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<ウサうさネコかみ>もふけも装備のおれたちは妹たちを助けるためにVR学園闘技場で成り上がります!~ティアブラ・オンライン~  作者: 日向 るきあ
Stage_49 二つのイベント、二つの陰謀

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Bonus Track_49-6 ふさふさこねこが迎えにくるわけ~ソーヤの場合~

2021.02.26

あははと笑われたと。→あははと笑われた。

「……うまっ」

「うまい!」

「昨日のとは段違いじゃねえか!!」

「味のハーモニーに~包み込まれるようです~」

「さすがだよソーヤっ!

 まさか独力でここまで」

「いやちがっ、これっ、独力じゃないっス!!

 仲間の、料理得意な子に、アドバイスもらって……」

「その子をここに呼んでくれ! 今すぐに!!」


 * * * * *


 あれは、10日ほど前のこと。

 国立迎賓館そばのフードラボを出れば、すでに星が瞬いていた。

 学園までは徒歩7分。コトハさんに無理がない程度の速さで、俺たちは帰路をたどった。


「ごめんなコトハちゃん、なんか急に呼びつけて、引っ張りこむことになっちまって……。」

「いいんですよ。

 ソーヤくんはそれでなくとも、連盟リーダーとして忙しいんですもの。

 いつもお世話になっているんだし、少しでもできることでお手伝いしたいですから……」

「いやいや、お世話にはこっちがなってるから」


 なんて話していると、顔見知りのあんちゃんたちが、すれ違いざまに冷やかしを投げてきた。


「おっソーやんデートかい?」

「いや~若いっていいね~」

「しごとですっ!!」


 声をそろえればあははと笑われた。

 もちろんあんちゃんたちもわかっているのだ。高天原生は夜間外出禁止。胸元の特別外出許可証がなければ、とっくにとっ捕まっている。

 おれたちは、あくまで公務で外出を許されているだけなのだ――『月萌杯』突破記念パーティーの晩餐会、そこでふるまわれる料理、そのレシピを決めるチームの特別協力者として。

 だから例えば、ここにフユキがいたりしたら、ヤバいのだ。

 そう、だからそこでじいっとおれたちを見ているイケメンは、フユキに似ているけれど、フユキじゃない。


 ……はずなんだけど!!


「えっ、フユキく」「えっあ、あああナツキ! ナツキじゃん!

 わざわざありがとな、むかえにきてくれて!!

 いやーあんまりフユキそっくりに変身してるからフユキかとおもっちまった!!

 さーかえろうなー。途中でなんか甘いものでもかったげよーなーおーよしよしよし!

 行くぞコトハちゃんっ!! 眼鏡押さえて!!」

「はっはっはいいいっ!!」


 そう、そこにいたのは俺と同じくらいの身長でちょっとだけ俺より体格良くて、ふさふさグレーのねこみみしっぽを装備したはちみつ色の瞳のクール系イケメン!

 フユキだ。どう見てもフユキだ。

 けれどやつは特別許可なんかもらってなかったはずだし実際許可証も身に着けてない!

 ヤバい。これはヤバい。

 俺はコトハさんの言葉を塗り消すように大声を上げ、フユキを抱え込んでいいこいいこしまくったのち、逆サイドにコトハさんを丁重に抱え、可及的速やかに全速前進。一本二本と路地を抜け、あっという間に校門前へ。


「ソーやーん! コトハちゃーん!! とえっと、ナツキー!!

 はやくはやくー! ノゾミ先生こないうちに!!」


 校門のギリ内側ではシオンがはらはらと待っていた。よし、ノゾミちゃん先生はいない。


「よっしゃあ、今のう……」「……ちにどこに行くんだソーヤ?」「ひいっ?!」


 速度を上げて校門を駆け抜けようとしたとき、真後ろからにこやかあな声。

 あえなく御用となった俺たちは、生徒指導室へと直行することになったのだった。



「まず、シオン。

 何度でも言うが、こういう時はまず俺たちに知らせてくれ。

 カナタの時のようなことがあったら、取り返しがつかないかも知れないんだぞ?」

「ごめんなさい。オレ、つい慌てちゃって……気を付けます……」


 俺の隣の席で、シオンは素直にこうべを垂れる。

 ノゾミ先生はクドクド言わず、スパッと切り上げてくれた。

 俺的にはこういうとこが一番尊敬できたりする。


「頼んだぞ。

 次にソーヤ。

 走って隠そうなんぞとしても無駄だ。

 次からは冷静に俺たちに連絡して指示を仰ぐこと。

 そうでなくとも、転んでケガでもしたらどうなる?」

「あ……」


 そうだった。もしもコトハちゃんにけがでもさせていたら、悔やんでも悔やみきれないところだった。

 スキルやポーションで治せるとか、そういう問題ではないのだ。


「うかつでした。気を付けます」

「よし。

 最後に……どうして無断で夜間外出などしたんだ、フユキ?

