Bonus Track_6_1-1 『竜の呪いとエンジェルティア』~ミライの場合~(上)
すみません、今見たら一か所95万が98万になっていました……修正いたしました……orz
イツカの手伝いしてあげたいし、きょうは学校、やすませて。
だいじょぶ、ちゃんと『免罪符』使うから。
そういうと、母さんは笑って「いいわよ」と言ってくれた。
――ほんとにそのつもりだったのだ。
でも、学校の前まで来たとき。
チャイムが鳴るまでには、まだ間があったから……。
ちょっと、ちょっとだけ。
五分だけ、依頼をさがす。それだけでも。
そう思って路地に入り、端末を取り出して、ティアブラにインした。
それが、運命の分かれ道だったのだ。
父さん母さんには隠してたけど、おれはゆうべ、ティアブラで徹夜した。
なぜって、依頼がどっと来たからだ。
おれを個人で指名して、でも期限はなし。
『できればでいいですから』という但し書きがついた、シンプルな、だけどあきらかに割のいい依頼が。
どうしてなのかはわかってた。応援してくれてるのだ。
ひとり遅れ気味のおれが、イツカやカナタとはぐれないように。
けれど、全部を達成しても、TPは95万100ポイント。100万ポイントにはとどかなかった。
わかってた。みんな、なんとかやりくりして、おれに依頼を回してくれたのだ。
だから、これ以上は甘えられない。
ここからは、おれがもっとがんばらなくちゃ。
おれが自分で、依頼を探すのだ。
そう思って、おれはミルドの町を歩き回っていた。
つかれてない、といったらうそになる。
でも、やらなきゃならない。できなきゃだ。
だっておれは、ただの人間。
スターシードである、イツカやカナタにおいつくなら……そして、ソナタちゃんをまもるなら、ふたりの100倍がんばらなきゃいけない。
こんなとこで、へこたれちゃいられないのだ。
「聞いた? ついさっき。街道に野盗が出たそうよ」
「ええっ? 捕まったの?」
「それがギリギリのところで逃げたんですって」
「怖いわね……早く何とかしてほしいわ」
買い物かごを下げたおばさんたちが、そんな話をしているのが聞こえた。
思わず立ち止まりかけた。ら、そこで右足と左足がからまった。
あっ、というまにおれは歩道に転がって……
そのとき、おれはみつけた。
外れかけの敷石のとこに、挟まるように落ちていた、小さな布袋を。
上質なぞうげ色の布に、つやつやした緑の糸で、細かい刺しゅうが施してある。
ひとめで、貴重なものだとわかった。
とりあえず拾い上げてみれば、じゃらりと重い。
もしかして、これは。
いいや、これはひとのだ。なかみはどうでも、まずは届けてあげなきゃいけない。
おれはしっかりとそれを抱えて立ち上がる。
教会に向けて一歩を踏み出したそのとき、クエスト開始時のファンファーレが鳴り響いた。
頭の上に、『クエスト開始~竜の呪いとエンジェルティア~』というポップアップ表示が現れる。
こんなクエスト名、初めて見る。
どうやらおれは、なんかの特殊クエストを発生させたみたいだった。
* * * * *
「はい。ぞうげ色に緑の刺しゅうを施した小袋で、なかみは……」
「あの、それってもしかして、これですか?」
落とし物係の部屋に行けば、当番の衛兵さんと、憔悴した様子で衛兵さんに話をする、ロマンスグレーの紳士がいた。
二人の間におれが袋を差し出すと、紳士はぱあっと顔を明るくした。
「そ! そうです! それです!!
ああ、なんとありがたい……
これで薬が買える。娘の命が助かります。
本当にありがとうございました!!」
そしてなんどもなんども、おれに頭を下げてくれると、こんなことを言い出した。
「申し遅れました。わたくしはミルドの近くに住む『ワーゲン・リンドブルム』と申します。
これから薬を買い、屋敷に戻りますが……
どうでしょう、ご一緒にいらしては。
ささやかですが、お礼も差し上げたいので」
「えっ?! いいですよ、ただ偶然見つけて、届けただけですし!!」
おれがあわてて辞退すると、衛兵さんはニコニコ笑ってこういった。
「行って差し上げたらいかがですか?
