49-7 探すもの、貫くもの
アスカとハヤトはすでに、実技での卒業資格を認められている。
よって月曜放課後に受ける学科試験が、卒業を決めるキーになる。
応援にいきたいのはやまやまだったが、合同練習終了後に通話をかけありがとう、頑張ってと伝えるのがせいいっぱいだった。
なぜなら、その時間は数週間前からすでに埋まっていたからだ――
あの町ゆかりの議員との、会見で。
レモンさんは『森コン』の前後に、町の人たちとの懇親会や、視察を行っている。
その際の、そしてそのあとのことをスムーズに進めるためには、関係者との挨拶、そして情報共有はマストだ。
今回は、その場におれたちと『ソアー』も同席したのである。
ちなみにこの議員氏は『サイレントシルバー』の主である。
そこでおれたちは、彼を問い詰めた……りはしなかった。
あくまで和やかに平和裏に、お礼を言って情報共有。
その後、地元で買った綺麗なメロディーつきカードに、連名でお礼をしたためて送りはしたけれど、その程度である。
もちろん盗聴器なんか仕掛けてはいないし、デザインとメロディーが『ソアー』がもらったものと同じなのも、すべて全くの偶然。偶然なのである。
次に彼と顔を合わて何か聞かれても、ただニコニコとそう言っておけばいい。大丈夫、『サイレントシルバー』の盗聴器は今も生きて、なにがしかの音を彼らに送り続けているのだから。
それでも……
全部終わってレストランに入り、ボックスシートに四人で陣取ったときには、どーっとため息をついてしまった。
「おつかれ、三人とも。
今日は好きなもの好きなだけ食べていいからね?」
「っていうかレモンちゃんなんだってあんな笑顔でポーカーフェースなんだよ~……」
のたまわるのは、テーブルに突っ伏したイツカ。その頭をなでながらレモンさんはいたずらっぽく笑う。
「年の功、かな?」
「みえねえっ!!」
「そりゃーねー。
君たちもそのうち、そう言われるかもよ?」
「えええ……俺きっと無理~……」
『ソアー』もトホホとテーブルに突っ伏す。
そう、エクセリオンと『祈願者』は、望む姿と寿命とを得られることになっている。
けれど、こうした『ソフト面』は、やはり自ら身に着けるほかはない。
おれはドンマイと『ソアー』の肩をたたいた。
「いや、おれだってまだまだ、ぜんぜんだし。
……イツカは逆の意味で言われそうだけどさ」
「にゃああ!!」
「まあほら、トウヤみたいのもいるからさ。
弱いところは弱いところとわかっていた方が、フォローはしやすいからね。まずは『自分なり』でいいんだよ。
ソアちゃんはソアちゃんのままでいい。むりにライムやエルエル、オルカの代わりになろうとはしないでいい。
自分なりの方向性を見つけるまでは、いまのまま、見習いのままでいいんだからね」
「……はい」
それはこれまでに、何度か聞いていた言葉だった。
3Sたちの力を借りて戦うことについては、『ソアー』はすでに第一人者といっていい。
けれど、自分なりの方向性は、まだ固まり切っていない状態。
一ツ星で放校の憂き目にあった彼には、学んでこられなかったこともたくさんあり、今必死でそれを取り戻そうとしている真っ最中なのだ。
優しくソアーの頭を撫でたレモンさんは、イツカのあたまをポンポン、おれをまっすぐ見つめてこう言った。
「イツカとカナタは逆に、絶対にぶれないことを心掛けていてね。
『祈願者』の存在意義は、『マザー』に告げた願いが実現するまで、その象徴であり続けることなんだから。
『この国から、Ω制をなくす。
心ならずも最下層に落ちてすべてを失い、不幸になる者を生み出さない。誰もが幸せにあれる国を、実現する』
どんなことがあっても、その願いに背いたらだめだよ。
……って、それは言わなくっても大丈夫かな?」
「おう!」
「はい、それは絶対に」
イツカはぽんと頭を上げてニッコリ。おれも、笑顔でレモンさんにうなずき返した。
もし、もしもおれたちがそれに背いたら。
あとの任期は、ラボで眠っている『くぐつ』が務めることになる。
つまり、おれたちは――
もっとも、おれたちのこころからこの願いが失われることなんか、絶対にありえないと断言できる。
おれたちにはソナタが、ミライが、ここまで一緒にやってきた仲間たちが。
そして、まだ見ぬ同志たちがいるのだから。
と、携帯用端末から着信音。
メールのタイトルは、もちろん。
『ダブル満点とったった♪』
おれはその瞬間、イツカをうさみみロールにした。
はたして二秒後。ロールの内側からは、やったああああというおたけびがもれてきたのであった。
ポーカーフェースも楽じゃない。
次回、週末のパーティーにむけて準備するわちゃこら回になる予定! お楽しみに!




