58-7 お祭り都のお昼どき!<SIDE:ST>
『お待ちしておりました! ようこそ、太陽の都インティライムへ!』
大きな象さんが、空に鼻を持ち上げてぱおーん。
狼の皆さんが群れで声を合わせてわおーん。
そこから始まり、たくさんの動物と人々が歓迎の声を上げ、華やかにラッパを吹き、太鼓をたたき、手を叩き、地を踏み鳴らす。
そのさなか、手を振りながら走ってきたのはソレア様だ。
「みんなーまってたよー!! もー迎えにいこーかと思っちゃったー!!
道中おつかれさま。さっ、はいってごはん食べよ!」
「はい!」
おれたちが声を合わせれば、上がる陽気な歓声。
インティライムの門前広場は、もはや完全にお祭り騒ぎとなっていた。
インティライムの門は大きく、いかにも堅固なものだった。
門前を守る兵士たちも、しっかりと訓練を受けた人たちとわかる。
それでも彼らはさわやかに笑って、おれたちを受け入れてくれた。
大きく開かれた門も花やリボンで飾られて、客人を迎え入れる顔をしている。
これがもし、敵を拒む顔になったなら。それを見る日が永久に来ないことを祈るばかりである。
ともあれ、人の姿に戻ったライアンさんたちに連れられて、さらには舞い降りてきたルリアさんたちとも合流して、おれたちはにぎやかな街をゆく。
ライアンさんは頼もしく言ってくれた。
「屋台で食うのもいいし、なんならめいっぱい気取ったコース料理もあるぞ。
今日は町を挙げての歓迎だ、好きなものを好きなだけ食べていってくれ」
「えーいいのー! やったー!」
気に入った屋台で、予算気にせず買い食い。子供の夢である。
イツカはさっそくあれくださいこれくださーいと走り回る。
かというおれたちも、通りすがりに一口どうぞと渡されたりして大忙し。『RDW』で歓迎されたとき以上の目まぐるしさだ。
でも、だいじょうぶ。ルカとルナ、ときにはレモンさんの肝いりによる『アイドル修行』のおかげで、いまではおれもハヤトも、落ち着いて歓待を受けることができるようになっていた。
ハヤトはあいかわらず、小さな子供たちに大人気。
ハヤトにのぼった子供がぴょーんとライアンさんに飛びついたり、その逆もあったりして、まるで人間アスレチックである。
一方でおれとアスカは、とにかく写真撮影をせがまれた。
ルリアさんとベルさんといっしょに、ついでに肩の上にもナツキとバニーのちびドールをのっけて『ハイチーズ』。
……なんだかちょっと、間違った扱いをされている気がしないでもない。
「あのー、おれたち野郎ですよ? いいんですか?」
「いいんですっ!」
「むしろそれがいいんです!」
「だってうさぎはせいぎですからッ!!」
きいてみれば、かえってきたのはこんな答え。
白衣のうさぎ天使グローリアさんの影響は、とてもとても大きいようだ。
とりあえずおれは、そう結論付けておくことにした。
「カナタカナター、いっぱいもらったー!
アスカたちも、好きなの食べていいぜ!」
そのときイツカがぱんぱんになったレジ袋を両腕に下げてうれしげに走ってきた。こいつ一体いつのまに。
ともあれせっかくのご厚意だ。ありがたくいただくことにする。
アスカがさっそく、フルーツとクリームたっぷりのクレープをチョイス。「ゴチになります!」ふたりのちびドールといっしょに、しあわせそうに食べ始める。
ハヤトはお好み焼きのような、具だくさんの焼き生地を「いただきます」とぱくり。
おれは、とふと目を上げて気が付いた。
イツカのやつめ、完全に両手がふさがっている。これじゃ自分が食べられないじゃないか。
しかたないのでおれは、いいにおいのする串焼き肉を取り出した。
そして『えっそれたべちゃうの……?』な目をするイツカの口元に持っていってやったのであった。
沿道のみなさんは気前良く、あれもこれもとプレゼントしてくださった。
おかげでおれたちは、お店を見繕う前におなか一杯になってしまった。
噴水広場に腰を掛け、涼しい風の中ひとやすみ。
小さいなりで一番食べたイツカは、もうお目目がとろんとしている。
「ふああ、うまかった……しあわせ……」
「よーしよーし、ならばルリアお姉さんがひざまくらをっ」
「ぬっ、それはいかんぞルリア。
ここは俺がひざまくらをっ」
「ライアンのふとももはぶっとすぎて枕にならないの!」
「ぐぬぬぬっ! ならば腕枕!! 腕枕ならばなんとかっ!!」
「ぬぬぬうー! それはすごく見たいッ!! 絵面的にもッ!!!」
「さ・す・が・に・言わせてくださいっ!
父上! なにさらっと添い寝しようとしてるんですか――ッ!!
ルリアさんもとめてください、アホなこといってないでっ!!」
「えっえっでもみたくないベルちゃん? ねえほかのみんなも」
「いっ、いやそれはぐぬぬぬぬっ」
イツカ大好きの六獣騎士ふたりがしょーもない言い合いを始め、止めようとしたベルさんが丸め込まれかけたところで、ソレア様がナイスフォローをしてくれた。
「はーいはい、だったら後でみんなでなかよく雑魚寝すればいいじゃん?
ステラ、いま気分いいって。ステラ領に一度戻るよ!」
「げほっ?!」
いや、ナイスなのはタイミングだけで、内容はさらに明後日の方角にふっとんでいた。
ハヤトがもろにせきこんだ。
街の人「くそう、惜しい……!」
街の人「だが『はい、あーん』はやってもらえたし、まあいいとするか」
街の人「よっしゃー! かんぱーい!」
次回、新章。月萌サイド、合宿なうです。
この章で今度こそ視察と合宿が終わる、はず。
どうぞ、お楽しみに!




