54-5 三海和平協定締結記念式典と、乱入者!
ソリステラス島の船着き場は、ステラマリスの港に負けないくらいの人出であふれていた。
昔は名もなき無人島だったなんて、信じられないほどのにぎわいようだ。
歓声の中、これまたおとぎ話に出てくるような白の馬車に乗り換えたら、平和記念館までまたパレードだ。
鼓笛隊に先導され、ゆっくりと走る馬車の中から、おれたちは笑顔で手を振った。
このソリステラス島は、ソリス国、ステラ国の中間に位置する幾多の小島の一つだった。
資源もなければ、軍事拠点にするほどの広さもない、顧みられぬ小島はある日、二つの国の平和の象徴となった。
それから百年。ここはすっかり、賑やかな観光スポットとなっている。
もしも、ステラ様が元気になったら、連合国は再び割れ、このにぎわいはなくなってしまうのだろうか。
いや、そうさせないために、おれたちは来たのだ。
セレネ様の『承認』はもうもらってある。
ソレア様とステラ様のをもらったら、急いでグランドマザーに会い、ミッション『エインヘリアル』の廃止、もしくは一部変更をしてもらうのだ。
いまここで、おれたちに手をふってくれている人たち。その笑顔を、守るためにも。
その一方で、冷たく刺すような瞳でにらみつけてくる人たちの存在も、はっきりと感じられたのだが、それについてはまた、後だ。
記念館に着いたら、少し休憩。そのあと、式典に臨んだ。
華やかなファンファーレにあわせ、紅の幕が上がる。
正装で並ぶ女神ソレアと、女王ステラマリス十二世、そしてイツカとおれは、まぶしすぎるほどのフラッシュと、耳が痛いほどの歓声のなか、笑顔で手を振る。
舞台奥のスクリーンには、月萌側の画像も映し出されていて、こちらではセレネさんとエルメス皇女が同じように、笑顔を見せて手を振っている。
おれたちそれぞれが短いスピーチをしたのち、みんなの前で握手。
バルコニーに出て、集まってくれた人に手を振れば、おしまいである――公式には、だが。
はたしておれたちのスピーチが終わりかけたとき、それは起きた。
イツカと俺のスピーチは、こんなものだった。
おれたちはこの世界の、全ての人々を救いたい。
たとえば、世のゆがみから生まれる3Sに憑かれてしまったり――
『星の子』として生まれつつも、心臓に枷をはめられハートチャイルドとなってしまったり――
懸命に生きていても、ひょんなことでΩの身分に堕ちてしまったり、その瀬戸際で、苦闘を強いられたり。
そんな人たち、全てをそこから救い出し、自分らしく生きられるようにしたい。
そのために、いずれこの世界をつかさどる偉大な女神、グランドマザーに会いに行く。
そして、平和と幸せに満ちた世界を実現したい、と。
対して、列席者の一人、学者風の男性がふいに立ち上がった。
彼の一言は、その場を騒然とさせた。
「平和が欲しいならなぜ、いままで鎖国し閉じこもっていたのですか! 救いたいならなぜ、もっと早く手を差し伸べてくれなかったのですか!!」
すでに予想されていた言葉。慌てることはない。
イツカが即座に、まっすぐに答えを返す。
「平和がほしいと言い出したのは俺たちだ。救いたいと言ったのも。
そのために『月萌杯』を突破した。そしてみんなを説得した」
「平和が欲しいなら降伏なさればよろしいのでは?」
言葉に詰まる彼につづき、流麗な声が聞こえてきた。
そちらを向けば、和装風のドレスの美しい女性がひとり。
応えるのはおれだ。
「降伏して手にするものは平和じゃなく、喪失です。
それを厭うからこそひとは戦う。
そう、故郷の先達が申しておりました」
この言葉は以前、議会で聞いたもの。口にしていたのは、リュウジ・タカシロ氏だ。
なんだかんだで、彼には鍛えてもらった。
月萌に戻ったら、もう一度話をしてみたい――ふとそう思った。
「双方が安心して矛を収めるには、理解が必要です。
言葉で語りあい、理解し合う。そのことは人であるならば、つねに最も必要なものだとおれは思います」
「笑止!!
語り合い、譲り合えぬから人は戦う!」
続いて立ち上がったのは、獅子に似た風貌の壮年男性だった。
燃えるような赤い髪を振り立てて、俺たちに指を向け、割れ鐘のような声で吠えた。
「月萌との和平など、我らは認めぬッ!
月萌代表のイツカとカナタよ。ソリスのしきたりにのっとり、我は決闘を申し込む!!」
やっぱりこうなった、の展開です。
次回、どうしてこうなった、の種明かしと、バトル開始です。
どうぞ、お楽しみに!




