Bonus Track_53-1 聞いてみよう、うちに帰ったら。~アスカの場合~
前回かなり致命的な誤解を生むかんじの書き方をしてしまったので、こちらにも……
ソリステラス人のっといこーる月萌人です。
『ソリステラス人はそれを知っている』なおかつ『一部の月萌人もそれを知っている』が正しい内容です。大変失礼しました!m(__)m
2021.04.10
今回分一か所修正しました。(イツカナが驚いてるだろうみたいに読めてしまうので)
普通に悪いジョークだと思うだろう。
そしてそれがジョークでないと知ったなら、全力でふざけんなと叫ぶことだろう。
↓
ステラの民は、悪いジョークだと思ったことだろう。
そしてそれがジョークでないと知ったなら、全力でふざけんなと叫んだことだろう。
「ハルきゅん、体は大丈夫? ミーたん、記憶はちゃんとなじんでる?」
「はい、問題ないです!」
「おれもだいじょぶ。きちんと種明かししてくれたおかげで、ちゃんと頭のなか、整理されてるよ!」
医務室の丸椅子にかけたハルキとミライは、元気な笑顔でそう答えてくれた。
『くぐつ』の使用は、本来ならば成人した者か、高天原卒のαに限られる。
なぜなら、別の身体を操る感覚や、別ルートの記憶の統合などが、未完成の心身に悪影響を及ぼす恐れがあるためだ。
今回はセレネ様やミソラちゃん先生、専門家のマイロちゃん先生の慎重な監修のもと、例外的にふたりにもこれを使ってもらった。
そのため、このさき最低一週間はしっかりしたアフターケアが必要になる。
責任をもって、それにあたること。それがαとしてのおれの、最初のオモテの任務である。
少女のようなマイロちゃん先生の、かわいい白スコ耳に癒されながら……もとい、的確なアドバイスをもらいながらの問診は、終始スムーズに進み、僕の初仕事は無事に終了。
仲良く頭を下げて医務室を出ていく二人。それを見送れば、先生が問いかけてきた。
「アスカくん。気持ちの面では大丈夫?」
「え、質問もれてました?」
「ちがうわ、あなたよ。
……遠い間柄であったとはいえ、ご親戚が逮捕されたわけでしょう?」
「その点は問題ないです。
いっちゃなんだけど、彼女とおれたちは敵対していたわけですからね。
彼女はハヤトに、みんなに大きな迷惑をかけた。たとえ、彼女なりのやり方で月萌を守りたいという気持ちがそこにあったにしても。
薄情かもしれないですが、気持ちとしてはせいせいしているのが本音です」
『セレナ・タカシロ』。
一連の事件の黒幕にして、百年以上前に死んだはずの、僕の先祖である女性。
彼女の存在にはトウヤたちも行きついていた。
だから彼女が、月萌杯突破記念パーティーの日に何をしようとしているか、僕たちはとっくに知っていた。
知ったうえで、好機として利用した。
彼女の策を形だけでも成らせてやることで、彼女をこんどこそ逮捕する。
同時に、イツカナを病に伏せる女神ステラのもとへと、堂々と送り出すために。
おれたちは密かに準備を重ねてきた。
あからさまに『警備に穴開ける要員』とみなされているハルキ、そして利用される対象であるミーたんに話を通し、ふたりのためのくぐつを作っておいたり。
イツカナのためのくぐつを、ちょっとばっかり魔改造したり。
会場のトイレのひとつに、異空間とつながるスクロールを仕込んでおいたり。
女神様狂いのセレナがブチ切れて不穏な独り言をブツブツ言って逮捕のきっかけとなるように、『3S発症が始まったら、なんかの形で『たかが戦争』って言っとけ』とイツカとカナタに念押ししたのも僕である。
「……酷いものですよね。
結局、僕と彼女も、リュウジ伯父さんも同じ血を引くもの。そういうことなんです。
ただ、守りたいものが違ったというだけで」
「それでもあなたは、一番大切な人の手を決して離さなかった。どんなに苦しくってもね。
それが、あなたの真価だと思うわ」
おもわず自嘲した僕に降ってきたのは、猫耳の天使のあたたかな微笑みだった。
つま先立ちした彼女は、ニコニコと僕の頭を撫でてくる。
「そういえばアスカくん、ときどきぽつっと『僕』って言うようになったのね。
なんかかわいくて素直な感じがして、先生好きよ?」
「も、もう、背伸びしながらからかわないでくださいよっ。
おれじゃなかったらむしろ積極的に誤解してますからねっ?」
「わかっていってるのよ。ね、ハヤト君?」
「げほっ?!」
と、矛先は部屋の隅で待機している、僕のパートナーに向いた。
胸のお餅をぷっくら焼いてくれていたらしきハヤトは、おどろいてせき込む。
その様子を見てマイロちゃん先生はにっこにこ。
「だめですよハーちゃんはおれんですからねあげませんからっ! それじゃ失礼します!」
「うふふ、はーい。おつかれさま♪」
そうだ、この人こういう人だった。これ以上いじられる前に脱出だ。
おれは急いでハヤトを回収、医務室を飛び出したのだった。
ふと思った。イツカとカナタは、今頃聞いているだろうかと。
ソリステラスのツートップとの会見で、女神ステラが臥せった理由を。
ステラの民は、悪いジョークだと思ったことだろう。
そしてそれがジョークでないと知ったなら、全力でふざけんなと叫んだことだろう。
ミッション『エインヘリアル』――『グランドマザー』が指示した『人類育成計画』に基づき、僕たち人間は戦争をさせられていたなんて。
信頼していたはずの守護女神は、むしろその旗振り役だった、なんて。
普通に悪いジョークだとしか思えない。
もともとは便利なスキルや、未来予測や助言をくれていただけのはずのモノが、ある日三台の子機を利用し、全人類強制参加のVRウォーゲームをはじめたのだなんて。
『ティアブラシステム』を通じて行う戦いにより、すべての人間をより高次の世界『アースガルド』に住まうにふさわしい存在に育て上げる。
そんな計画によって、僕たちは陣営分けされ、戦わされている。
あるかもわからない楽園のため、まるでゲームのように、いや、ゲームとして戦わされているのだ。
それを知ったとき僕は、一周回ってひっくり返って笑った。
セレナは、妄信に走った。リュウジ伯父さんは、割り切った。
今日うちに帰ったら、聞いてみることにしよう。
父さんは、どう思ったのか。
そして、他にも知っていることがないか、と。
わかりづらいのでぎりぎりで書き直しました。
なお最後の一文は伏線です。
次回、ふたたびソリステラスのイツカナに視点戻ります。
『闇夜の黒龍』あらため『シエル・ヴィーヴル』の残り二人が紹介されたり。
どうぞ、お楽しみに!




