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1.4 シティメイドと都市伝説

2019/10/14 

ちょっとだけ見直し……あんまり変わってませんorz


2020.03.23

ちょこっと??? 紹介を付けました。

(文中で説明できないパターン……!)

 その夜、あの日の『天使』の夢を見た。


 かつておれは、ある女性に命を救われたことがある。

 十年前。このセカイに『生まれた』ばかりの頃だった。

 いつもの公園で、イツカとミライとボール遊びをしていたら、ボールが道路に飛び出した。

 うっかり追って飛び出したおれは、車にひかれかけ……


 そこに、天使が現れた。


 というとなんだが、シティメイドの制服である、白を基調としたメイド服に身を包んだ彼女は、本物の天使に見えたのだ。

 美しいライムグリーンの髪をなびかせ、しなやかな身のこなしでさっとおれを抱き上げた『天使』は、安全な歩道までひとっとび。

 五歳の子供だったおれは、驚きのあまりわんわん泣き出してしまったのだが、そのときおれを包んでくれたあたたかさとやわらかさは、今も記憶から消えることはない。


 それからも彼女はなにかとおれを気遣ってくれて、おれと彼女は、大の仲良しになった。

 でも、このところ彼女と会うと、なんだか気恥ずかしい。

 彼女と離れなきゃならないと考えると、ちょっとだけ、高天原に行きたくなくなる。

 彼女はアンドロイド、俺は人間。たとえ恋をしても、実ることなどないとわかりきっているのに。



 * * * * *



 あれからおれはすぐ『ティアブラ』からログアウトした。

 宿題の見直しもあるし『母さん』たちの手伝いもしたいし、なによりリアルのソナタに会って、ちゃんと元気なのを確認しておきたかったから。

 やはりというべきか、ソナタには「もう、お兄ちゃん心配しすぎ!」と笑いながら叱られた。

 宿題も、おそらくこれでカンペキだ。


 イツカのやつは99.9%やってないだろうし、やろうともしないだろう。

 ミライはまじめだからそこんとこは、さぼってないはずだけど……

 まあ、イツカにはイツカのやり方がある。それでここまでやってきた。

 いちいちおれが、うるさく口を出すべきことでは、ないのだ。


 おれたちも一応は人間。極端な生活をしすぎれば、当然よくない影響がある。

 だから『母さん』たちはそうならないよう、いつも気を配ってくれている。

 けど、逆にそうならない範囲内では、そんなにうるさく言われはしない。

 つまりイツカのやりかたは、この月萌ツクモエ国では許容範囲内ということだ。

 はたしてその日もイツカは、夕飯とお風呂のとき以外、ほとんど部屋から出てこなかった。



 それでもイツカは、学校には行く。

 めちゃくちゃ眠そうにあくびをしながら、それでも。

 おれとイツカが住む星降ほしふり園から10分の場所に、星降スタディサテライト――おれたちの学び舎がある。

 そこへと続く道のりを、二人並んで歩きつつも、おれはこう聞かずにはいられなかった。


「イツカさ。いったいあれから何時までプレーしてたの?」

「んー、わかんね。気が付いたら空、白かった」

「やりすぎだろ!

