49-8 おとなのバトル、こどものバトル!
きつねとたぬきのばかしあいのような、あの会見の翌日。
『サイレントシルバー』のボスのボス、きさくなオリエンタルビューティーは、おれたちといっしょにスニーキングミッションに興じていた――すなわち物陰に潜み、妹さんと同じ顔の女性と、ハジメさんとの面接デートをニコニコ見守っていた。
そう、ユーさんは全然まったくいつもどおりだったのだ。
一連の情報をつかんでいないわけはない……とは思うのだけれど、だとしたら大した役者っぷりだ。
もしくはあの程度のことは、党首のもとには上がってこないような些事なのか。
大した、というならハジメさんもである。
通称『嫁探しチャレンジ』が始まってから、一週間近くが経つ。
その間ほぼ毎日、愛するひとと同じ姿の女性と、見極めのための会談を続けているのだ。
アスカたちは『ハジメさんはもうわかっている』と言っていたけれど、ならばほとんど毎日、自分を欺こうとするにせものと会い続けているということになる。
なのにハジメさんは、常に変わらず紳士的。
おかげで、おれを含めた周囲の敬意はガン上がり。これまで軽く見ていた人たちも、いまではすっかり敬語である。
それでもハジメさんは、変わらず謙虚で優しいままだ。
ユーさんはますますハジメさんを気に入った様子で、上機嫌に高笑い。
「いやあ、こんな素晴らしい人を見つけてくるなんて、『ユウミ』も大したものです。
ハジメ殿ならきっと彼女のことも、見事に見つけてくれることでしょう!
はっはっはっ、これでファン家も安泰ですね!」
もっともリュウジ・タカシロ氏はすれ違いざま、そんなユーさんに皮肉を飛ばす。
「つまりユタカ氏は婿として飼い殺しで確定、というわけですか。
いやはや、大した可愛がりぶりですな」
「おや~これは困った。かわいい甥っ子をえさにドラゴンを釣り上げたお方が仰ると、無駄に説得力がありますね!」
あくまでにこやかに返されたユーさんの言葉は、ある意味で正しく、同時に痛烈な皮肉でもあった。
リュウジ氏のかわいい甥っ子=アスカのバディとなることで、ドラゴン=ハヤトはタカシロ家との縁を持つに至った。そういう意味では釣り上げた、と言えなくもない。
しかし、管理派はふたりに枷をかけようとして失敗し、むしろ強力な敵としてしまった。その観点からみればこれは、皮肉三倍返しもいいとこである。
しかしリュウジ氏はこたえた様子もなく、ただふふんと笑って去っていった。
そんな『おとなのバトル』が終わってソレイユ邸に戻る途中、おれたちは『今晩のデートのお誘い』を受信した。
相手は、ルカとルナ。
もっとも待ち合わせはバトルフィールド。内容は、健全極まるオンラインバトルである。
「ありがとうねふたりとも。
忙しい時なのに、お願いきいてもらって」
「こっちこそ前座で出させてって無理言ったんだし、お互い様だよ」
「ソナタちゃんの送迎もあるし、このへんでいっちょつえーやつらとバトっときたかったからな!」
二人がお願いしてきたのは、週末のエキシビションにむけての練習バトルだ。
もちろん否はない。
おれたちは来週、星降町にソナタを迎えに行かねばならない。そのときに、襲ってくるやつらに遅れをとるわけにはいかない。
一方でルナは、先日使えるようになったばかりの第二覚醒をエキシビに向けてしっかり仕上げておきたかったし……
ルカはそんなルナを、しっかり守れるようになっておきたいとのこと。
正念場を近く控えていて、強いやつ、といったらアスカとハヤトの方がより適任のはずだけど……いやいや、そういう野暮は言うまい。
「それじゃ、泣いても笑ってもこの一戦。全力で行くからね!」
おれたちは装備を整え、スタートラインにたった。
(皮肉の)三倍返しだ!! ……あれっ、大人げなく見える。
次回、ルナ視点でのバトル回! おたのしみに!




