54-8 対決! 灼腕の獅子!(3)
イツカが斬りかかる、ライアン氏が打ち掛かる。
かたや、複数レアメタルを融合した神剣。
かたや、そんな神剣に打ち負けぬ硬さをまとった獣爪。
硬く重い音を立てながら、ひたすらに連撃が交わされる。
超攻撃スタイルどうしの戦いは、しょっぱなっから白熱していた――物理的にも。
ライアン氏の腕は、一振りするたびに熱を帯び、一分もしないうちに炎さえまとうようになっていたからだ。
イツカに対して彼が有利な理由が、これだ。
イツカは属性攻撃の手段をほぼ持っていない。めっちゃ光ってる『0-G+』も、あれは完全に物理である。
つまり、ライアン氏の拳が伝える衝撃には対抗できても、振りまかれる赤熱は打ち払えない。
それは、身のうちに宿るナツキのアシストをうけても、だ。
もちろん、イツカのモフリキッドアーマーに仕込んだPC&P機構――簡単に言うなら、ブローチにセットした魔晶石のチカラを、アーマーに縫い込んだミスリル糸に伝わせて、防御を行うしくみ――は、炎属性対応のセッティングもされている。
腕甲につめこまれた『強欲』のチカラも、余剰の熱を吸収する役にたつ。
それでも獅子の灼腕は、確実に周囲を加熱していく。
「ライオンってさ! 暑いの苦手じゃ! なかったっけか?!」
「その辺の獣と! 一緒にするで、ないわ!」
軽口をたたくイツカも、めずらしく大粒の汗をかいている。
これも、イツカが不利な点だ。
縦にも横にも大きいライアン氏に比べ、イツカは平均より少し小さめの15歳の細マッチョ。体内にため込める水分量が絶対的に少なく、より脱水状態に陥りやすいのだ。
スタミナもライアン氏の方が上のはず。つまり、長引くほどに不利。
幸いなのは、どちらにもそのつもりがなさそうなところだけれど……
それでもイツカは、決め手をつかめない。
ライアン氏の技量はシミュレーションバトルのとき以上で、上空に跳んでの『0-G+』を放ついとまがないのだ。
第一覚醒『0-G』はすでに発動している。おれを守るためにと、イツカは速く、硬く、重くなっている。それでもなのだ。
その間にも、ライアン氏の炎は、彼の全身を包み、攻防一体の鎧を形成していく。
こんなとき、おれがいたら。『斥力のオーブ』で強引にでも距離を作ってやれる。アイスボムで強制的に温度を下げつつ視界をさえぎって。フレアボムでライアン氏をオーバーヒートさせてしまってもいいだろう。『卯王の薬園』は嫌な方の意味で相性最悪だが、地面を揺さぶって足元を乱すことなら可能だ。
つぎつぎ思いついてしまうのに、なんにもできない。おれとしては、もどかしくてしかたない。
それでも、いまおれができることは。
「イツカ――! 『短距離超猫走』で引き離せない――?!」
こう声をかけることくらいだ……作戦通りに。
「させんっ!」
「『短距離超猫走』!!」
ライアン氏が一歩強く踏み込み、イツカをとらえようとする。
対してイツカは、『短距離超猫走』発動と同時に、むしろライアン氏に向かって地を蹴った!
さっと後ろ向きに構えなおされた剣の柄が、二人分の加速度でライアン氏のみぞおちを強打する。
よし、勝負あった! おれは会心の笑みを浮かべた。
しかし。
「ぐ、ふ……倒れん、おれは、……これしきでは、倒れんぞ……」
ライアン氏は、崩れなかった。
目論見通り、イツカを両手でがっしり抱え込む。
あかがね色の巨躯はそのまま、ぐわっと燃え上がった!
「……っぢゃ――――!!」
「イツカ――――!!」
灼熱に焼かれたイツカが悲鳴を上げる。おれも叫ばずにいられない。
このままではアウトだ!
しかし、ライアン氏はふいに炎を鎮め、イツカにこう問いかけた。
「さきほど。剣を構えなおさず突っ込んでくれば、俺はやられていただろう。
だがイツカよ、お前はそうしなかった。
だから俺もお前に、いま一度チャンスをやろう。
降伏し、このまま月萌に還るならよし。
だが、そうしないというなら……」
ライアン氏の、丸太のような腕に力がこもる。
絞めて落とすつもりか、それとも熱ダメージでダウンを狙うのか。
イツカはしかし、急に笑い出した。
「そっか……そっかぁ。
いや、俺まだやれることあった。
俺、カナタが笑えるようにさ。
『めっちゃ速くて』『めっちゃ硬くて』『めっちゃ重く』なれるんならさ。……
『めっちゃ熱く』もなれるよなって!
だから俺もそれ、やってみる! つーかカッコイイからさっ!!」
そしてむしろ、自らライアン氏に抱き着くと、「ふんぬぁぁぁぁぁぁ!!」とうなり始めた。
あっけにとられたのはライアン氏だ。
「お、おい? いや、いくらなんでもそんなことが……ぬ、待て、まさか、ちょっ、なあああっ?!」
ぽかんとイツカを見下ろしていたが、やがてあわてた様子に変わる。
イツカの身体から、ゆらゆらとかげろうのようなものが立ち上っている。
加熱し始めているのだ。まるで、アイロンか何かのように。
ライアン氏は全力でイツカを引きはがそうとし始めた。
だが、ここでナツキも根性を見せる。
『オレもっ、これくらい、できなくちゃあっ……イツカお兄ちゃんの役に、たつんだからああっ!!』
イツカの耳飾りから漏れる、可愛らしい声。同時にイツカの身体が、あかね色の燐光に包まれる。
かくして黒焦げになりかけた黒猫騎士は、力自慢の赤獅子にがっしり組み付いたまま、赤く赤く燃え上がったのだった。
昨日の活動報告でナンバリングがずれていた? ハハハ、夢でしょう(滝汗)
次回、決着後のあれやこれ。どうぞ、お楽しみに!




