51-4 ひたすらピュアなお父さん!
あれはまだ、おれたちが星降町にいたころのこと。
星降スタディサテライトの学園祭で、アフタヌーンティーでのおもてなしを企画したことがある。
その日にはたくさんのお客さんが来てくれた。
もちろんミライたち、アリサカ家のみんなも来てくれて、いつもとても喜んでくれた。
ただ、ノゾミお兄さんとミソラさんは里帰りのタイミングが合わず、これまで一度もサテライトの学園祭には来られていない。
そのたびミライたちは残念がっていたものだったが……
このたび疑似的にではあるが、そのリベンジが実現した。
『ゼロブラ館』のリビングの前後には、おれが錬成した電子黒板。電子チョークアートや薄紙で作った花、折り紙で作ったチェーンで飾られて、いかにも学校ふうだ。
さすがに、壁床天井はそのままに、大きなテーブルにアフタヌーンティーのセッティングがしてある。
大きな窓から出る庭には、立食パーティー風のしつらえをしたティーテーブル。
せっかくなので中と外、どちらでも好きなほうで楽しんでいただけるようにしてあるのだ。
ミソラさん――今日は赤ぶち眼鏡に白のボブヘア、春っぽい色合いのワンピースを着た、もとの姿だ――はにっこにこで大はしゃぎ。
「わあ! いいじゃないいいじゃなーい!
ありがとうねふたりともー!」
「懐かしいな、この電子黒板。
……こんなものまで作ってくれたのか。ありがとうな」
そのとなりで、私服に着替えたノゾミお兄さん――こっちは着流しが白シャツとブラックジーンズに変わっただけで、あんまりかわらない――も、くつろいだ表情を見せている。
一方で、少女の姿の神鳥ルゥさんはめずらしく、ちょっとだけ恐縮した様子。よそゆきっぽいブラウスとスカートで装いつつも、小鳥っぽく小首をかしげる。
「ほんといいの、わたしまでお呼ばれしちゃって?」
「いいのいいの!
だってルゥお姉ちゃんたちも、ソナタたちを助けに来てくれたんでしょ?
あの人たちが消えちゃったのは、ルゥお姉ちゃんのせいじゃないし!」
嬉しそうにその手を引くのは花のようなピンクのワンピースのソナタだ。
なおルゥさんの後ろに、おそろいツーピースのルカとルナもいるが、もちろん彼女たち三人の分は、最初から用意してある。
残念ながらタカヤさんは後があるので、さいしょから不参加。いずれちゃんとお礼をしたいところである。
そう、あの襲撃は最初から予想されていた。
市街地では至る所にシティメイドがいる。届け出もなしに無断で『神域展開』なんか使ったらすぐにすっ飛んでくるのだ。
しかし、高速道路上ではそうもいかない。どうしても警備の網の目も粗くならざるを得ず、狙われるならそこだというのが全員一致の意見だった。
その区域を丸ごと通行止めにするというのも、案としてはあった。
しかし、普通にそうしたところでああいう輩は強引に突破してくる。そうして後に残るは『庶民の経済と生活に無理を強いておいて結局は』『それもまだβの少女を舞踏会に行かせるために』という嫌な声たち――もちろん俺がなにより嫌なのは、後者をソナタが聞いて傷つくことである。
だからおれたちで、『さいきょうちーむ』を組んだのだ。
騒ぎを大きくしないため、前後に警護の車列はつけない。
そしておれとイツカとM2が同乗し、タカヤさんとともに車内で警護。
ルカとルナ、ノゾミお兄さんは時間差で援護として登場する。
結果、やや苦労しつつも護送成功。
ちなみにルカとルナのご家族は、道場の都合であす高天原入り予定。おれたちはご挨拶に行く予定だが、正直ちょっと緊張する。
まあ、そのことは後。今はこのお茶会を楽しくだ。
さいわい本日のメインお客様、カコさんとサンジおじさんとソナタは、もうまるで本当の親子のように仲良く楽しんでくれている様子。
ミライと生地を作り、ライムたちが焼き上げてくれた二色クッキーは好評で、あっという間に消えていく。
お茶の入り具合も絶妙。香りのたち具合、味、水色、すべてが芸術と言っていい。
これがプロのちからか、と感動しきりのおれである。
と、庭の方から声がした。サンジおじさんだ。
のんびりと空を見上げて言うことには。
「いやーそれにしても今日のアトラクションはすごかったねぇ。
あの白いスーツの人、どうやってこっちの車に飛び乗ったのかなぁ。
最後はあの美人さんたちも車ごと消えてたし……」
「えーと、親父?」
「ん?」
「あーいや……なんでもない……」
眼鏡の向こうの瞳はきょとんとしている。
ミライによくにたピュアな瞳。ツッコミを入れかけたノゾミお兄さんはそのままあきらめてしまい、カコさんがあははと笑い声をあげた。
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次回、消えちゃった犯人グループについての予定です。
どうぞ、お楽しみに!!




