55-2 三海和平協定締結記念式典と、お疲れうさぎ<SIDE:月萌>
おれは自分の容姿に若干のコンプレックスがあるといっていい。
なんというか――半端なのだ。
イツカのようなカッコよさもない。ミライのようなかわいさもない。
みんなは綺麗だと言ってくれてるけれど、本物の女の子たちのほうが絶対的に綺麗だ。
なのに女の子のように扱われるとか、解せなすぎる。むしょうにむかっ腹が立つ。
それは当然、ソリステラスに行ってるおれだって同じはずだ。
けれど、画面の向こうのおれは、堂々と立って一礼。力強くこんなことを言ったのだ。
『まずは、この場を設けて下さった方々に。そして、おれのためにと全力を尽くしてくれた黒猫の騎士に。惜しみなき熱をこめた戦いで、おれたちを熱くさせてくれた誇り高き赤獅子に。
こころから、感謝を伝えさせてください。
……そしてまた、いくつかの補足をさせて下さい。
イツカがただいま申し上げたことは、あくまで自由意思に訴えかける『お願い』です。
ライアン=レッドストーム氏には、これをことわる権利がありますし、それはおれたちの名において保証します。
甘いという方もいらっしゃることでしょう。けれどこうしなければ、おれたちは自分で申し上げたことをみずから裏切ることになります。
おれたちは、『だれもが望まぬ境遇に落ちることのない、平和で幸せに満ちた世界を目指している』と申し上げました。
そのおれたちが、和平への協力を『強制』するのは、本末転倒のことであるからです。
もちろん、古くからのしきたりをおれたちも尊重いたします。
どんな方が相手でも、相応の理由と想いをもって申し込まれる決闘を門前払いにするようなことは致しません。その方が決闘に勝利したさいの条件として、和平撤回の強制を持ち出すのを止めることも。
それでも、おれたちは。
その決闘に勝利したとしても、和平への協力を命じ、強制することを条件とすることはいたしません。誇りにかけて』
散発的な拍手が、おおという声が。小さな舌打ちがため息が、そこここで上がった。
たしかに、向こうのおれの言う通り。
もし無邪気に『勝ったんだから協力して!』などと言っていれば、たちまち揚げ足を取られ、あの場はめちゃくちゃになっていただろう。
そんなことにさっと気づかないなんて、おれはどうしてしまったのだろう。
さらにやつときたら、こんなユーモアまで付け加えてきたのだ。
『おれたちが決闘による強制を選ばないのは、おれたちの掲げた目標のほかに、もうひとつ理由があります。
おれたちはその危険性を、先ほど改めて認識したためです。
せっかく温まった場を白けさせないために黙っておりましたが、おれは男です。
もし先の決闘により、おれがライアン氏の胸に身を投げるようなことがあれば。
双方確実に、きまずい時間を過ごすことになったことでしょうから』
ウインクひとつ、茶目っ気たっぷりこう言えば、場には笑いが起こった。
まだまだ反感を秘めた人は当然いるが、場の雰囲気は向こうのおれたちの味方となった。
おれももちろん、さすがおれ、という顔で拍手を送ったのだけれど――
『ゼロブラ館』に引き上げたおれは、がくっと落ち込んでしまったのだった。
「はあ……なんだろうおれ。てんでダメじゃん。
こんなことに気づかないとかさ……」
ライムの入れてくれた、あったかいミルクティをひとくち飲めば、こんな弱音が口をつく。
「ど、どどどうしたんだよカナタ?!
ま、まさか外国でまで女の子扱いされたから……」
「イツカ!」
いらんことを口走るイツカにハヤトがツッコミを入れてくれる。
「あー……カナタ?
ソリスの野郎はゴツいのが多いから、へたするとノゾミ先生ぐらいでも女性と間違われるってきいたぞ。それにうさぎで男なのはほとんどゼロだと。だから……」
「つまりおれはもう、完全に女に見えてたってことだよね……」
乾いた笑いが口をつく。
「別にこの見た目そのものが悪いってんじゃないんだよ。ソナタなんか激かわいいじゃん天使じゃん。でも野郎でさ、しかも15でこれって。ありえなくない?
わかってるよシオンだって17であんなちまカワ系なの奇跡だけどさ、あれはいいんだよかわいいから。ミライと並ぶくらい可愛いよ、中身だって可愛いよ。でもおれ可愛いとこなんかないし。綺麗ったらソラやミツルなんかあんな綺麗なのにちゃんと男らしくてさ。まあこういうところが男らしくないんだよねわかるよわかってるよ。でもさおれだってそれなり頑張ってんだよ。なのに」
「カナタああああ!! もどってきてええ!!」
そのときイツカにすがられて正気に返る。
イツカはすっかり頭の耳を折っている。
「カナタはなんも悪いとこないぞ……ぜんぶぜんぶひっくるめてカナタなんだぞ……
そりゃーたまに大魔王だけどさ……」
「…………」
「わあああごめんすみませんいまのは軽い冗談だからあああ」
言葉が出なくて黙ってしまうと、もいちどわーんと抱き着かれた。
とりあえず、視界にはいるもふもふに軽く触れてみる。
優しい手触りに、ちょっと視界がぼやけた。
「うんうん。こりゃ完全にお疲れだね。
ま、しかたないよ。ここまで一年ちかく、ほぼずーっと走り通しだったもんね」
アスカがご託宣をくれると、ライムもうなずく。
「わたくしもそう思いますわ。
どうかしら、この辺りで一度、しっかりとお休みをいただいてみては?
数日のリフレッシュ休暇ではなく、一週間ほどまとめてどんっと。
まずはすきなだけ爆睡なさって、そうしたらおいしいものを食べてだらだらとして、遊びに行きたくなったら、好きな場所へゆけばいいのですわ。
あとのことはお任せになって」
私も食っちゃ寝したーいっ!(叫)
次回、視点はふたたびソリステラスへ。式典後の様子を描く予定です。
どうぞ、お楽しみに!




