Bonus Track_54-2 歌とダンスとマリアージュ!~アオバの場合~
「よっしゃ、そろそろちょっと休憩しよう!
これなら本番もよゆーでいけるぜ!」
みんなに声をかけると、ミクが待ってましたと声を上げる。
「そうね! さんせーい!」
「お茶、あるから。……プリンも、あるし」
「え、プリン?! つくってくれたの?!」
「……うん」
けれど、ミクのお目当ては休憩そのものじゃない。
この、自覚なしにお熱いふたり――ミツルとモモカちゃんのラブラブっぷりだ。
にししと笑って俺のとなりに退避、二人の空間を作ってやって嬉し気に見守る。
もちろん俺も御相伴だ。
うんうん、うらやましい。もとい、微笑ましい。
前までは、なにかと逃げ腰になりがちなミツルを、モモカちゃんがひたすら追っかけてるという構図だったけれど……
今ではミツルのほうからも、モモカちゃんの好きなプリンを作ってあげたりしている。
さらに二人の距離をぐんと縮めたのは、月萌杯突破記念パーティー――正確に言うと、式典終了後、夜会パートでの国立迎賓館ホールでのライブステージ――だ。
俺たちももちろん、イツカとカナタが(くぐつではあるけれど)『虚無』を飲まされ、ソリステラスに行く作戦を知らされていた。
けれど、それはもちろん秘密。
なんにも知らないふりをして、ステージに上がったのだ。
それも、まさにその時間帯に。
俺たちチームはみんな、気づいてません。なーんにも、企んでません。セレナ・タカシロたちに確実に、そう思わせるために。
歌も、ギターも、ダンスも、繊細な技術だ。くぐつを使っては、晴れの日を飾るだけのパフォーマンスは発揮できない。
俺たちは励まし合ってステージに臨んだ。
俺とミクは声を掛け合いテンションを維持。ミツルとモモカちゃんは寄り添って、勇気を分け合っていた。
結果、ステージは大成功。
俺たち四人はその功績により、四ツ星に昇格したのだが――
おかげでさらにでかい話が舞い込んできた。
月萌とソリステラスの、平和協定締結記念式典でのライブ出演。
まさしく、国際的な晴れ舞台である。
ミツルのギターと歌、ミクとモモカちゃんの歌とダンスには、それだけの価値があると思う。
けれど、俺のバックダンスは、どうなのだろう。
俺はここに来る前、ちょっとだけダンスをやっていた。
けれど、もともとは自己流。ちゃんとしたレッスンを受けるようになったのは、三人に付き合ってステージに上がることが決まってからだ。
つまり、ぶっちゃけ素人に毛が生えたレベルでしかない。
みんなは褒めてくれるけれど、正直できてないところだらけだ。
イツカやカナタ、三銃士のような華もない。
ユニットのムードメーカーポジの俺が、このタイミングでそれを口にしたらいけないから言わないけれど……
「アオバ、ちょっといい?
見てもらいたいものがあるんだけど」
「え? お、おう……」
そんなことを考えていれば、ふいに肩をたたかれた。
まじめな顔の、ミクだった。
なんだろう。予測もつかないままに客席へ。
そこで見ていてと座らされてぽかんと眺めていれば、ミクはステージへ。
袖から現れたのは、うさもふ三銃士の三人だ。
「いい? 率直な意見を聞かせてね。
あたしたち、まじめにやるから」
ミクとモモカちゃんがセンターポジションでマイクを手に取り、ミツルはギターを手に後ろへ。
三銃士はシオンを中心に、左右にソーヤとミズキが分かれて立つ。
始まったのは、おれたちもやったことのある、『夏色アドベンチャー』のカバーだった。
調和して響く、歌声とギター。
ピッタリ息の合った、三人のダンス。
すごい、これは夢のコラボだ。
けれど、これを明日のステージに行かせる気にならないのは、なんでだろう。
やっぱり俺の、やきもち、だろうか。
「おー、いーじゃんいーじゃーん!」
「かっこいいよね。コラボって楽しいし」
考え込んでいるとうしろから、パチパチパチと拍手。そして聞き覚えのある声。
振り返れば、イツカとカナタがそこにいた。
「でもなんかさー、バラバラじゃね?」
「おれもそれは感じた。
サウンドもダンスもいいんだけれど、なんだかお互いがかみ合いきってないんだよね。
明日、もしかしてこれで行くの?
無理じゃないなら、アオバがダンスした方がいいとおれは思うけど……」
「そーそー。『オコミツ』のダンサーはアオバじゃなきゃだろ!」
「……え」
俺はふたりをガン見していた。
「いや、マジ……?」
「マジマジ!」
「こんなだいじなことで、おれは嘘つかないよ?」
思わずステージの方を振り返れば。
「なんだろなー、やっぱしアオバありきなんだよなーオコミツって!」
「オレたちもがんばってみたんだけどね!」
仲良く言うソーヤとシオン。
「俺たち『三銃士』はここまでいつも、三人でひとつのユニットで踊ってきたからね。
アオバたちも、四人そろってこそなんだよ。
この際さ、ユニット名も変えちゃったらどうかな。みんな、そう言ってるよ」
ミズキに優しく言われると、そんな気持ちになってきてしまうけど。
「俺は、アオバがいい」
「わたしもそう思う!」
「いや、いやいやいや!
そもそもなんでこの状況?!」
ミツルとモモカちゃんが口をそろえるが、そう、よく考えたらなんで。
俺は、何も口に出してなかったし、態度にも出ていなかった……と思うんだけど。
問いかければ、ミクがむん、と胸を張った。
「わかんないわけないでしょ?
ミツルはアオバのバディだし、あたしは、……
……あたしだっていちおう、もとバディなんだからねっ!」
「あれれー? ミクー、それでいいんだっけー?」
なぜか早口になったミクを、モモカちゃんがにやにやとつっつく。
「い! いいいいいいの!!
なんでもない、何でもないからねアオバ!!」
「え、あ、お、おう……?」
何だろう。一体全体、急にミクはどうしたんだ。
戸惑っていると、ぽんっと肩に手を置かれた。
ミツルだ。
綺麗な赤い両目でじいっと俺を見て、ひとこと。
「リア充爆発しろ。」
けれどその顔は、明らかにうれしそうに笑っていた。
やっとアオバ君にも春が来るようです^^
次回、平和協定締結記念式典に向けて――もう一つの恋の物語。
がんばるハルキくんの恋は進展するのか、それとも?
どうぞ、お楽しみに!