ソーニャさん……リンドブルムさんの娘さん、まだ小さいんですがミライさんの大ファンなんです。
ミライさんのお顔を見れば、きっと元気が出ますよ!
それに、プリーストのミライさんでしたら、お医者様のお手伝いもできるでしょうし」
「ええっ?!
あのっ、でしたら、ご一緒します!」
そういうことなら、行ってあげなきゃ。
おれなんかのことを見守ってくれる、ちいさな女の子が元気になるなら。
どこかソナタちゃんに似た名前の女の子のために、おれはリンドブルムさんのお屋敷におじゃますることにした。
* * * * *
まずはいそいで、薬を買わなきゃならない。
おれはリンドブルムさんについて、薬屋さんがいるという場所にやってきた。
あっちの角を右、こっちの角を左とうねうね曲がればやがて、見覚えのない小路に出た。
「こんなところがあったんですね……」
「苦労して探し当てたのですよ。娘の病気は竜の血筋にのみ発生する、非常にまれな心の臓の病。『エンジェルティア』という秘薬なしでは、けして治らぬものなのです」
「心臓の……」
ソナタちゃんとおなじだ。
そう思ったそのとき、ここですよ、とリンドブルムさんが言って小さなテントに入っていった。
「えっ……284万、TP……」
けれどそこで、おれたちは仰天した。
薬屋さんが告げた代金は、思ってもみない値段だったのだ。
袋の中のお金は180万TP、そしてリンドブルムさんのポケットマネーは8万8000TP。
あと、95万2000TPが不足する。
たとえばおれの手持ち95万100TP全部をたしても、1900TPたりない。
なんとかなりませんか、明日になればお金も入るし、娘の病状もさしせまっているので、とリンドブルムさんはお願いしたが、薬屋のお姉さんは悲しそうに首を振った。
「ごめんなさい……わたしもこれを売ったお金で、弟のための薬を買わなければならないんです……」
「そうですか……なんとかしてみます」
リンドブルムさんは丁寧に一礼して、テントを出た。
「リンドブルムさん。なんとかっていっても、お心当たりがあるんですか?」
「もう、知り合いはすべて、回ってしまったので……。
これを質に入れるとします」
リンドブルムさんは、スーツの内ポケットから何かをとりだした。
それは、少しくすんだ金色の懐中時計。
ぱちりと開けば、ふたの裏が写真入れになっていて……
まだ新しい写真の中では、どこか母さんににた女性と、二歳の頃のソナタちゃんによくにた女の子、そしてちょっぴりだけ若いリンドブルムさんが笑ってる。
「亡き妻も、きっと許してくれるはずです。
自分と同じ病に苦しむ、ソーニャを助けるためならば」
「だめですっ!!」
おれは叫んでいた。
「ちょっとここで待ってて! 心当たりがあるから。
いい、はやまったことはしないでねっ!」
そう、亡くなった奥さんの形見を、娘さんのためにさしだすなんて、そんな悲しいことあっちゃいけない!
さいわい、おれには手持ちがある。
この、95万100TP。そして、3200ポイントのBPが。
女神ティアラにBPを『奉納』すると、3分の2にあたるポイントのTPがごほうびとして下される。
つまり、おれのBPのうち3000を『奉納』すれば、2000TPが手に入る。
おれのいまのTPと合わせれば95万2100TP。ここから貸してあげればいい。
たしかに、これをやってしまえばおれのBPは、戦士昇格には不足の200となる。
TPを返してもらっても、BPは増えないから、また1000まで稼ぎ直さないといけない。
でもそんなのは、ひとつのいのちに比べれば安いもの。
お料理、収穫、たきぎ割り。
バトルがダメダメなおれだって、BPを稼ぐ手段なんて、いくらだってあるんだから。
がんばってがんばってつみあげれば、いくらだってできるんだから。
ミライはプリースト本職なんで、『奉納』をちゃんと(『上納』とかじゃなく)言う。そんなちっさなこだわりあります。




