56-8 イツカナ・プチ拉致事件!(4)<SIDE:ST>
イングラム派のリーダー――ソロイ・T・イングラム。
彼が生まれ持った名前はソロイ・イングラムだった。
月萌国に亡命してきたさい、βたちには知らせられぬ情報を持つものとして高天原に迎えられ、タカシロ家の令嬢と再婚した。
そして彼の名はソロイ・タカシロ・イングラムとなった。
彼は翌年65歳で男子をもうけ、その血脈は今もって引き継がれているという。
つまり、ソロイ氏の子孫であるこのひとたちは、アスカやレインさんの遠い遠い親戚ということになる。
おじいさんには髪がほとんどないけれど、この部屋におかれたフォトフレーム。そこに収まった家族写真では、他のご家族同様、ふたりに似た晴れやかな金髪を輝かせていた。
顔立ちも、言われてみれば面影がある。
孫娘さんの瞳の青の色合いもよく見れば、アスカとレインさんに似ている。
「なんとまさか……お二人がわしらにお気持ちを寄せてくださっていたとは……」
「タカシロ家との間柄はよくはないとお聞きしていました。ですから、あたしたちにもいい感情はないだろうとばかり。
名乗りもしなかったのはひとえにそのためです。ごめんなさい、ほんとうに失礼を……」
おじいさんのシンさん、孫娘のメルさん。ふたりには謝られてしまった。
「いいっていいって!
そっかー、ふたりはアスカの親戚なんだなー!
ハギノアスカ、しってるだろ? あいつもタカシロ家の子なんだぜ。
いろいろあって母方の苗字名乗ってるけど、いまは親父さんと再会して、一緒に暮らしてるんだ。
親父さんは俺たちの味方だし、レインってやつもともだちだし。むしろいい感情いっぱいだぜ!」
けれどイツカがいつもの明るい笑みを見せれば、メルさんは一気に笑顔になってくれた。
「たしかに当主のリュウジ氏や、彼の率いる『赤竜管理派』とは対立していると言っていい関係でした。
けれど今は、Ω制度廃止のためにともに動き、時に鍛えてもらう間柄です。悪感情をもって接する相手ではありませんよ」
おれも説明を加えれば、シンさんもほっとした顔に。
まあ、感情的しこりが皆無といったらうそになるし、アスカにしてみればいまだ憎しみは消えていないだろう。それでも、おれたちは彼らにフラットな気持ちで接するべきだし、いまはそうできている……と思う。
そんなわけでこんな言い回しにはなったが、とりあえず安心してもらえたようだ。
しかし、それと同時に、シンさんは後ろ向きにぱたり。
「お、おじいちゃん?!」
「……すぴー」
聞こえてきたのは安らかな寝息。ちょっと失礼して『超聴覚』で聴いてみれば……
「眠っているだけ、みたいです。
起きさせちゃったから、疲れてしまわれたのかもですね」
「よかった……」
一瞬あわてたメルさんも、それを伝えるとほうっと息をはいた。
「あたしが余計なことしなければ、今頃おじいちゃ……祖父から話を聞けていたかもしれませんのに。
あたしでよければ、できる限りのことをお話ししましょうか?
祖父はこの通り高齢で、しかも胸に病を抱えています。私たちの血族に伝わる生まれながらのもので、付き合い方もわかってはおりますが、もしもということも、ないではないですから……」
「どうする、ふたりとも? なんなら俺からマルキアに連絡入れとくか?」
「そう……ですね。
あの、護衛でいっしょに来てくれてた子たちがいるんです。
その子たちもよければ、一度ここに呼んで大丈夫ですか?
ふたりはおれたちの友達だから、心配していると思うんです。
新しくできた友達とメルさんを紹介すれば、ほっとしてくれます。
軍の人は怖いというなら、やめておきますが……」
ジュディとレム君。
実はふたりは、おれたちの現状も位置も把握している。
おれたちが『拉致』されたとき、イツカがやつのなかのナツキに頼んで、声には出さず連絡してもらっているのがおれには『聴こえて』いたのだ――
『悪い、ちょっと野暮用! とりあえず隠れて見守っててくれるか?』と。
ともあれ、メルさんから帰ってきた返事は。
「『シエル・ヴィーヴル』の方々ですよね?
わかりました。お仕事の邪魔をしたお詫びもしなければなりませんし、ぜひご連絡を」
はたして数分後、ジュディとレム君はこんにちわーと現れたのであった。
ブックマークありがとうございますっ!!
うれしい……うれしい;;
頑張りますっ!!
次回、ソロイ・タカシロ・イングラムの話をサラッと。
彼が月萌に渡った理由は?
どうぞ、お楽しみに!




