7-1 小さな祝勝会~爆誕! 新アイドルバトラーず(♂)!
「おつかれ、ふたりとも!」
「ありがと、ミライ」
「うあああ……サンキューミライー……」
視界がリアルに戻ると、そこは闘技者用ログインブース。
ただし今回は、研修生用の制服に身を包んだミライがいる。
ミライはニコニコ笑って、おれたちに蒸しタオルを手渡してくれた。
ちょうどいい温度の蒸しタオルに顔をうずめて汗をぬぐえば、一気にさっぱりした気持ちになる。
ジェリー&サモナーの試合には勝つことができた。
次々召喚されるダンジョンジェリーをかいくぐって、イツカがサモナーに特攻をかけ、おれがそれを支援するという作戦で。
正確には、わらわらたかってくるジェリーごとイツカがサモナーにぶちかましをかけ、そこにおれがまとめて500ポイント固定ボムを四発くらわすという荒業で。
イツカが化け物並みの体力をもってなければ、とてもできない作戦だ。
もっともイツカには、それより精神的ダメージの方が大きかったようだけど。
「あ゛ー、ぎもぢ悪かった……ヌルヌルがベタベタ……俺クラゲ嫌いになりそう……」
「もうお風呂入っちゃえば? きっとそういうと思って沸かしといたよ!
生姜焼き食べるならその間に焼いたげる。ごはんもそろそろ炊けてるし、濃い目のお味噌汁もほしければ!」
「入る食べる飲みます!! あーもーミライおまえ神すぎっ!!」
「おれもおねがいしますっ!
ありがと、さすがミライだよ。
これならソナタも安心だね?」
「ふぇっ?!
も、もーカナタってば、からかわないのっ!
まだ、ソナタちゃんがおれを選ぶとは限らないじゃん。
かっこいいっていったら、イツカのほうがかっこいいし。
それは選んでもらえるようがんばるけどさ……」
軽くからかうと、ミライはかわいらしくあわててぷんすか恥じらう。
こんな子を選ばない女子がいるわけない。少なくとも、おれはそう思う。
「大丈夫。ミライはその千倍可愛いし。
万一イツカのやつめがソナタに手を出そうとなんかしたら、きっちり成敗しとくから安心して?」
「そんなことしねーからやめてっ!!」
そこへ軽やかなノックとにぎやかな声。
「ひゃっほー、三人ともー。おつかれちゃーん! あーちゃんずドリンクデリバリーでーす!」
「あ、あーちゃん! はいってはいってー」
ミライが嬉しそうにドアを開ければ、いつもの装飾満点うさぎ男、ペットボトルを持たされて照れてるおおかみ男、そして、おめでとーっと歓声を上げる、うさぎ男同盟の三人。
おれたちのアイドルバトラーとしての日々は、順調に滑り出したようだった。
そのすこし後。
結局ちょっとつめつめの生姜焼きパーティー会場と化したリビングで、おれたちはこんなことを話し合った。
「はむっ……むぐっ……んまー!!」
「わーんおいしー!」
「ほんとにね!
ごめんねミライくん、俺たちまでごちそうになっちゃって」
「いいのいいの! おれこそごめんねミズキくん、もっとお肉もごはんもたっぷり用意しとけばよかったね」
「充分っス、充分っスよミライさんっ!!
たとえ肉一枚でも『自分のために』焼いてもらえるなんて……もうそれだけで……ううっ……」
「もう、また焼くから泣かないでソーヤくん?」
「そうだよ、オレたちでよければなんかつくるから!」
「とってもうれしいけどシオはやめてええ!!」
「ね、ねえシオン、まずは火を使わないものから始めてみようよ、ねっ?」
「むー、ミズキがいうなら……」
まずは『うさぎ男同盟 (おもにシオン)』にミライがお料理を教えることが決まり……
「な、なんか悪いな、狭くなっちまって」
「ほんとごめんねー、ハーちゃんひとりだけでっかくてさー」
「それを言うならお前は耳をどかせ、視界を遮ってんだろっ」
「ミーたんのエプロン姿ガン見してるからでしょー? ったく……」
「し、してねえよっ!! してねえからなっ!!」
「あはは、いいよふたりとも、おれのエプロンなんかでよければ見てって!
これね、おれの手作りなの。気に入ったらこんど、二人にもつくったげる!」
「く、くださいっ! ぜひともっ!! ふたりぶん!!」
「おい?!」
ついでアスカとハヤトにミライのお手製エプロンを進呈することも決まり……
「むぐむぐむぐむぐ、うんまー!」
イツカはというと、ひたすら生姜焼き定食をむさぼっていたのであった。
やつはいつものように、ほかほかごはんに千切りキャベツをのせ、生姜焼きでごはんごと巻き込み、豪快に口に押し込んでいた。
もちろんほっぺたはパンパン。口の周りにはご飯つぶ。正直行儀はよろしくないが、この幸せいっぱいの顔を見てしまうと、叱る気にはなれない。
ミライの生姜焼きは絶品なのだ。リアルにサンドブル肉はないけれど、それでも。
しょうが醤油のたれをたっぷり絡めたお肉と、白ごはんの相性は最高。
しかもごはんも炊きたてのほかほかとくれば、うまくならない要素なんか見つからないというものだ。
おれもやつと同じように、生姜焼きでキャベツとごはんを巻き込んだ。
そうして一口、次いで一口、うまうまと堪能。
口の中が空っぽになったら今度はお味噌汁。
よーくおだしをきかせた、濃い目のわかめの味噌汁は、香りながらも染み渡る。
一つ幸せなため息をつき、お椀を置いてふと気づくと、ハヤトがおれたちの方を見ていた。
「どうしたの、ハヤト?」
「あ、……いや。その、……
……変な試合ばっか、するなよ?
