58-6 うさぎグランマの武勇伝!<SIDE:ST>
遠く見えていた丸い光は一歩ごとに大きくなる。
そのうちに切り取られた景色もそれとともに色づきを増していき、ついには見渡す限りの平原となった。
照り付ける太陽の熱はからりと。吹き抜ける風には、草の香り。
初めて見る、生のサバンナが広がっていた。
「おー! 広い広ーい!」
イツカはまたしても大興奮。ハヤトもちょっとうずうずしている感じだ。
一方でおれたち『アナウサギーズ』は、おもわず物陰を探してしまい――
アスカはハヤトに身を寄せ、おれはイツカを抱えてとりあえず一安心。
そこへ聞こえてきたのは、聞き覚えのある陽気な声。
そちらの方を見れば獅子の姿のライアンさんと、彼についてくるキリンさんやぞうさんをはじめとした、サバンナの動物さんたち御一行がやってくるところだった。
『おーい! 待っていたぞー……ってどうしたのだ、四人でステファンに乗って。
途中怖いやつでもいたのか?』
「なんにもないですっ!」
キョトンとした様子でたずねるライアンさんに、アスカが先手を打つ。
その必死な様子を見ていると、悪いが笑えてきてしまう。
「ぷっ」
『くすすっ』
「ぶふふふふ……」
おれたち一行に広がる笑い。
もちろんライアンさんたちはなんのことかわからず顔を見合わせる。
『まあ、痴話げんかの結果ってやつよ。
誰と誰がとは言わないでおくけれどね?』
『えっ』
バニーが意味ありげにリークすれば、とたんにお迎えの皆さんの多くが色めき立つ。
ステファンさんもあらあらうふふだ。
『ほんと、若いっていいわねえ。
じゃ、ここからはお願いねライアン、みなさん』
『しょ……承知した』
ライアンさんも気になって仕方ない様子だが、精神力でそれを抑え込み、おれたち一行を仲間たちの背中に分乗させて、ゆっくりと歩き出した。
茂る森を乗せた岩山を背にしばらく歩けば、ライアンさんが口を開いた。
『ステファンたちの、森の村は見てきたか?』
「はい。ゆたかな畑のある、魅力的な場所でした」
『そうか。
あのあたりの森は乾季に葉を落とすから、土が豊かなのだ。
もう少し外れたあたりになると、季節のまとまった落葉はなく、年中降る雨で土がやせ、畑作には向かない土地になる。
この辺りもそういう点では似たようなものだ。
ほとんどの場所で土は痩せ、乾き、畑を作るに適した場所は少ない。
だからここに住む俺たちは、狩りをする』
太く大きな獅子の足で、のしのしと大地を踏みしめながら、ライアンさんは語った。
『腕を磨いて獣を狩り、家族を養う。
兵となって国を守り、褒章を授かる。
己の強さで勝ち取る生き方は、俺たちの誇りだ。
……それをよしとするものが、この平原には集まった』
見渡す限りの平原。点在する藪と、時折立つアカシアの木以外には遮るものとてない。はるか向こうに見える輝きは水辺だろうか。
『結果、俺たちは互いに覇を競いだし、ときに野の傍の森にも手を伸ばした。
そのころには、そこで侵攻は止まっていたのだ。我らには第一に、ステラ国という目標があったからな。
それでも、ここでの争いはなくならず……
ついにパレーナ五世がガツンと言ったそうだ。
こんなところで遊んでいるならお前らもっとステラ国と戦え、さもないと防衛ラインの穴からあちらの兵がお前らの巣になだれこむぞと』
「こ、こえぇ……」
となりのイツカがガクブルしている。失礼なことにちらっとこっちを見たので、うさみみロールをくらわせて軽口をたたく。
「おれがそんな大胆なこと考えるわけないでしょ?
そんなくらいならお前が寝てる間に前線に投げ込むよ」
するとなぜか、周りを歩く動物さんたちが一斉に距離をとった。軽い冗談のつもりだったのに。
あれっと見回すと、答えはすぐにやってきた。
『あー。実は何人か聞き分けのないやつらがそれをやられたんだ、うん……』
「えっ」
おれは今朝がた海辺を案内してくれた、穏やかなアイスブルーの瞳の美丈夫を思い出してみた。あれ、なんか違和感を感じる。
『ああ、それをしたのは<アルネヴ>の先々代の長、グローリア様だ』
「えええええええええ?!」
ご先祖ということなんでとりあえずクローリンさんで想像しようとした。でもだめだ、むり。
あんな優しそうなひとがそんなことを考えるってとこから想像できない!!
