50-2 実り多きお茶会@ぶぐかい+ミライ!(1)
たしかに、おれは忙しい。
主に午前からお昼、議会や行事に出席。
午後は次回のそれの準備や、ダンスの授業、もしくはボイストレーニングへ。
ソレイユ邸での食事時にはマナーを見てもらい、夜にはダンスやボイスの自主練。今日は動画も撮らないとならない。
カレッジの受験勉強もままならない状況だが、それでもやらねばならぬことがある。
そう、おもてなしの準備だ。
来週はじめには、ソナタたちを迎えに行く。
家族枠ということで、カコさんたちアリサカ一家もいっしょだ。
最愛の妹と未来の家族にはやはり、手作りのおもてなしをしたい。
そんなわけで、水曜の午後。おれはダンスレッスンを一回休ませてもらい、ここ――先日までおれたちが入居していた、五ツ星寮のこの部屋で、クッキーの生地をつくっていた。
作るのはいつもの定番、アイスボックスクッキーだ。
つくった生地の三分の一はここの冷凍庫に置いていき、みんなのおやつにしてもらう。
三分の一は『ゼロブラ館(仮)』にもってゆく。時間に合わせて焼き上げて、ソナタとアリサカ家の皆さんにお出しするぶんだ。
そして最後の三分の一は、本日の助手のための報酬である。
かろやかな足音とともにほら、やってきた。
「カナター! おつかれさまっ!
まぜまぜかわるよ、ちょっとまっててー!」
ニッコニコの笑顔で玄関口から手を振るのはミライだ。
かわいい未来の弟の姿にほっこりしながら、俺はゆっくりでいいよと伝えた。
「急がなくっていいよ、ミライ。
ありがと、走ってきてくれたんだね」
「うんっ!
ソナタちゃんたちにクッキー作ってあげられるのもそうだし、カナタとお料理できるのも久しぶりだし。うれしくって走っちゃった。
お兄ちゃんには叱られたけど!」
ミライはてへっと可愛く舌を出す。ひきょうすぎる。
「そりゃ、かわいいミライが転んでけがでもしたら大変だもの。
ほら、手洗ってうがいしてきて」
「はーい!」
いい返事でぱたぱたと洗面所に消えていくミライ。
それだけで、癒し効果満点である。
ミライもまた、忙しい身の上だ。けれどがんばって、時間をつくってくれたのだ。
午後の二コマ目のダンスレッスンがおわってすぐ、すっ飛んできてくれたに違いない。
ホンワカしながら生地をまぜることしばし。手作りエプロンと三角巾を装備したミライが、キッチンスペースに入ってくる。
「えへへ、おそろいだね!」
「ほんとだ。うれしいね!」
実はおれの今日のエプロン、まえにミライがつくってプレゼントしてくれた、おそろいの品だったりする。
ソナタにはちょっとわるいけれど、一足先におそろいのしあわせを満喫させてもらう所存である。
ちょっぴり照れて笑いあったら、生地作りの続きを開始。
ボウルの中、白くなるまでよく練ったバターには、もうはちみつとこなざとう、卵を混ぜこんである。
泡だて器をミライにバトンタッチして、おれは小麦粉を振り入れる方に回った。
白い小麦粉がすっかり入り、生地がぽろぽろしてきたら手早くまとめて二等分。
一方だけにココアパウダーを混ぜ込んだところで、部屋の主たちがかえってきた。
「おーいたいた! やっぱロック一時登録しといて正解だったわ!」
「ごめんね、ちょっと遅くなっちゃった!」
まずはレンとチアキ。その後ろにフユキとナツキ、シオンとハルオミとニノ。
ちょっとだけなつかしき『ぶぐかい』の仲間たちだ。
月萌杯突破記念パーティーのさいは、高天原の生徒たちもそれぞれの実力に応じ、警備の一端を担う。
つまりは、腕の見せ所。
『うさねこぶぐかい』は圧縮タイプのボムなどの作り方を教示したり、装備の効果的な強化やメンテの相談を受けたりと大忙し。
今日もこれからそれぞれ打ち合わせに散る予定だけれど、そのまえのミーティングにおれたちがお邪魔した、という形だ。
ちょうど、オーブンがチーンと鳴った。
今日のティータイムのため、冷凍庫に入ってたアイスボックスクッキーをあらかじめ切り分け、焼いておいたのだ。
もちろん、お茶を入れるためのお湯も沸かしてある。
「だいじょうぶだよ、みんな座ってて。今クッキーとお茶が行くから!」
「なんかわりーな、やらせちまって」
「ううん、台所使わせてもらっちゃったからさ。気になるところあったらごめんね」
「カナタたちは使い方きれいだから、だいじょぶだよ!
お茶と盛り付けは僕たちやるから、ふたりは生地仕上げちゃって!」
チアキの言葉に甘えて、おれたちは二色の生地の成型にかかった。
ちいさな四角い型を三つ取り出し、市松模様にぎゅぎゅっとつめこむ
のこりはクッキングペーパーのうえ、交互に重ねてくるくる巻いて、三等分。
全てを分けてくるんでとりあえず冷凍庫に入れれば、テーブルの準備も終わり、おれたちは応接のソファーにおじゃました。
今回は仲良くクッキーこねこねです。
次回、お茶会は加速する……!
どうぞ、お楽しみに!!