お前たちは、選べる立場なんだからな」
「むむむーむむむ、むむむむむむ」
「イツカ、口の中一杯でしゃべらないの!
あの、最低のラインはちゃんと、守るつもりだから。……心配かけちゃって、ごめんね」
「……ああ」
はしを動かす音が止まる。微妙な空気が流れた。
一秒、二秒。ばんっ。
アスカがハヤトの背中を叩いて陽気な声を上げた。
「あーもーハーちゃんはぶきよーちゃんだなー!
ごめんねみんなー、ハーちゃんは対等に闘れるライバルが欲しくてしょーがないんだよー。
ぶっちゃけ剣の腕だけでいえばハーちゃんは四ツ星かそれ以上じゃん?
でも四ツ星になるとデビュー控えるわけだから、そのイメージをぶち破るような三ツ星との試合なんてそうそう組まれなくってさー。
あと対等にやれるのったら『しろくろ』ぐらい。
でも女子とやるとどーしても男のこっちがガチヒールでさー。たとえ実力で勝ってもまわりからわいわい言われてマジうっとーしーんだよねー。
でもってあっちはそろそろ四ツ星昇格カウントダウンだからさ、へたすりゃそんな試合すらできなくなるわけよ。
そんなわけでハーちゃんはおなじ剣ひとすじのイツにゃんには正統派の剣闘士になってほしーなーってラブコールを送ってるわけなのです。
まあね、人の行く道はそれぞれだからさ。強制とかはできないけどね」
アスカが冗談めかして語る言葉に、空気がやわらぐ。
やがて沈黙を破ったのは、穏やかにほほえむミズキだった。
「ハヤト君。
俺はプリーストではあるけれど、神聖魔法込みでの腕なら、きっと君にすぐ届くと思うよ。
それではだめかな?」
「ミズキは無星全救済が目標だろー? それとやったらそれこそヒールじゃねーか!
ここはこのちょいワルせくしーのソーヤさまが、グルメハンターで鍛えた腕でっ! どーよ?」
ソウヤとシオンも、目を輝かせて乗ってきた。
「オレも、オレもがんばる!
オレね、いちど悪い魔法使いの役やってみたかったんだ!
そうだね、オレうさぎだし、これまでに狩られたうさぎたちの恨みをせおって、世界の崩壊をたくらむラスボス的な! それでずどーんどかーんて!」
「しゃれにならねえええ!!」
「お、おう……」
「あー、でも企画バトルとしちゃいーかもねー。ハーちゃん狼だし、最後は狼とウサギの友情エンドとかして! そんときゃおれもいっちょかもっかなー、シオっちの配下のマッドサイエンティスト役として」
「殺す気かっ!!!」
そのときミライもぽんっと手を打つ。
「あのさあのさ、思いついた!
おれ立場的にはふたりのフットマンだから、『命令されて』って形なら闘技場とか出れるよねっ!
それで3on3とかやるの! 楽しそうじゃない?」
「おー! またミライと組めたらそれこそ無敵だぜ!!」
「あっ、そしたらオレたちも3人パーティーでやれるよね! なんかたのしくなってきたー!」
「とりあえず模擬戦やってみようぜ、はらごなし兼ねてさ!」
「おー!! やろうぜやろうぜ!! うおおお、もりあがってきたー!!」
「それじゃあまずは全部いただいて片付けちゃおう、ね」
シオン、イツカ、ソウヤも立ち上がって盛り上がり、ミズキがニコニコ。
ハヤトは慌てたようすで尋ねる。
「お、おい、ハンデとかはいいのか」
「もーハーちゃんたらヤボなこといいっこなし! まー見てなよ、ダブルクラフターチームの本気の破壊力をさ!」
「逆だ逆!! ソーヤとシオンにガチで距離取られたら俺とお前でもどうもならねーだろ!!
それにミズキまで加えたら……」
アスカはまーまーとなだめつつ、さらに恐ろしいことを言ってきた。
「近いうちそのカード組まれるよ。
『ミライツカナタ』復活、しかし完全秒殺とかさすがにアレっしょ。
アイドルバトラーとしてのし上がるなら、お互い魅せかたを研究しないとね?」
「は……?」
ハヤトがぽかんとする。おれとイツカ、ミライもだ。
ソウヤがニッと、シオンがニコッと、ミズキがふんわりと笑う。
ソウヤがどーんとポーズを決めてのたまうには。
「はーい! おれたち『うさもふ三銃士』っ!
アイドルバトラーデビュー、きっまりましたー!!」
「おおおおお!!」
次回と次々回は3on3の模擬戦(一瞬むちゃくちゃになったりする)です! お楽しみに!




