51-2 ひたすらやばいカーチェイス!(1)
高天原を一歩出れば、そこは『普通の』世界。
ティアブラのスキルは使えないし、アイテムも具現化しない。
ただし例外はある。
スキル『神域展開』。基本的に四ツ星時点で習得するものだが、これを発動すると一時的に、高天原同様のVRフィールドが展開される。
つまり、その中でならアイテムやスキルを使えるようになるのだ。
高天原外で働くシティメイドたちもこれでスキルやアイテムを使い、まちの治安維持や困りごとの解決をしている。
しかし、彼女たちはそれを、必要以上に使用することはない。
一つには、スキルやアイテムが悪用されることのないように――たとえば、こんなふうにだ。
「くはははは! この時を待っていたんだよォ!
覚悟しな、お姫さんたちィ!!」
高速道路に入ったとたん、後ろから猛然と追い上げてくる黒のワゴン車。そのサンルーフから、背の高い男がにょきっと上半身を乗り出した。
素肌に前を開けた革ジャン、目元には色の濃いサングラスという『ならずものファッション』でキメた奴は、高笑いしつつ白い何かを投げてくる。
「っしゃ来た! つかまってくださいよ皆さんっ!
0-Gカーチェイスアトラクション、始まり始まりィ!」
タカヤさんがぐいっとハンドルを切りつつ、運転席のスイッチをばちんと押すと同時に、ご自慢の魔改造リムジンは大変身。
まず、客室の中央部分は隔壁で囲まれるように閉鎖。内壁もぼわんとふくらみ、衝撃吸収説抜群のクッションとなる。
同時に、屋根から突き出す回転灯。赤の色合いが示すものは、国の名において最高のプライオリティを有する車両であるということ。
サイレンを鳴らせばこちらが官軍。ぶっちゃけ、治安維持というお題目から逸脱しない範囲であれば、多少の脱法行為も許される状態となったということだ。
もっともしょっぱなからぶつけに行ったりなんかしない。鮮やかなハンドルさばきで第一射をかわせば、左斜め後方の路面に白い蜘蛛の巣が咲いた。
やはりあれは『スパイダーウェブ』のオーブ――粘着性の強い魔法の糸をはきだす魔法をとじこめた水晶玉だったもよう。
つまりあの白い糸には、魔物すらとらえるパワーがある。このリムジンも触れたら最後、からめとられてしまうということだ。
なるほど、だったら作戦は決まったようなものだ。客室後部、用心棒ブース部分に位置どったおれとイツカはうなずき合った。
「ヒューウ! やるじゃん!
そんならこれでどうよっとォ!」
革ジャン男は下品に口笛を吹くと、掲げた左手の上にさらに白球を取り出す。おれはタカヤさんに告げた――
「タカヤさん、そのまままっすぐ走ってください!」
イツカがすでに『神域展開』の発動を終えている。今度はおれたちのターンだ。
おれはタカヤさんにまっすぐ走ってと頼むと車窓を開き、男に向けて『抜打狙撃』。
まず左の銃から、強指向性の閃光のプチグレネードを射出した。
男だけに向け、刺すような光が放たれる。
「あまい、甘いねえウサギちゃん! その程度の対策はジョーシキよお!」
あのサングラスのチカラだろう、男はまったくノーダメージ。自らの優位を確信した様子で白球を投げてきた。よし。
飛んでくる白球とすれ違うように、右の銃に装填したグレネードを、男に向けて三連射。
「だーからァ、あ・ま・いってどぉうわっ?!」
対して男は右手で『抜打狙撃』。大型の拳銃でガンガンガンと三連射、おれの弾を全て正確に撃ちぬいた。
鮮やかな撃ちっぷり。だが残念ながらそれは最悪の手だ――なぜって、おれが放ったものは『引力のグレネード』なのだから。
撃ち抜かれると同時に全周に引力を発生させるそれの力で、軽い軽い白球はUターン。
一方で車は急には止まれない。結果として男は、白球にむけて突っ込んでしまう。
自分の罠に自分で飛び込み、蜘蛛糸まきまきとなった男は、じたばたしながら車内に消えた。
大丈夫、顔面は無事だった。こちらがフォローしてやらずとも、窒息してしまう心配はない。
彼らもプロである。よってわざわざ言わないが、今回甘かったのは彼らの方だ。
彼らの予測では、おれはあの白球を『抜打狙撃』か何かで迎え撃つはずだったのだろう。
だがそうしたら、白球は衝撃を加えられた方向――すなわちこちらに蜘蛛糸を吐き出し、このリムジンをとらえていたに違いない。
『もう知ってるかもだけど、人さらい用にこういう仕組みのオーブもあるからさ~。
馬鹿正直に迎撃するのは避けるようにしてね?』
なぜ対処できたのか。おととい月曜のブリーフィングで、おれたちはアスカに効果と対処法を実演してもらっていたのだ――すなわちこうして、引力のオーブで丁重にお返し申し上げろと。
それでもまだまだこれは序の口。
男の車を追い抜いて、鮮やかな赤のオープンカーがこちらを狙う。
正確には、助手席で立ち上がる、つややかな紅の美女が。
ひらり、手にしたクジャクの羽扇子をひるがえせば、彼女の車を取り巻くように姿を現す大量のモンスター。
どうやら召喚士らしき彼女は、不敵に笑って扇子をこちらに向けた。
マウスのホイールを動かしすぎて手が痛いです……;;
便利なものに頼りすぎるのはよろしくないですね!
次回、白熱のカーチェイス決着! どうぞ、お楽しみに♪