 もう……ちょっとはミライを見習いなよ」


 そうしてつい、突っ込みと苦言をぶつけてしまう。

 おれはイツカにすごくすごく助けてもらってる。それで言えた立場じゃないかもなのに。

 しかし、続くイツカのひとことに、いつものモヤモヤもぶっ飛んだ。


「ミライのやつもいたぜ。俺が寝るときまだ依頼で走り回ってた」

「マジ?!」

「なんでも期日なし指名依頼がわさっときたとかで」

「ああ……。」


 昨日時点で、イツカのTPは97万、おれは94万、ミライは88万。

 すこし、差があることは否めない。

 それを案じたミライのファンのひとたちが、掲示板で呼びかけてくれたのだろう――おれたちが一緒に高天原に行けるよう、ミライに何か依頼をしようと。

 ミライは自分宛にと寄付をもらうと、そっくりそのまま教会に寄付してしまうやつだから。


 それはミライのやさしさであると同時に、プライドでもあるのだと、おれは思っている。

 おれたちの間の残酷な隔たりを、努力で乗り越えてきた男としての。

 だから思わず、口をついた。


「だってのにイツカはまた狩りにいってたの?」

「えいや、だって俺ハンターだし……って、ライムちゃん!」

「ふえっ?!」


 不意のことで変な声が出た。

 そーっと振り返ればそこに、『彼女』がいた。

 腰まで流れるライムグリーンの髪に、まっ白なメイド服の女性は、今日もやわらかく笑ってくれた。

 その優美な立ち姿、レモン・ソレイユにどこか似つつもしっとりとしたたたずまいは、あの日と全く変わらない――両手で長いほうきを持っている以外は。


「おはようございますカナタさん、イツカさん」

「え、あ、その……おはよ、ライム……」


 ライムはきれいな声で鼻歌を歌いつつ、掃除に戻り去っていく。

 うっかりぼうっと見とれていたら、たのしそーなイツカの声に不意を打たれた。


「カナタ。ライムちゃん『身請け』するんだったら、応援するぜ?」

「はあっ?! ちょっなにいってんのおまっ」


 叫んでしまって、慌てて口をふさいだ。こっそりとライムのほうを見れば、変わらないペースでほうきを動かしている。よしセーフ。

 だがイツカのやつめは、さらにいい笑顔でたたみかけてくる。


「素直になれって。好きなんだろ、ライムちゃん」

「あのね……

 ライムは星降町のシティメイドチーフだよ?

 みんなのアイドル、みんなの『共有財産』、なんだよ?

 それをおれが独り占めとかさ、いくらなんでもありえないだろ!」


 イツカが言っている『それ』は、ライムを国から買い受けることを指す。

 ライムは、『シティメイド』と呼ばれる汎用アンドロイドの一人。

 おれたち市民の快適な生活のため、お年寄りの話し相手から迷子探し、治安維持活動に土木工事まで、なんでもこなすすごい人(?)たちだ。

 そんな彼女らは月萌国所有の『動産』として、市民より一段下、最下級であるΩ(オメガ)位の民と位置づけられている。

 それを、個人の所有とするため国に対価を払い、身柄と所有権を手に入れることを『身請け』というのだ。

 そのあと買い手が望めば、自由な市民――β(ベータ)位にしてやることも認められている。


『身請け』とかいうと、前のセカイでは旧態依然の感覚があるあのシステムを思い出して、ちょっとモヤッとするものがないでもないけれど……


 さいわい、月萌国は『財産』の管理をしっかりとする。つまり、彼女らの心身を守る対策は多重にとられている。

 まず『シティメイド』は自衛の権利を認められている。

 そして全員が、軍用レベルのコンバットオプションをインストールされている。

 つまり、愚かにも力づくでかかったりすれば、たちまち取り押さえられて留置場行きとなる。

 たとえその場は振り切ったとしても、画像をはじめとした各種データは共有され、法に基づくしかるべき対応がとられるようになっているのだ。

 そもそもシティメイドは町の治安維持も担っているのだから、当然のことである。


 それでもライムに抱き着こうとして痛い目みる馬鹿野郎は毎年数人いるのだけれど。

 同じ男として恥ずかしい。



 それはともかくとしてイツカは、おれの懸念を軽く一蹴した。


「そっか?

 αになればそのくらい許されるだろ。

 それに、お前がライムちゃんにお熱なのは町中のみんなが知ってんだぜ。みんなよろこんで祝福してくれるって!」

「……でも、『ライムは』そうじゃないかもしれないじゃん……」


 ライムはシティメイド。町の住人の安全快適な生活をまもるのが仕事。

 つまり、おれを助けたことも、優しく気遣いをしてくれることも、彼女にとってはすべて仕事でしかない、かもしれないのだ。


「そもそも、ライムはアンドロイドだよ。それを好きとか……おかしいだろ……」

「カナタ。

 気づいてんだろ。ライムちゃんの受け答え、あきらかに他と違うときがある。つまり、ボットじゃない。

 ライムちゃんはもしかしたら、アンドロイドじゃないかもしれないぞ」

「えっ、……」

「聞いてみろよ、一度ちゃんと。

 高天原いったら、卒業まで連絡できないんだぜ。

 まあ俺たちだったら三か月かそこらでパパッと卒業するかもだけどさ!」

「……ありがと」



 聞くところによれば、高天原では不老不死がすでに実現されているらしい。

 ライムは、その恩恵を受けているとか……

 いや。それはないだろう。


 たとえそれが本当だとしても、そんな技術、適用されるとしたら『エクセリオン』ぐらいだ。

 この国の特権階級、αプレイヤーのさらに最高峰。

 そんな存在が、最下層のΩに身をやつし、町の掃除をしてる?

