58-4 小さなハーブ園と大きな夢と!<SIDE:ST>
視線を感じる。
木の陰から、藪の向こうから、建物のかどから。
といっても、不穏なものじゃない……こどもたちだ。
まだ小学校に上がらないほどの年頃。本格的に農作業のできる年齢ではまだない。
それでも、自分たちなりに小さなハーブ畑を作ったりしているようだ。
村の一角にある手作りの小さな畑には、ちいさな緑と愛情があふれている。かわいい、思わず口からこぼれれば、この村の長であるベリーズさんがそっと教えてくれた。
「これはこどもたちが、森で集めたハーブを育てているミニハーブ園でございます。
出来の良いときには、村の集会のお茶や、クッキーの材料になることもあるものです」
これからいただくお茶にももちろん入っているとのこと。おれは弾む足取りで、村長宅のステップを上った。
おおきな象になったステファンさんの足取りは、まるで滑るようで、たとえ木の根や段差を踏み越えてもほとんど揺れず危なげもない。
それでもやはり、慣れない方法で小一時間移動すると、さすがに少々体のあちこちがこり始めていた。
徒歩での村めぐりも、適度に体がほぐれてありがたいと感じたほどだ。
それでもそんな疲れも、手作りのお茶とクッキーは吹っ飛ばしてくれた。
小さなこどもたちが、がんばって出してくれたのもあるのだろうけれど。
ベリーズ村長は誇らしげに教えてくれた。
「ここのハーブは、一部ステラ国にも出荷されております。
ソリステラス・スペシャルブレンドの材料にもなっているのでございますよ」
「へえ……すごいですね!」
ステファンさんもまたほこらしげだ。
「この森の、ゆたかな土が滋味を生むの。
この村のものたちの多くは、戦いにはむきません。
それでもこうして笑顔があるのは、この大地のおかげ。
このめぐみを大切に、わたしたちは生きていかねばならないのですわ」
しかし、ステファンさんはここで遠い目をした。
お茶のカップを、ことりとおいて。
「とはいえ、誰もが恵まれた土の上に生まれることができるとは限りません。
そうした者たちにとっては、狩りがいまを生きるよすがとなります。
獣を。時には人を。
それを思えば、『戦いなき世界を』と単純には言えずにいます。
この村にしても、武をもって接する者を追い返し、時には屠ることとてあるのです。
救いを必要とするもの、すべてを救うこともかなわず……。
けれどそれでも、少しずつ世界は変わっていける。そう、信じているわ。
ソリスとステラが手を結ぶことで、救われるこどもたちは確実に増えている。
ベルちゃんもそうだし、……」
ステファンさんの視線がわずかに流れた先には、軍服姿のリンさんがいた。
燃えるような髪と、冷静な瞳を持ち合わせた彼女は、表情も姿勢も崩さぬままだった。
休憩をかねたお茶を終え、おれたちは村長宅を辞した。
村の人々が、家々が。そして畑の作物たちが見送ってくれるなか、ふたたび村の門へ。
背のたかいトウモロコシや、大きな葉っぱのお芋。つやつやとしたトマトにナス。天を向いて実るオクラ。ぶっといキュウリや、大きなさやに包まれた豆、一抱えもあるスイカ。
畑にふさふさと植わったアワやヒエ、みどりのハーブ園。
「わたしたちの使命は、こうした村々を守り、救える者たちを一人でも救うこと。
そのために力を磨き、豊かな実りを求めること。
そう、思い定めておりますわ。
そのために力を合わせられたなら、これ以上のことはありません」
「そうですね。おれも、そう思います」
おれたちはいちおう、月萌の『とってもえらいひと』だ。
しかし実際いまのおれは、ただの特使でしかない。
つまりおれの言葉は、国としての何かを確実に約束できるものではないのだ。
それでも、おれもそうできたらいい、と心から思ったのは確かだ。
ステファンさん、そしてベリーズさんと握手を交わし、おれたちは再び出発。
橋を渡り、隧道を抜ければ、陽都インティライムはもうすぐである。
次回、いよいようさねこ合宿始まります!
どうぞ、お楽しみに!




