56-7 イツカナ・プチ拉致事件!(3)<SIDE:ST>
ここ旧ステラ国領でもβ(平民)は、自ら戦うことなく守られ、心安らかに世を繁栄させるのがしごとである。
しかしかつての戦いでは、そのかれらが犠牲になった。
物資や労役、そして、戦士たちが戦いで使う『チカラ』をも捧げることになったのだ――命そのものを削って。
それも、ただしく真相を知らされぬまま。
反発した人たちは、捕らえられてΩの身分に。そうして拒否権ゼロで命を削られた。
彼らのうち生き残った者たちは、のちの混乱に際して月萌に渡った。
そんな彼ら『イングラム派』のリーダー――ソロイ・T・イングラムの写真をおれは思い出していた。
目の前に現れた、病身のご老人をみて。
奥の扉を開き現れたおじいさんは、きっぱりとこう言い、少女を制止した。
「わしはもし、戦争が再び起きたら、この命の力を、くにのために捧げる。
それはわしが、死ぬとしてもだ」
「おじいちゃんっ、どうしてそんな……
とにかくダメよ、寝てないとっ」
「今起きなくていつ起きる。
大変失礼を致しました、お二方様。
孫娘はまだ若く、それゆえ幼い優しさに流されただけなのです。
どうぞ、ご慈悲をくださいませ。
おとがめは、監督不行き届きを犯したこの、わたくしめのみに……」
あたかも敵将を前にした戦士のように、決死の気迫をみなぎらせ、深く深く、頭を下げる。
その人はそれでも、立っているのすらしんどい様子。
すっとイツカが動き、脇に手を入れて支えた。
「?!」
「カナタ」
「うん。……うさぎの耳で失礼します」
おれはこたえて、その人をせいいっぱい優しくうさみみロールにした。
そして、孫娘と呼ばれた少女に問う。
「場所を移そう。おじいさんの部屋に」
「は、……はい……」
少女の案内でおじいさんを部屋へ。
ベッドに座ってもらって、はなしは再開した。
とはいっても、先ほどの必死の様子は消え、雰囲気はずいぶん柔らかくなっていた。
「……ありがとうございます、お二方様。
突然無礼をしたβのわしらに、αの方々がこんな優しさをくださるなんて……」
もちろんド庶民のおれたちの返事なんか決まってる。
「失礼なんてぜんぜんないって!」
「おれたちももともとβの子供です。そう思って話してくださって大丈夫ですから!」
「それでは、ありがたく。……
孫娘たちはわしを案じて、このようなことを致しました。
ですがわしとしては、そんなこの子らだからこそ、守りたいのです。
先の短いこの命を差し出すことで、この子らが守られるならば。何一つも悔いはありません。
かつてそうしたことに反発し、ひいじいさんらといっしょに旗を振ったこともあるわしが、こんなことを言うのもおかしいと思われるでしょうが……。」
おじいさんがさっきよりは落ち着いた声音でそういうと、少女は冗談じゃないというふうに声を上げた。
「そんな!
そんな風にしてもらって生き残ったってきっと後悔するばっかりよ!
としや病気でだってあきらめなんかつかないのにそんなの……」
「その気持ちは、未来の子供たちに向けてやっておくれ。
皆が生きながらに約束の地に生まれ、平和に生きられる未来――いつか来るべきそのときのために、ベストを尽くし精一杯に生きてくれれば、わしは満足じゃよ」
と、そこへ響いたノックの音。
開いたままのドアの方を見ればそこには、さっき別れたばかりの人がいた。
「お取込み中……ってあれ、イツカとカナタじゃないか。どうしてここに?」
「コルネオさん!」
「どうなさったんですかコルネオさん?」
少女の問いにコルネオさんは『あれー?』といった様子で答える。
「いやな、さっきイツカナと話したらじいさんに会いたいって言うからよ。
ソロイさんの話、是非聞きたいからってんで」
「えっ」
「なんじゃと」
少女とおじいさんはそろっておれたちを見つめた。
敵だと思っていたら味方だった! まさしくそんな感じの顔をして。
筋肉痛がどうも治りませぬorz
左の肩は着替え中に痛めたっぽいです。虚弱すぎだろ!Σ(゜□゜;)
次回でこのエピソードはシメ、の予定です。
反骨の英雄たちの意外な関係が明らかになります。
どうぞ、お楽しみに!




