Bonus Track_59-2 草原の支配者、驚異の覚醒!~ハルキの場合~<SIDE:月萌>
どんなに大切にしたい人であっても、高天原を卒業する以上、覚醒はできなきゃならない。
だったらまだ――見た目はきつくても――安全の確実なスゥさんの特訓の方がいい。
クレハさんも今度こそ、それを納得できたようだった。
最後の一押しになったのは兄貴の『別の方法といっても、具体的に、なにかある? もしイツカとカナタの第一覚醒の時みたくなっちゃったら、そっちのほうがつらいと思うよ』の一言だった。
何度も叩き落とされては転がるイツカさんや、いつもの冷静さを失い涙をたたえるカナタさんをうつした動画は、見ているだけでもつらかった。
それを引き合いに出されたなら、反対なんかできやしない。
いつもおっとりのんびりの兄貴、今日はキレッキレである。
主な理由は、さりげにキラキラ五割増しで兄貴を見ているナナさんに違いない。
チナツさんは言う。
「うーんいーねーいーねー。
もーいっそのことクレっちゃんとゆっちゃん、オミちゃんとなっちゃんで特訓やっちゃってもよくね?」
「そしたらお前とハルキ君はどうするんだよ」
「あっ」
そこに調子を取り戻したクレハさんが突っ込んで、バディ同士で組んでの『特訓』が決定した。
時間も押してしまったからということで、女神神獣全員協力で、三組一気にスタートしてのそれは、なかなかの好結果となった。
次々響いてきたシステムボイスは、チナツさん、クレハさん、ユキさん、そして兄貴の覚醒を告げるものだったのだ。
残念なことにナナさんと俺とは、ステータスはどんと上がったものの、覚醒はならず。
「ぬーん……あとちょっとみたいなんだな~」
「そーいうときのテストバトルじゃ! さあさあかかってくるがいい! 覚醒三ツ星六人くらいであっさり沈むクーちゃんじゃないぞっ!」
そんなわけで始まったテストバトルは、最初からハチャメチャだった。
「ひゃほーい!『カモナ・ファニーフォレスト』~!」
初手で覚醒を使ってきたのはチナツさんだ。
右手をぐっと掲げて唱えれば、チナツさんを中心に、ぽんぽんぽん。ポップな色と形の木立が現れた。
とたん、ふわっと体が軽くなる。なんだかキモチも軽くなるようだ。
だがその効果を受けたのはチナツさんがわの俺たちだけでなく、今回は敵のクレイズさまものようである。
「ほほう、これはよい覚醒じゃな! バトルはやはりみんなで楽しまねばな!
だがチナツよ、もーちょっと相棒をひいきしてもよくないかの?」
「その点はバッチリよ! ほいクレっちゃん!」
と、チナツさんは手を伸ばし、ぱんぱんに太った、ただし緑色のトマトのような実をもいでクレハさんに投げた。
よく見ればそこにもここにも実る、甘い香りの実。思わずいただこうとすると、チナツさんにとめられた。
「おおっと、そいつ青いうちは苦いかんな~? クレっちゃんにはおいしいだろーけど!」
「…………………………」
一足先にかじったナナさんがフリーズしている。
一方クレハさんはしゃくしゃくごっくんして納得の顔。
「ん、確かに苦い。けど俺は好きだな、これ」
「……ふむ、パワーアップ効果付きのロベイラか。凄くマニアックなひいきのしかただの!
ロベイラはタテガミオオカミのみが食すると言われる果実じゃ。まあ熟したものはヒトもいただくんだがの。あとでジャムでも作るかの」
クレイズ様もしゃくしゃくして納得の笑顔。解説してくれながら、ピッと親指を立てる。
「ううう……この子も熟してほしいんだな……」
ナナさん、涙目で青い果実を見つめる。
さすがは命をいつくしむプリースト、かじってみてまずかったからと言ってポイ捨ては心が痛むようだ。
「ナナさん、俺がなんとかするから、むりはしないでおこう?」
兄貴が優しく申し出るが、ナナさんはふるふると首を振る。
その体は淡く輝き始めている。まさか。
ユキさんが声を弾ませた。
「これ……ナナ、いけるんじゃない?!」
「いける……よっしゃー!」
ナナさんはすうっと息を吸い込み、その名を唱えた。
「だいいちかくせーい!『かぴばらんど』~!」
俺は耳を疑った。いまこのひとなんてった。
しかし、それは確かに覚醒技だった――それも、奇跡としか言いようのない効果の。
ナナさんを中心に芽吹いたのは、かがやく金色の草原。
あふれる生命の力が、命を絶たれたはずの果実をみるみる完熟させていく。
やわらかな手の中、やさしい夕日の色に染まった木の実は、今度こそナナさんを笑顔にさせた。
「むふ! これならいけるのだ!」
「よかったね、ナナさん……あ、ほんとだ甘い」
しかしそれに続く光景は、俺たちをざわつかせた。
全く自然に「はいあーん、ぱくり」。
うらやましい。うらやましすぎる。
でも二人はどこまでもほのぼのピュアなんで、なんも言えない!
つかクレハさんとユキさんはもじもじ赤くなってるし! 絶対一週間以内にこれやるよこのふたり!
くそう、おれだっていつかはエルメス殿下とー! ふたりでひとつのパンケーキをはいあーんって……はいあーんって――!!」「きーくん、きーくん」
そのときぽんぽんと肩を叩かれた。なぜかほっこり笑顔のチナツさんだ。
「どうかしましたか、チナツさん?」
「ダダモレになってるから。」
「え?」
「だから、ココロの声。
途中から完全にダダモレになってるから☆」
気づけばみんながほっこりした顔でおれを見ている。
俺はとりあえず全力で逃げ出した。
暑さと冷房、なじむのが大変です。
次回、ソリステラスサイドへ。インティライムに戻ります。
便利すぎだよ女神パワー。
どうか、お楽しみに!