 いつも冷静な、お前らしくもない」

「…………言え、ません」


 紙コップのコーヒーに手も付けず、フユキはうつむいている。

 その隣で、コトハさんは頭を下げる。


「ごめんなさい先生。わたしが、フユキ君とちゃんと話さずに出て行ってしまったから……」

「ちがう。

 コトハはメールを残してくれたし。……

 勝手に心配して、勝手に暴走した、俺がひたすら悪い」

「相手がソーやんだったから……でしょ?」


 何かをこらえるようなフユキ。うさみみを垂らしたままのシオンがそうっと声をかければ、おどろいたように顔を上げた。


「まえ、コトハちゃんがナナちゃんといっしょにお買い物に出たときも、メールだけの連絡だったけど、こんなじゃなかった。

 ごめんね、オレの配慮が足りなかった。いちおうリーダー、なのにね」

「シオン、……」


 その姿はぐっと胸に刺さった。

 何も悪くないシオンが、心を痛めて頭を下げている。

 いてもたってもいられずに立ち上がった。


「ちょっと待ってくれ、シオンはべつに、……

 俺が通話コールかけたから。それで呼び出したりしたから、……

 そのときにフユキもいっしょに連れてきてくれって、呼べばよかったんだ。バディが付いてくるのはおかしいことじゃないし」


 するとフユキが再びかぶりを振る。


「いや……俺はその時ラボで手が離せなかったから、どのみち同行はできなかったし、実際コトハのメールを見たのも着信から30分以上たってからだった。

 俺以外の誰も、間違った行動も判断もしていない。

 本当にすまなかった、みんな。

 先生、そういうわけで、懲罰を受けるのは俺一人に。お願いします」

「フユキ君……。」


 フユキは立ち上がり、ノゾミ先生に頭を下げた。

 ここまで言われると、俺たちにはこれ以上言えない。

 コトハさんもまだ納得しきれない様子だったが、これ以上を言えない様子。

 ノゾミ先生は俺たち全員を見回すと、最後にフユキをまっすぐに見て、こういった。


「フユキは、こうしたことは初めてだったな。

 ならば、次に同じ事態になったときにはどうしたらいいか。建設的で実効性のある案を策定し、提出すること。

 期日は明日いっぱいだ。提出後の再提出も認める。

 ナツキも含めた仲間と話し合って、よく考えてまとめるように。いいな」

「……はいっ!」


 ノゾミ先生は一番役に立つオプションを、大甘のヒントまでつけて提示してくれた。

 不安なハラハラから一転。俺たちは全員、笑顔で声をそろえたのだった。



 * * * * *



 そんなわけで今、フードラボを出た俺たちの前には、かわいいお迎えが来ているのだ。

 あかね色の瞳をした灰色のふさふさ子猫。猫の姿をとったナツキである。


『お姉ちゃん、お兄ちゃん、おつかれさま!

 さ、かえろ! フユキとシオンお兄ちゃんが、ヤキモチやかないうちにねっ!』


 ナツキ猫はそういってぴょん、と俺たちに飛びついてきた。



 生ける伝説と言われるトッププレイヤー『青嵐公』。

 その実態は、最高の兄貴だった。

『眼鏡の死神』なんて、とんでもない。

『俺は勇者になれなかった村長だ』なんて言うけれど。それは残念だったにちがいないのだけれど……

 俺的にはこの人が『村長』になってくれて、よかった。


 可愛いナツキ猫のあたたかな毛並みをもふもふしながら、今日も俺はそんなことを思ったのである。


こねこが迎えに来たらきっとどこだって行っちゃいます。


次回、バトルのよかん? どうぞ、お楽しみに!

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