57-1 ティータイムと送迎と!<SIDE:ST>
メルさんから話を聞いていれば、シンさんも起きてきて、ノリノリで話をしてくれた。
和やかな雰囲気に、下手人の若者たちも集まってきて、最後にはシンさんの講談オンステージになっていた。
さすがは10歳過ぎで活動家を始めただけはある、その巧みな語り口に、おれたちは大いに楽しませていただいてしまった。
さらに、お出ししてくれたお茶。
やけにおいしいと思っていたら、ジュディがうれしそうに教えてくれた。
「『イングラム』はね、ステラ王室御用達の有名ティーブランドなんだよ。
そのお茶をごちそうになれちゃうなんて、ほんとにラッキーなんだから!」
つまり下手人の若者たちは、ここで働いている職人さんたちだったというわけだ。
ともあれ、おいしいお茶のチカラもあるのだろう、小一時間のお茶会でおれたちはすっかりと打ち解けてしまった。
メルさんも、柔らかい表情で言う。
「なんか……こうなっちゃうともう、早く帰ってなんて言えないわね。
むしろお願いしたくなっちゃうわ。また戦争にならないように守ってって」
「おう、がんばるぜ!
開戦を望んでる人や、ソレアとも話してさ。
すくなくとも、戦いたくないひとが巻き込まれたりとかしないようにする。
それと、アル兄ちゃんのこともなんとかしないとな!」
するとイツカがノリノリでこたえる。
アルさんとは、メルさんのお兄さんである。
そう、なんだか和やかな雰囲気まっただなかではあるが『お兄さんが身を持ち崩しそう問題』は、全然解決していない……というか、まだ満足に話題にすらなっていないのだ。
「それなんですけど」
と、カリナさん……アルさんの婚約者さんだ……が言い出した。
「いっそもう、イツカさんとカナタさんにここに住んでいただければ。
そうしてアルを叱咤激励こき使ってやってもらえれば、私としてもウハウハですし」
「あ、それいいわねカリナさん! それは許せるかも!」
いまなんだか変な表現が混じっていたような気がするんだが。いや、きっと気のせいだ。気のせいだと信じたい。
コルネオさんが笑って提案するには。
「まずはアルが店にいるときにきて、声をかけてやるんでもいいんじゃないか?
やつは腕はいいんだし、そこを褒められれば奮起すると思うぜ」
「あー」
「アルならありそうじゃな……」
「まったく兄さんったら! 今日に限って仕入れに行っちゃうんだから!」
「お言葉ですがお嬢、今日アルさんを行かせたのは確かお嬢では」
「あっ」
そんなこんなで近日中の再訪を約束し、お土産までいただいて和やかにイングラム家を出れば、すっと近づいてくる人影が。
本日二度目の、シグルド氏だった。
レム君ががるると言わんばかりの勢いでたちふさがる。
「だからなんなんですか。ストーカーですかそれとも拉致作戦第二弾ですか?」
「残念ながらどちらでもないぞ、弟よ。
送迎に来てみた、というところだな」
「おーそうか、ならおっさんはこの辺で失礼するぜ。またな~」
しかしシグルド氏がしれっとこたえると、コルネオさんはあっさりと行ってしまった。
見送ってぼそっとシグルド氏、
「……いい方だ」
「じゃないですよっ!
僕たちも帰ります。これは『任務』ですので、あまりうるさくすると不審者としてそれなりの対応を取りますのでそのつもりでっ」
「聞きたいことはないのか、今の件で」
「っ…………」
やられた。
クラフターは情報に目がないのだ。つまりレム君は、そしておれは、とバラクの間とはいえ、シグルド氏といっしょに歩かざるを得なくなったのであった。
さっきまで異常に電波が不安定で焦りました。
次回、今回のプチ拉致事件にシグルド氏はどの程度かんでいるのか?
帰路をたどりつつの会話の予定。
どうぞ、お楽しみに!




