Bonus Track_57-1 お兄ちゃん、丸くなる?~ノゾミの場合~<SIDE:月萌>
高天原学園の教師は少なすぎるほどに少ない。
十名に満たぬ人間が、頻繁に入れ替わる100名あまりの少年少女の指導に当たるのだ。
求められる資質の高さゆえに仕方のないことではあるが、それでも生徒たちすべてに目が届き切らずにいた。
学園の現状の特異さは、それに拍車をかけていた。
生徒会はもちろん、学校公認の部活動もないのだ。
まとまってなにかを行う余裕のない生徒と、バディとともにさっさと星数を稼いで卒業してしまう生徒がほとんどであるため、これも仕方のないことだったが。
生徒間のヨコのつながりが希薄で、教師の目も届き切らなければ――
どうしてもドロップアウトに陥る生徒が出てしまう。
そもそもそのように設計されていたと知ったとき、俺は殺意に近い怒りを覚えた。
『高天原産Ω』の年度別算出目標なんぞというものが内内に決められており、それに沿って無理ゲー試合が降ってくる。あやしげなバイトで3Sを憑けられてしまう。その一方で、αや学園生のバトルを華々しく世に流し、入学者を募り続ける。
人を人とも思わぬ仕打ちとしか言いようがなかった。
それから苦節十年近く。俺たちはようやくそれを駆逐することができた。
『うさねこ』『しろくろ』『騎士団』をはじめとした生徒同士の互助会組織は、いざというときのセーフティーネットを構築し、生徒同士でスキルアップの計画を練りあい、共同して研究や特訓を行っている。
俺たちのメインのしごとは、彼らからの相談に応じ、専門的なアドバイスをし、ときに直接特訓を行うことに変わりつつあった。
もちろん互助組織に入らない生徒もいるし、カリキュラムに応じた授業や講習も、校内の役務も依然としてある。だから依然忙しいは忙しいのだが……
それでもちゃんと生徒たちを見てやれる、落ちこぼれにさせないで済む。
その安心感は、何物にも代えがたいものだった。
それに実際、時間的な余裕もできた。
今となっては、愛する婚約者と弟と待ち合わせて、ゆっくりと平日の夕食を(ミライを連れ出すわけにいかないので学食でだが)味わうこともできるようになった。
だがそんな日々は、思わぬものをももたらした。
三人そろっての夕食の席で、ふいにミソラに言われたのだ。
「ノゾミさぁ、ちょっと丸くなった?」
「なっ?!」
「あ、おれもそう思った」
「マジか……」
なんてことだ。はた目にはっきりわかるほど太ってしまっているとは。
俺的に自覚はないが、ならばむしろそれが問題だ。
「あ、丸くなったって雰囲気がね。
前は触れたら切れそうな目してる時も多くて、そこもカッコよかったんだけどさ?」
「えへへ、おれおじゃまかなっ?」
いたずらっぽく笑うミソラに、理解のありすぎる弟はするりと席を立とうとする。
「それはありえない!」
「だいじょぶだよ、ミライはいつだっておじゃまじゃないからね☆」
ミライがいなくなるとぶっちゃけさびしい。連係プレーで何とか引き留めるとそこへ、聞き覚えのありすぎる声がした。
『やーたしかにすこーしほっぺのラインは丸くなったふいんきだにゃーん。
でもま、いんじゃね? これからもっとしあわせぶとギブギブちょっ変形するから変形するからっ』
ノールックでヘッドロックをかけた相手は、アスカに似せた少年の姿でねこみみをつけ、メイド服をまとったあいつ。神剣ライカの分体だった。
アスカの卒業後、ライカは限定解除をしてもらい、制御できる質量を増してもらった。それゆえ、いつもあちこち分体が歩き回っている。神出鬼没というか、つねにどこかに奴がうろうろしている気がするレベルだ。
まあやつは生徒や学園メイドたちとも仲良くやっているし、いざとなったら特訓などの手伝いや警備の役にも立つし、いてくれるのは正直ありがたいのだがたまにこうしておちょくってくるのが玉に瑕だ。
とりあえず、人ではありえないやり方で変形してミライを驚かされる前に開放し、用件を聞くこととする(ちなみにミソラはあははと笑っている)。
「……で、用件はなんだ?」
『あっちのことで、アスカが確認させてほしいことあるんだって。
かわいい弟を持つ兄貴であり頭のキレるのぞみんに』
「わかった、20分後にミーティングルームを取っておいてくれるか」
『ういーす』
アスカは、ライカ分体に自分の意識を乗せることができる。
そうして、実際そこにいるのと同様に話をしてゆける。
もちろんそうして行われる『ライカのひみつ通信』は、携帯用端末を用いた通話より、はるかにセキュリティレベルが高い。
全く、とんでもないやつを育ててしまったものだ。改めて誇らしく思いつつ、俺は食事の続きに戻るのだった。
あっちとはソリステラスのことで、けっしてあやしい意味では(殴)
結局導入だけで終わってしまいました。
次回こそ本気出します(必死)! お楽しみに!




