57-2 兄狼、標的を送る<SIDE:ST>
「ぶっちゃけ今のって、どういうことなんです」
しばらく歩くと、ふてくされたようにレム君が口を開いた。
シグルド氏は、整った口元に小さく笑みを浮かべた。
「月萌との和平に反対する私が戦争反対の人物に手を貸したのが不思議であると?
それもギリギリ犯罪になるかならないかという方法で」
「言い方が若干むかつきますがそうです」
「もしも犯罪になったら月萌が黙っていない。それはわかりますね?」
「大本が健気な少女の願い、それも世話になった仲間の遠縁のとなれば、お二人が事を荒立てることはない。それでも『事件』は起こすことができる。イツカさんとカナタさんが現地の人と強くかかわりを持ち、月萌国にとっては開戦のとっかかりにできるような。
月萌にとって『事件』は和平式典での無礼と、この拉致『未遂』で二つ目。三つ目を適切な内容と強度、タイミングで起こせば、それを口実に月萌が宣戦。ステラはソリスとの決裂を避け、安全に戦争を継続できる。
しかしその流れとなってもイツカさんカナタさんは一度かかわりを持ったものたちを見捨てず、開戦を回避しようとかばい、ステラ様の治療も続けてくれる。
それは月萌にとっては裏切りとうつり、開戦のタイミングでここにいるお二人は切り捨てられ、この国のものとなる。
そうして、いずれきたるべき、月萌からくるお二人との戦いにあたってよい盾となってくれる。
ソリスに属国化されそうになった暁には、月萌に行ったエルメス様とこのお二人を交換し、ついでにΩ制廃止も導入することで講和を結び対抗する。
どうせそう言ったところでしょう?」
微妙な挑発に、レム君は推測を述べる……というかまくしたてる。
シグルド氏、顔つきはほぼそのままながら、おめめきらきら嬉しそう。
「さすがは我が弟。兄のことはなんでもよくわかっているな!」
「既成事実化しないでくださいうっとうしい」
「既成事実か。いい響」
「なにとんでもないこと口走ってんですまだ11歳の子供に向かって」
犯罪スレスレのブラコン野郎に思わず突っ込むと、奴はしてやったりという笑みを浮かべた。
「やっと口を開きましたね、カナタ殿。
それで、あなたに対抗策はありますか?」
「当てられますか?」
ここで『ソリスをあおる』というのはもちろんナシだ。
おれたちは和平のためにと来ているのだ。間接的に二択を提示し、そちらに追い込むような罠にはまっているほど暇じゃない。
「試すふりして失言を避ける、か。悪くない選択ですね」
「でさー、シグルドはどうしたいんだ?」
と、イツカがぽんと言葉をはさんできた。
「俺たちに事件が起きるってことは、レムたちにとばっちり来んだろ?」
「その点は抜かりありません。ですので安心して」
「はい、着きました。送迎ありがとうございましたもう帰ってくださいさよならっ!」
そのときおれたちは基地の門前にたどり着き、レム君がしっしっとばかりにシグルド氏を追っ払う。
「えー、もうちょっとお話してあげようよ!」
「ダメですよジュジュ。あいつがいいのは外見だけです。だまされちゃいけませんから。
ほら早く中に入って。もしも一人であいつに話しかけられても、絶対返事しちゃダメですからね。男はみんな狼なんですから!」
ジュディは残念そうだけど、レム君も今回ばかりはキッパリだ。
たぶんジュディは、単に曲者イケメンのシグルド氏を鑑賞していたいだけである。現にこの帰路でも、お目目キラキラしながらずーっとレム君やおれとのやり取りを眺めていた。
「男はみんなって、レムちゃんも狼なの?」
「そ、そそそそれはそのっ……」
そして彼女は無邪気に、ここまでで最高難度の質問を投げかけてきたのであった。
めっちゃくちゃ頭使いました。知恵熱でそうです(※赤子)
次回、月萌サイドに視点うつります。
これの対抗策が考えられるかも、考えられないかも。
どうぞ、お楽しみに!




