54-6 対決! 灼腕の獅子!(1)
それは、ここに来て最初の朝。ステラマリス城に向かう車中でのことだ。
おれたちは、レム君を通じて打診を受けた。
『今のうちに手を打っておきたいですので、聞かせてください。
両日中にも平和協定は結ばることでしょう。そうなれば、まずは即日、式典が開かれます。
このときのパレードにあわせ、デモ活動をしようって人たちは、それなりの数います。
また、式典に列席し、その場で異議を唱えようと考えている人たちもいます。
ソレア様はそういうのバンバン来いな方なのですが、お客様であるお二人をそれにさらしてしまうのは、僕たちなんかは少し気になるんです。
それゆえ、移動の際のパレードは、ソリステラス島――式典会場である小島だけに絞ることや、式典本体を無観客で行うことも可能ですが、おふたりのご意見はいかがですか』
イツカはいつになくまじめに答える。
『んー。俺もそういうのは無理に抑え込んだらダメだと思うけど。
そもそもかなり『頭越し』なんだろ、この件って?』
『ええ。理由はどうあれ、別の国の子供をさらってくるつもりですがどうですかなんて、とても民意に問えません』
レム君の言葉に、彼を含むメンツが大なり小なり気まずそうな顔になる。
『だったら俺は、それに向かい合わなきゃだと思う。カナタは?』
『そうだね。おれたちも同意で来たんだ。その件についてはおれたちも、語る必要があるよ。
ただ、式典がめちゃくちゃになるのは困るし、パレードの見物客や沿道に被害が出るのは避けたい。
だから完全ノーリミットではなく、ある程度で収まるよう、式典に列席してもらって……決闘を受ける形がいいのかな? って考えるんだけど』
『さすがです、おふたりとも。
僕たちもそれが一番おさめやすい形と考えていました。
『ソリス国のしきたりによる決闘』。当日の反対運動を、これに集約するのが。
では、ソリス系タカ派の有力者たちも式典の列席者として来られるようにしておきましょう。
ただ、彼らは本当に強いですよ。
お二人が負けるとは思われませんが、主たる者たちとの会話、バトルのシミュレーションをしておきますか?』
イツカとおれは二つ返事でお願いし、そして今、臆することなくここに立っているというわけである。
列席者の人々にも、予測された事態なのだろう。ほとんどの人たちは特にあわてることもない。
そんななか、赤髪の獅子と黒猫は正面から対峙する。
「……ふん。大方、我らの戦いぶりや質問を予習しておいたのだろう。
だが、その程度で勝てると思うな!」
「ああ、それだけで勝てるとか思ってねえ。
全力で行く! 第三覚醒だって辞さないぜ!!」
「いい度胸だ! 貴様が負けたら女を連れて国に帰れ!!」
今なにかおかしな言葉が混じってた気がしないでもないが、それは後だ。
ここはイツカのターン。釈明はあとでゆっくり聞かせてもらうとしよう。
おれはドンと構えて、ライオン耳と猫耳、二匹の鳴き合いを見守ることとする。
「っしゃ!
あんたが負けたら、口出しさせてもらうからな!」
「貴様相手に負けなどありえぬ!!」
言葉を交わす間にも、男性の気迫はさらに膨らむ。
恵まれた体格さえ、さらに大きくなっていくようだ。
こんなシーン、どっかで見たような気しかしない。
ちらっとモニターに目を走らせれば、はたして月萌会場ではイワオさんがめっちゃテンション上がってた。
『よし! よしっ!!
漢と漢が志をかけ拳を交わす!! これに勝るものはない!!
ゆけっ、イツカ! がんばれ、赤いやつ!』
「…………………………。」
いくらなんでも、文句をつけた側からおめめきらっきらで声援されるとか思わなかったのだろう。
赤髪の壮年はしばしぽかんとして……おもむろに咳払い。
「なれば決闘だ!
我はライアン=レッドストーム。人呼んで灼腕の獅子ライアン!」
「俺はイツカ・ホシミ! 黒猫騎士って呼ばれてる!」
『赤いやつ』あらためライアン氏が、名乗りとともにぐっと拳を突き出す。
あわせてイツカも同様に。
ここに、突発に見えて実は準備済みの決闘が、始まるのだった。
全身筋肉痛で不調の作者の前に天使が舞い降りた……勝つるっ!!
(訳:ありがとうございます! がんばれますっ!!)
次回、赤と黒のバトル! お楽しみに!