 あり得ない。


 だって、ここは現実世界だ。

 前のセカイとはいろいろ違うけど、たしかに現実なのだから。



 だから、もしもライムが人間だとするなら――

 表面換装マスクエフェクトを施された『債務奴隷』、もしくは服役中の受刑者。

 そっちの方が、まだありうるパターンだ。


 あくまで都市伝説としてささやかれているレベルの話だが……

 月萌国では借金を返しきれなくなった者や、もと思想犯などが、ティアブラ内と同様の表面換装マスクエフェクトを施され、町でシティメイドとして奉仕活動をさせられているという。

 余計なトラブルを生まないよう、思考を一部制御され、受けこたえをアタマに組み込まれたボットで管理されて。


 いやいや、こっちもいくらなんだって、奇想天外すぎる話だ。

『ティアブラでオーバーキルや魔物堕ちをやらかしたプレイヤーは、実はΩの身分に落とされている。その日のうちに黒服によって高天原の地下に連行され、β復帰に必要なポイントを稼ぐまで、魔物キャラの操作をえんえんとさせられ続けるはめになる』というのとおなじくらいに。



 そう。ライムにかぎって、そんなことはありえないんだ。

 もう一度だけふりかえり、誰より清楚な後ろ姿を確認すると、俺はイツカを促し先を急いだ。

 TP100万も視野に入ったいま、遅刻でポイントマイナスされるなんて、まったくばかばかしいことなのだから。

ちょこっと(……いやけっこうがっつり)紹介!


表面換装マスクエフェクト

よくあるマスク処理……『アバターや装備の表面に『マスク』をかぶせ、性能・実態はそのまま、見た目を変える』処理に似たもの。

ただし『ティアブラ』では、かぶせられる『マスク』はある程度の実態を有し、その密度の変更も可能となっている。

そのため単なる『マスク』ではなく『表面換装マスクエフェクト』と呼ばれる。


これをアバターや装備につけることは、『~をかける』と表現される。

このことは、基本として『どのプレイヤーでもある程度(※)まではノーコストで可能』だが、『呪い』など特殊な理由によっては、ある程度の強度で『固定』されることもある。

いずれにしても、表面換装マスクエフェクトそのものの、ステータスへの影響は一切ない。

ただし、実態を持った表面換装マスクエフェクトがゲーム中での動作などに影響し、それによってダメージを受けたりすることなどはある。


(※だいたい、ロングをショートにしたり、スマートな人が豊満にしたりする程度です)


例、アバターはショートヘアだが、『表面換装マスクエフェクト』をかけて一時的にロングヘアにした場合。


密度:通常(密度の値をいじらないとこれになる)

→普通の髪同様、触ることや、結ぶことなどが可能。

→ステータスは増減しない。ちょーロングでも重さはゼロ、積荷値などにも影響なし。

→どっかに引っかかってダメージを受けたり、戦闘中につかまれて攻撃され、ダメージを受けることとかはありうる。


↓そこで……↓


密度を透過にした場合(『透過をかける』と言われる)

→触れない。見た目だけ。

→ステータスは増減しない。ちょーロングでも重さはゼロ、積荷値などにも影響なし。

→どっかに引っかかることもないしつかまれることもない


↓ちょっとものたりなければ……↓


いいとこどりで、ロングヘアの裾の部分だけ密度:透過にするのがよくあるパターン。

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― 新着の感想 ―
[良い点] イツカ、カナタ、ミライ、と3人の少年が少年らしく元気で、でも色々と思いや想いを抱えているのが良いですね。 [一言] こんばんは。 実はここまで3回ほど読み直しました(^_^;) いや、最…
2020/10/16 22:51 退会済み
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