Bonus Track_57-2 お兄ちゃんのきもちは清らかです!~アスカの場合~<SIDE:月萌>
それは、むこうのイツカナが公聴会を終えた後。時間としては、夕方のこと。
バニーを通じてもたらされたのは、和平反対派トップスリーの中でいちばんイカれた男、シグルド氏の策だった。
だがそれは、どうも『おかしな』ものに思われた。
フィル・シグルド・シルウィス氏は『ホワイト』ともっとも歳の近い異母兄。一度は『無能』として家を追われた弟を、家に呼び戻そうとしている。
けれど、彼の策では、『ホワイト』が無事に家に戻るビジョンが見えない。
月萌が宣戦を布告するような事件なんていったら、ガチのイツカナ襲撃事件だろう。
テロリストを食い止めるために戦って瀕死の重傷を負わされ、にもかかわらず巻き添えが出たからと責を問われ、糾弾されるというやつだ。
だがそんな事態となれば、二人を守れなかった『シエル・ヴィーヴル』、その管制官である『ホワイト』もまた能力を疑問視される。
その彼を、シルウィス家が喜んで迎え入れるだろうか。答えはNOだ。
たとえ、危険のある軍務から『ホワイト』を遠ざけるためとしたって、彼のそのやり方は拙いものとしか思えないのだ。
だが、ある仮定に基づけば筋が通る。
この推論が正しいかどうかは、すこしだけ自信が持てなかった。
なぜなら――僕にはきょうだいがいない。
血を分けた妹と、未来の弟を溺愛するカナタは、ただいま絶賛お疲れ中だ。
となると、思いつくのは一人。
僕はライカ分体に『乗っかり』、ノゾミ先生に相談した。
「いや、それでどうして俺なんだ。
確かにミライは世界一かわいいが」
「そういうとこです先生。」
「あのな。」
ミーティングルームで二人、僕の話を聞き終わったノゾミ先生はじとっと僕をみた。
「……まあ、千歩譲って俺にブラコンの気がほんの少しだけあるとしよう。
その仮定にもとづき推論するなら……可能性はある。
シグルド氏が『ホワイト』を破滅させ、自らのみの庇護下に置こうとたくらんでいる可能性は」
けれど、先生はしっかりと結論を出してくれた。
「やっぱりそうですか!」
「まあ気持ちはわからんでもない。
俺だってミライが戦場に出るとか考えると心配でたまらなくなる。
かといって、陥れて囲い込むのは絶対に『違う』」
「先生……」
さすがは僕たちの先生だ、そう思って見つめれば先生は、照れながらも胸を張る。
「もちろんこれはあくまで推測だ。ミライに対する俺の気持ちはどこまでも清らかだからな!
そういうわけで、今行うべきことは、裏を取りつつテロ対策も、と言ったところだな。
ライアン=レッドストーム氏はゴジョウ氏同様、まっすぐな人柄とみえる。もしそうなら、テロ計画は彼をハブって準備され実行されるだろう。
そこでライアン氏に計画のリークができれば、和平反対派は切り崩せる。
一時的にホワイト氏が軍務を離れるというのも、姑息だがありかもしれないけれどな」
「わかりました。ありがとうございます!」
やはり、無敗の知将と呼ばれる人の言葉には確かさがある。
ひねくれ者の僕だが、それは毎回素直に思う。
けれどその人は、さらにこう言ってくれた。
「ほかに相談したいことはないか?
お前たち自身のことでもいいんだが。
新しい家はどうだ? 親父さんと、うまくやれているか?」
これぞお兄ちゃん、というべき、あたたかなまなざしで。
僕はにっこり笑って、はい! と言っていた。
すこしでも天気が不安定な日に外出ると絶対降られる……orz
次回、ソリステラスサイドへ。今度は旧ソリス国領へ行きます。六獣騎士と会えるかも?
どうぞ、お楽しみに!