『しかも「支える方々を前線に投げ込んだのだから当然自分たちも付き従う」と、あのか弱い体で前線に出、看護兵としてどんな激戦の中にも突っ込んで行き、幾人もの兵の命を救われたと何度も聞かされた』
「ええ……」
マルキアも控えめに言葉をはさむ。
「旧ステラ領にも伝わっておりますわ。
いかなる激戦をも恐れることなく、敵味方の分け隔てなく、傷つきし者すべてを救う白衣のうさぎ天使グローリア。
ステラの看護兵はみな、その姿を目指したと聞きますわ」
なんてことだ。すごい。ぷるぷる体が震えてきた。
みればアスカもお目目キラキラ、ぷるぷるしている。
「かっこいい……」
「かっこいいよねっ……!!」
ベルさんもいい顔でグッとうさみみと親指を立ててくる。どうやら国際的な共通認識が形成されたようだ。
というわけで今はまず、ライアンさんの話を聞こう。
続きを促すとおれとイツカを乗せた獅子は、いい声で話を再開した。
『そうしてようやっと、我らは森への侵攻をやめた。
俺たちの矛先はすべてステラ国に向き、森と平原は均衡を手に入れた。
それからまもなくだ。女神ステラが倒れたのは。
敵国と戦場はなくなり、我らはそれを再びこの平原に求めた。
野の傍の森を平らげ、さらにはあの岩場を越えるため、地の民に隧道を掘らせ……
そのさきの大河を境に、進撃は止まった。
多数の兵を満載したつり橋を落とされ、士気が瓦解したのだ。
スティーブたちが……ステファンの祖父たちが敷いた大河の防衛ラインをこえられるものはほとんどなかったし、ほうほうのていで渡河したとしてもそこで囲まれ、捕らわれた。
そのあとだ。『六獣騎士』が制定され、その選抜が始まったのは。
ソレア様は基本、俺たちを自由にさせて下さる。だが有り余ったエネルギーが国内をめちゃくちゃにすることは、避けたかったのであろうな』
ライアンさんは、ほろ苦い声音で森と平原の戦史を締めくくった。
だが、そこでおれたちは軽くおどろいた。
「えっ、つまり『六獣騎士』って」
『そう、あくまで国の外ではなく、内に向けたものだ。
困窮する者を助け、暴れるものをおさえ、民の声を聞き、それをかなえるため働く。
俺が和平に反対の立場をとるのは、戦いの申し子として血脈を磨き上げてきた、わが民の声によるもの。
もしも全世界が平和に包まれたなら、……いや。
そのときはまた、そのとき。
あそこに狩りの休憩地がある。そこで一度休もう。
そうしたら、インティライムで昼飯だ』
いつの間にか、目立たない色合いの草ぶきの小屋を擁した、小さなキャンプ場のようなところが見えてきた。
そこは本当に休憩するためだけの場所だった。
木製のベンチや、ちょっとした書き物机や地図、狩りの道具や、保存食の予備などがあったくらい。
暑さに乾いた喉を冷たい水で潤し、すこしストレッチして体をほぐしたら、すぐに出発。
進行方向をこれまでとすこし変えつつ一気に疾走すれば、丈の高い植物と石の塀に囲まれた街が見えてきた。
陽都インティライム。ソリステラスにきて最初の朝に、ソレア様が空からちらっと見せてくれた石造りの街だと、言われるまでもなくわかった。
面白いことにあの岩山、ステファンさんの森をのっけたそれが視界の右端に再び姿を現してきた。
海に沿って大きく湾曲する形で、インティライムの東に裳裾を差し伸べている。
つまり、大回りとはなるが、森から直接陽都に行くことも可能であったというわけだ。
『インティライムはすべての勢力の交差する場所として作られた。
六勢力すべての地から、あの町には直接至ることができる。
海の民は、東の港から。森の民は、あの山に接した南東の門から。
南西の門からは西の草原の民が。
そして南の門からは我ら南の平原の民が入る。
残り二つは専用の門を持たない。
地の民はこの土から、空の民はあの空から。遮ることなく入ってこられるからな』
なるほど。
見上げれば、上空にきらりとはしる光。
そこではあの、青い翼の少女――ルリアさんをはじめとした、翼持つ人々が歓迎の手を振っているのが見えた。
ちょっと長くなりました。
ほんとは平原の村ものぞきたかったのですが、それはまた後程。
次回、さあ昼飯だ! お楽しみに!




