53-1 ソリステラスで朝食を、もしくははじめての襲撃!
『いいの、こんな、おれたちで?』
『よかろう、この二人でよいならば。』
おれは、セレネさんは、あのときこう言った。
その本当の意味は、こういうことだ。
『たぶんこの3Sフラグメントにも対抗できたはずだよ、オリジナルのおれたちの肉体だったら。
つまりこのおれたちの身体は、それだけのパワーを持たされていないくぐつだ。
そのおれたちを連れて帰るので、本当に、いいんだね?』
『一時貸そう。この、くぐつの身体の二人でよければ』
マルキアは、エルメス皇女は、それを承諾した。
つまり、あとからこの体がくぐつであることがわかっても、何ら問題はない。
いやむしろ、彼女らはわかって受け入れたのだろう。
なぜってフラグメント除去処置の前後、当然おれたちは身体検査を受けたのだから。
が、研究チームはそろってホールドアップしていた。
「いやいやいや……」
「これ本当に人間が作ったもんなんですか? ガチに神器、下手したらそれ以上のシロモノじゃないですか!」
「フラグメントの除去はできましたが、他になんかしようったって無理ですね。万一自己修復の範囲を超える何かが起きたら、修復や調整をできるのはたぶん作り手だけですよ」
「素晴らしい……素晴らしいです。我らの目指すべき高みはここにあった……おおお……!」
「ていうかこんな高度な神器『乗りこなせる』んですか! あなたたちもタダモノじゃないですよ!」
はやく休戦協定を結んでくれ、これを作った大天才に会いに行かねばっとキラッキラのおめめで、一部ガチ泣きしながら上に迫りまくっていたし……
おれたちはおれたちで、いろいろ教えてくださいと拝み倒された。
事前にセレネさんから技術交流のお許しはもらっているので、もちろんOKだ。
おれはおれで、ジュディの網とか『グリーン』のカードとか、いろいろ詳しく知りたかったので、まさしく渡りに船だった。
その翌朝、朝食の席で。マルキアはおれにしみじみと言った。
「しかし、ホントにまるでホンモノだねえ。
ちゃんと飲み食いできるとか、もうフツーに人間じゃないか。
あんた、いざとなったらこのままここに移住する気はないかい」
「え……」
「あんたはもう一人のカナタなんだ。ジュディは大事にしてくれるよ」
世話係を買って出たジュディは、かいがいしくあれこれと面倒を見てくれた。
このところのポーカーフェースがまるで嘘のように、無邪気な可愛らしい、とびきりの笑顔で。
昨日は処置前検査と除去処置ののち、すぐに休める部屋に案内し、部屋の使い方をざっと教えてくれた。
そののちによく眠れるお茶をふるまい、『ここは監視とかもさせてないし、絶対安全だから。なにかあったらよんでね、すぐあたしが来るから!』と安心させて部屋を出て行った。
今でも、ひたすらにおれたちを気遣ってくれている。
いろいろとおしゃべりもしたいだろうに、それをぐっとこらえて――いや、その素振りさえうかがわせずに。
いい子だ。ほんとうにいい子だ。
もしかしてもしかすると、おれたちもユウミさんのようになることがありうるかもしれない、と思ってしまったほどだ。
すなわち、ここでのミッションが終わっても、ふたたび一人に還ることなく、あちらはあちら、こちらはこちらでそれぞれ別個の人間として生きていくようになるのかも、と。
けれど、ジュディはそれでいいのだろうか。そうなったときにおれを、彼女の好きになった男と認められるのだろうか。
イツカも心配になったのだろう、確認の問いをかけた。
「もしそうなったとしてさ。ジュディはそれでいいのか?」
「うん。
だって、『ドッペル』は……あ、こっちではそれこういうふうに呼ぶんだけどね、ちゃんとその人の一部、そのひとの分身だから!
つまり、『デイジー』はあたしだし、『リリー』もレムちゃんなんだ。
だから、今ここにいるカナタはちゃんとカナタ。カナタさえよければ、ずーっとここにいてくれていいんだよ! あ、もちろんイツカもだけど!」
『デイジー』。レモンさんのスイーツ友達で、高天原のスイーツシャングリラに現れる『観光客』。
その正体は、記憶の一部と魂を共有している別人、とライカからは聞かされたが、それは優しい嘘だったのかもしれない。
ともあれ、にししーと可愛く笑う彼女の後ろでは、リリー君……もとい、ホワイト君がはらはらした顔をしている。
ジュディは正直、可愛いいい子だと思う。そのジュディの一途な気持ちは、けして無碍にしたくはない。
けれどおれはすでに知っている。彼女には、彼女のことをずっと想って支えてきた少年がいて、彼女の中にも確かに、彼に対する気持ちがあることを。
そんなところにおれが『割り込む』ことは、よいこととは思えない――そうでなくとも月萌に、二人も待たせている女性がいるのだから。
近いうち、ホワイト君との極秘作戦会議が必要だ。男同士でしかできない相談に乗ってもらう、という形ならばなんとかなるだろう。
しかし、本日まず行われるのは国家元首との面会だ。作戦会議はすくなくとも、今日の夜以降になることだろう。
「そうだ、今日お会いする方について教えてもらえる?
ロイヤルファミリーと、女神様と謁見するんでしょ」
「うん、みんないいひとだよ! あっ、ソレアさまはね……」
と、そのときだった。
平和な朝の食堂に、いきなり警報が鳴り響く!
『コンディション・レッド。コンディション・レッド。総員第一種戦闘配置に!
繰り返す。コンディション・レッド。総員第一種戦闘配置に!』
食堂入口からはもう、ただ事じゃない声がきこえていた。
「あははははーイツカーカナターあそぼあそぼー!!」
超ハイテンションでとっこんできたのは、ひとりの赤髪の美女だった。
見た目はとくにあやしいところのない、活発そうな若い美人。だが、その身にまとうオーラ、感じられる力量は、あきらかにセレネさんと同等か、それ以上だ!
腰をうかしかけたおれとイツカだったが、ジュディはさらり。
「……あのひと」
「えっ?」
新章突入、そして国家元首も突入(爆)
次回、謁見!(予定)
どうぞ、お楽しみに!




