51-5 緊張の初ご挨拶と第一回リハーサル!
タチバナ カツミさん。
写真を見る限りでは穏やかそうな人だが、その正体は合気道の道場を営む武闘家。
そして、ルカとルナのお父さんだ。
ダークな色合いのスーツをびしっと着込み、厳しい顔をしたそのひとは、おれたちを見るなり静かにこう言った。
「かかってきなさい」
「おうっ!」
嬉々として突撃したイツカは、あっさりころんと転がされた。
国立迎賓館のほど近く、緑に包まれた運動公園がある。
女神の像の立つ丘の上で、おれたちは待ち合わせをした。いや、呼び出されたというべきか。
なぜならこの場所が選ばれたのは、広さのある場所で、というお父さんからのリクエストにもとづくものだからだ。
その結果が、これである。
「もー父さんなにやってるのよっ!」
「ごめんなさいねうちの格闘馬鹿が……」
「こちらこそすみませんうちのバトル馬鹿が……」
カツミさんにお叱りをくれるルカ、頭を下げ合うお母さんとおれ。
一方でとうの二人はのんきにじゃれあっている。なんだこれ。
「おとうさん、スーツやぶれちゃうよ。ほら、イツカくんも」
ルナのフォローで二人はようやく『突撃からのころん』遊びをやめるが、すっかりスーツは着崩れて、イツカに至っては髪ボサボサだ。
カツミさんはさいしょのいかめしさはどこへやら、穏やかな顔であっけらかんと笑う。
「いやーすまんすまんこれが本物のイツにゃんカナぴょんかとおもったらつい。
うん、スーツは脱いでおくべきだったな」
「そういう問題じゃないでしょ!」
「そうよあなた。初めての人に会ったらまずはごあいさつ。それからバトルでしょ」
そんなカツミさんをルカとお母さんがたしなめる。いや、なんかどっかがおかしい気がするのはおれの気のせいか。
考え込むおれをよそにイツカが目を輝かせるのだが……
「なるほどー! 初めての人に会ったらまずはごあいさつ。それからバトルだな!」
「そうよイツカくん。お客様がいらしたときには、お茶と座布団とバトルだからね?」
うん、確定的におかしかった。
「もう母さんも……イツカが信じちゃうでしょ。
ごめんねイツカ。冗談だから。信じちゃだめだからね?」
「え~。
なーカナタ、これ『ゼロブラ館』の家訓にしちゃだめ?」
バトル馬鹿のやつは、どうも信じたかったようだった。
ルカの言葉にちょっと耳を垂らし、無自覚のあざとさでおれを見上げてくる。
もちろんおれはうさみみパンチによるツッコミを入れたのだった。
そんなこんなですっかりなし崩し的になじんでしまったおれたちとタチバナ夫妻。
娘は渡さん! というイベントかと思っていたらとんだ別方向だったが、仲良くできるならばオーライだ。
そのあと、『アリサカ家+ソナタとの対面(今度はふつうだった)』『エルカさんとの再会とオルカさんとのご挨拶(さすがに普通だった)』『イワさんとの再会(これは危うかった)』とにぎやかに続いたのだが、昼も近づきお腹も減ってきた。なにより午後からは式典リハーサルだ。
大所帯で動いていると時間も食う。いったん解散、身だしなみを整えてまた会場でということになった。
おれたちは急いでソレイユ邸内『ゼロブラ館』にとってかえし、入浴と食事。
ライムとメイドさんたちに手伝っていただいてスーツを着、髪を整えると、国立迎賓館に向かった。
国立迎賓館・大ホール。
すっかり本番の顔となったそこに足を踏み入れると、ため息が漏れた。
これまでもおれたちは、この会場に何度も足を運んでいる。
監修、というと晴れがましいが、内装を何度も見に来て、ときには意見も述べさせてもらった。
だから、この景色はもう見慣れているはずなのだけれど――
高い高い天井。いくつものシャンデリア。
磨かれた壁と床。飾られた花々とタピスリー。
それらから漂う本気が、おれたちをうっとりと酔わせてくるのだ。
リハーサルでこれなのだから、本番なんかどうなることやら。
そんなことを考えていたら、肩にあたたかいものがのっかって、優しい声が降ってきた。
「だいじょうぶですわ。わたくしたちがフォローします。
おふたりは祝われる立場でもありますのよ。だから自分らしく、楽しんでくださいませ」
ふりかえれば、ライムが柔らかく笑っていた。
右手がちょっと痛いです……マウスが合わないっぽい……。
次回、佳境を迎えつつある嫁探しチャレンジについて!
どうぞ、お楽しみに!




