56-6 イツカナ・プチ拉致事件!(2)<SIDE:ST>
身もふたもない話をすると、おれたちをこっそり拉致するなんてことは普通の人には不可能だ。
なぜって、イツカの『0-G』がある。
それがなくても、そもそもイツカにはリアルチートの直観力がある。
そのイツカが、されるがままにさせていているということは――
はたして連れてこられた先は、そこから遠くない、一軒の小さな民家。
実行犯の若者たちは詫びながらおれたちを連れ込むと、お茶とお茶菓子を出してくれたのであった。
「ええと……おはなしというのは……?」
拉致なんだかご招待なんだか、ビミョーな状況に戸惑いつつ問いかければ、奥の扉が開いた。
現れたのは、おれたちとそう歳の違わない少女だった。
小さくほほを染めると勢い良く一度頭を下げ、鋭い目つきでおれたちを見る。
そして開口一番、言ったことには。
「お願いです。これ以上ステラ様に会うのはやめて、お国に帰ってください」
「もし今このまま帰ると、ステラ様を放っていくことになるのだけれど……
理由を聞かせてくれる?」
まずは座ってください、と勧められて席に着く。
お茶を口にすれば、ふわりとやわらかな香味につつまれた。
いっしょにお茶を口にした彼女は、すこしだけ落ち着いた様子で話し始めた。
「理由は二つあります。
ひとつは、兄のことです。
兄はふつうのまじめな一市民でした。
父について仕事を学びながら、いずれその跡を継ぐためにと毎日働いて、少し前には幼馴染の女性と婚約したんです。
高天原学園の闘技場動画を見ることもありましたけれど、あくまでそれは趣味の範囲内で……。
けれどあなた方がアイドルバトラーデビューしてから、どんどんのめりこんでいって、ついには自分もあんなふうになりたいと、家業も婚約者もほっぽり出して、高等魔術学院を受験したいなんて言い出したんです。
一度は思いとどまってくれたのですが、もし兄があなた方に会ったりしたら……
ステラ様のご快復も、それはされてほしいことですし、あなた方ならきっとできてしまうことでしょう。
けれどそうなったら兄はもうあなた方に夢中になってしまう。いっそ月萌についていくとか言い出しかねません。
兄が人生をダメにしないために、あなた方には早くお国に帰ってほしいんです」
おれとイツカは顔を見合わせた。
先の公聴会である程度予想していたとはいえ、こうして当事者から直に言われると、戸惑いも大きい。
けれど、女の子の頼みを無碍にはできない。
それも、人を巻き込み犯罪スレスレの方法をとってまで、伝えなければならないような状況にある子のそれを。
おれたちはまず、彼女に詫びることにした。
「お兄さんが……
ごめんね、そんなことになるなんて思ってもいなかった。
でも、何とかしないといけないよね。
それを考えるためにも、まずもう一つの理由を聞かせてもらっていい?
そっちなんでしょ、おれたちをこうして連れてこなきゃならなかった理由は」
「……はい」
彼女は小さく驚いたような顔をすると意を決した様子でうなずいた。
「これは……私が独断でしたこと。
その人たちは、今日のことを知りませんし、関係がありませんので」
そう慎重に前置きをした彼女は、テーブルの下でぐっと両手をにぎりしめると、少し震える声で話し始めた。
「ステラ様が快復なさったら。ソリスとの連合は解消になって、また戦争がはじまることでしょう。
そうしたらまた、私たち平民も巻き込まれます。
お金のあるひとは資産を。体力のある人は労役を。
何もない者たちは、生命力をTPBPと変えて、提供させられます。
私の知っているご老人は、病で先が長くありません。
そんな人がそれをさせられたら、死んでしまいます。
……おじいさんたちから聞いています。あの戦争のときは、病気やけがで先が望めなくなった人、力のない兵士たちも、そうしてどんどん……
だから、ステラ様を快復させるのは。
その人たちが天からのお迎えを受けたあとにしてほしいんです」
そういう彼女の顔は、真っ青だった。
「勝手なことです。わかっています。
ステラ様の一刻も早いご快復はステラの民の悲願です。
私の知る人たちだけをそうして助けても、後に続く人たちはきっとそうされる。
それでも、……」
「待ちなさい」
すると再び、奥の扉が開く。
そこにいたのは、やせた体に寝巻をまとい、軽い上着を羽織ったご老人だった。
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常に自信なんかないワタクシですが、その清き一票で(違)がんばれます……;;
次回、おじいちゃんと孫娘の想い。
どうぞ、お楽しみに!




