~<SIDE:月萌>
「あ~……何やってんだろ俺……」
走って走って息が切れて、やっと立ち止まったとき、俺はがっくり落ち込んでしまった。
こんなことしてる場合じゃないのだ。はやく覚醒して、テストバトルでその力を確かなものにして。ほかの婚約者候補の人たちより、俺がふさわしい、って思ってもらえるようにならなきゃならない。
だってのに、俺ときたら。
皇女様と結婚したなら、俺も王族の仲間入り。こんなふうにいちいち気持ちをダダモレにしたり、飛び出したりしていたら、今よりずっとたくさんの人たちに迷惑がかかるはず。
だから、直そうとしてきた。
フユキさんにきいたコツ――『心を凪いだ水面のようにするんだ。つねに黙って、静かであるのがデフォルトだと思い続けることだ』をできる限り実践して。
けれど、気が付くとやらかしてしまう。
「どうしたらいいんだろ……」
フユキさんは子供のころから何年も努力して、あのクールさをはぐくんだ。それをきゅうに俺が真似しても付け焼刃。それはわかってるけど。
「付け焼刃にすらならないって! もーダメすぎだろー!」
叫んでしまってから口を押える。こういうとこがダメなんだ。
「はああ……クールになりたい……」
もちろんそれだけじゃダメなのはわかってる。
学ぶこと、身に着けるべきことは山積みだ。
けれど……
「こんなガキまるだしじゃ、そもそも婿選びの土俵にすら残れないよ……」
「ふむ、はたして、そうかの?」
「わああああっ?!」
膝を抱えていたら、目の前の地面ににょきっと頭が生えてきた。クレイズ様だ。
「おぬしらの婚姻が、純粋に国家としての和合の証としてのみなされるものなら――
人柄などは関係ない。ドンとかまえておればよいわ」
よっこらしょっと全身生えてきた女神様は、ドンと腕を組んでみもふたもないことをおっしゃった。
「その場合おぬしがまずすべきことは、父上らに頼み込むことじゃろうな。他家に根回しをしてくれと」
「えええ……」
「何の不思議がある? 他が皆土俵を降りてしまえば、お前よりほかに選ばれるものもおるまい」
「俺はそんなの嫌ですっ!
俺自身がちゃんと強くなって賢くなって、男として殿下に選んでもらいたい!」
反射的に言ってからあっと口をふさいだ。またやっちゃった。
「個人として好意を持ってもらいたいのか?
ならばかの皇女殿下について調べることからじゃろう。
もしかすると殿下は、跳ねるこじかのようなかわゆい少年が大好きかも知れんぞ?」
「えっ……」
クレイズさまときたら、俺を直視してニコニコ言うものだから、なんだか顔が熱くなってくる。
「クールな男はむしろ、嫌いかもしれんなあ。王族ともなればまわりは貴族。本音など見せぬものどもばかりじゃろう。
施設を運営し、恵まれぬ子らに愛情を注ぐのも、それゆえかもしれんぞ?」
「で、でもそれじゃあ、大きい子供じゃないですか。殿下を守ってあげられませんよ!」
「すべてのおなごが守られたいと願っているとは限らんぞ」
クレイズさまは重々しく言う。
証拠ならば、いま目の前にいると。
「いずれにせよまずは相手を知ることよ。
戦略も鍛錬もそれあってのものじゃろう?」
「うぐっ……」
「幸いおぬしは皇女殿下の話し相手として、御前にあがることができる身の上。
よくよく話して彼女を知り、またおぬし自身を彼女に知ってもらうがよい。
それは、恋愛に限ったことではないぞ」
「……」
「まずは調べ、知って。考え、話し合い、自らのゆく道を決める。
それが、一人前というものじゃ」
クレイズ様は言う。
「もっとも、そのうえで根回しが正解、という結論が出るかもしれぬ。
そうしたことに手は染められぬというなら、『皇女』という立場にあるものを『守れる』などとは、考えぬことじゃ」
「……………………はい」
とても、厳しいことを。
けれどそれは、俺が向き合わなけれはならない、現実。
ぐっと飲みこみ、立ち上がった。
「うむ。いい顔になったな。
では戻るぞ、皆のもとへ。
そしてバトルじゃ! ふーふふ、たーのしーみじゃー!」
クレイズさまは満面の笑みでばんばんと俺の肩を叩いてきた……ちょっと痛い。
「けっきょくそれですかー!」
「いやいや。
我にとっては恋愛もバトルもどっちも好物じゃぞー。
いつでも特訓兼ねて相談しに来るがよい♪」
ルンルンのクレイズさまにつれられて、さっきの場所まで戻ると、そこは二組のカップルとひとつのハーレムの世界だった。
「……俺かえっていいですか」
「えっ」
知的でクールで鋭い一言を吐けるキャラになりたいです。
あ、それとにゃんこともっと仲良くしたいです(`・ω・´)キリッ
次回、ソリステラスに戻った一行。インティライムの街を見て歩きます。
どうぞ、お楽しみに!




