Bonus Track_49-5 れっつ、卒業試験!~アスカの場合~
「あれ、それまだ飲んでなかったの?」
「……後で飲む」
「あとでってもうテスト始まるよハーちゃん。
今飲まなかったらいつ飲むのさ?」
「……ほっとけ」
月曜放課後、学科試験の会場へと向かう途中。僕はハヤトのポケットからのぞいたホーリーポーションの小瓶に気づいた。
きのう、ルカとルナが僕たちにくれたものだ。
『あんたたちもたいがいワーカホリックよね。
でもおかげであたしたちも助けられてきたんだし。……
がんばって。週末はお互いカッコよく決めるわよ!』
『これね、わたしとるかで作ったの。
学科試験うまくいきますようにって。
これ飲んで受けたら、ヤマがぜーんぶ当たったからおすすめだよ!』
との言葉とともに。
ちなみにホーリーポーションにそんなトンデモ効果はなかった気がする。
ともあれ、縁起のいいものだ。おれはさっそくその場でいただいた。
けれどハヤトは、後で飲むからといってポケットに入れて。
そのまま、後生大事に持ち歩いていたというわけだ。
……もしかしてこれは。
いつもの猫耳メイド服姿のライカが陽気な声を上げる。
『あー! もしかしてハーちゃん、るーるーたんずのことっ』
「ちがっ! そうじゃない!! これはあくまでゲンを担いでいるだけでっ……
ア、アスカも誤解すんなよっ?! 俺は、……」
ちょっと赤くなってあわあわと慌てるハヤト。いっそのこと『そっかそっかーやっぱハーちゃんはこのちょーぜつてんさいうさぎびしょーねんのおれのことがっ』とか言ってやりたくなってしまったが、ここはがまんだ。
今はまず、学科試験をパスすることだけを。
後のことは、そのあとだ。
僕は努めてさりげなく、ハヤトの背中をぽんと叩いた。
「はーいはいっ。
まったくもーハーちゃんは。前回模試ほぼ満点だしといてなに言ってっかなー。
あーあ、こーなったらおれ満点とらなきゃじゃん。頭脳担当が体力担当にペーパーで負けたとか、説得力がなくなるからねっ!」
そうして叩いた軽口に、ハヤトはまっすぐ返してくれた。
「だったら満点とってこい。遠慮なんかなしに。
もう、やつらの目を気にしなくっていいんだ。
お前の頭脳も、才能も。
ここからはもうなにひとつ、隠さなくっていいんだからな」
なにひとつ、か。
たぶん、ハヤトにはいろいろ、バレている。
僕は、一つ息を吸って。そして――
「よーし! それじゃあおもいきって脱いじゃうぞー」
「バ、バカッ! そういう意味じゃなくてだなっ」
そんなふうにからかえば、さっき以上に真っ赤になるハヤト。
よしよし、肩の力は完全に抜けたようだ。
これでOK。学科試験はいただいた。
と、そこへ飛んでくる仲間たちの声。
「いよっ、お熱いね!」
「どうせならダブル満点とっちゃえよ!」
「がんばってー!」
「応援してるからな!!」
教室一つを貸し切りにした、おれたちのための試験会場。
その前の廊下は、すでに仲間たちでいっぱいだった。
ここに来た頃は、こんな光景を見られるなんて想像もしていなかった。
高天原学園卒業は、あくまで手段でしかなかったのだ。僕たちを脅かすやつらの喉元に迫るための。
でも、そんな考えは寂しい、間違ったものだったと、いやでも気づかされた。
ハヤトを守る。そのために敵となるものはすべて下す。その考えは変わっていない。
けれど、その途中、こんなふうに楽しくワイワイしたってぜんぜんいいんだ。むしろした方が断然いい。
そのことを教えてくれた、愛すべき日々からの卒業は、ほんの少しだけ寂しかった。
だから、言った。
「おーう!
満点取ったら週末パーティーでおいしいものいっぱいオナシャスッ!!
おれには甘いものとー、ハーちゃんには肉ねっ!」
するとハヤトはしっかり付け加える。
「ちゃんと野菜も入れてくれ。バランスが大事だからな!」
「おーうっ!!」
次世代三巨頭――胃袋担当ソーヤ、データ担当シオン、よろず相談担当のミライを先頭に、笑顔の仲間たちがこぶしを突き上げた。
そうして、その日の夕方。
おれたちのもとに届いたのは、ふたりともに満点での合格の知らせだった。
どんなものでも、テストで満点取るのって難しいですよねorz
次回、イツカナがここにいなかった理由とか!
どうぞ、お楽しみに!




