Bonus Track_54-4 胸の雪解け~ヴェール・ライアンドゥーテ・シュナイザーの場合~
2021.06.04
先日から苗字間違ってました。修正いたしました!
シュナイダー→シュナイザー
寝台の上、ライアン=レッドストームは上半身を起こしていた。
かつて畏れた、それでも慕わしく思うことも多々あったその人だけれど、長く離れた今となっては、接し方がわからない。
「気が付き……ましたか」
「……お、おお……」
いっそ全くの他人だったら迷うこともないのだが。居心地の悪さを感じながらかけた声に、彼もバツの悪い様子で答えを返してきた。
なぜ、こんな状況になっているか。イツカがそう言ったからだ。
あいつはギリギリで決闘に勝った。
けれど、やつが彼に要求したことは――
『あのさ。俺の友達と……会ってやってほしいんだ。
あんたたちが嫌う『カードキャスター』だけど……すっげー強いし、いいやつだから!
うさみみふかふかだしな!』
――そう、私との面会。
まったく、余計なお世話というものだ。
彼は私を家から追い、その後探すこともなかった。なぜって、まともに探していたらもう会っていたはずなのだから。
それどころか、すでにちいさな葬儀が出されていたと知って、私はマル姉さまの姓をもらったのだ。
かれらとの縁もこれまでだ。そう思って。それなのに。
いったい、私にどうしろというのだ。戸惑いといら立ちをふくみつつ口をつぐむと、彼は「そこを、どいてくれ」と言ってきた。
わたしはさっと踵を返した。ああ、そうだろう。とっくに厄介払いした『失敗作』などにかかずらっている暇などないということだ。どこにでも行ってしまえ。もう二度と……
「違う、違う! そうじゃない、待ってくれ!!」
しかし背後から響いてきたのはひどくあわてた声で、振り返るとみえたものは、私の立っていた場所で――つまり、寝台を降りて床に座し、額をつけた彼の姿だった。
「俺たちは、お前が死んでしまったものと……
滝壺で見つけた荷物をみつけて、そう思い込んでしまったのだ。
もっと、もっとよく探せばよかった。
すまなかった。けしてお前の思っているような気持ちではなかったのだ。
葬儀は、その……
お前を探して半狂乱で森をうろつき、仕事もしなければ食事もほとんどとらぬものが、一族のなかにいて……
そのものに、区切りをつけさせるために行われたもので、だからあくまで小さなものにとどめておかれたというわけで……」
身を縮めるそのようすから、私にはわかってしまった。
「それは、あなたのことですか」
「……ああ」
虫の鳴くような声で、彼は答えた。
「絶望したことだろう。許しがたく思ったことだろう。
だから、許してくれとは言えない。だが、謝罪だけでもさせてほしい。
すまなかった。すまなかった。本当に、申し訳なかった……!」
涙の混じる声での謝罪。予想だにしていなかったそれに、わたしは一体どうしていいかわからない。
そのとき、だれかにぽんと背中を押された。
一歩、彼に近づいて。
その高い体温をほのかに感じたら、私はその背に手を触れていて。
「ベ、ル……?」
その声を聴いたら、胸の中、凍ったものは溶け出していた。
海外の名づけルールとか調べていたら、意外と時間を食いました。
楽しいんですけどね!
次回、新章突入。
この直前の様子などを、月萌サイド視点でお送りしてのスタートです。
どうぞ、おたのしみに!




