6-1 公開協議とプリンセスからのお召し
そして、翌日曜日。時間はきっかり、午前十時。
おれとイツカは立会人アスカによって、なぜかラウンジコーナーへ連れていかれた。
ラウンジコーナーには――いや、学食のほうにまで、やけに今日は人がいる。
というか、みんなが興味津々でこっちを見ている。
ぶっちゃけわけがわからない。
イツカもいぶかしげにアスカに問う。
「なあ、なんでここなんだ?」
「そうだよ、おれたちただ単に、部屋の掃除の割り振りについて話すだけだし……
こんなの、おれたちの部屋でいいじゃん」
「まーまー。
イツにゃんとカナぴょんはみんなのトモダチじゃん?
ふたりの心配はみんなの心配。ふたりの幸せはみんなの幸せなんだよん♪」
するとアスカはにこにこーっと笑ってそういった。
「そ、そっか。……悪いな、心配かけて」
「ありがとアスカ。……そうだね、おれたちみんなに心配かけちゃったんだものね。
みんなに安心してもらえるよう、がんばらなきゃね!」
うん、どことなくそれだけじゃない気もするけれど、とりあえずそれはおいておこう。
ラウンジのテーブルに、おれとイツカが向かい合い、横手の席にアスカとハヤト。
お茶とクッキーもとりそろえ、謎の公開協議は始まった。
「玄関とベランダとサニタリー。そのへんは週一、二回とかでいいんだ。
おれも、そこまでしかできなかったし。
でも、リビングとキッチン、勉強部屋と寝室。
ここは最低限、毎日掃除されててほしい。
申し訳ないけど、これはやっぱり譲れないんだ」
「……そっか。
やっぱ、メイドサービス、頼むか」
整理しておいた条件を伝える。
するとイツカはしばらくの沈黙ののち、そういってきた。
やはり、やつはそれ以上掃除のペースを増やす気はないらしい。
いや、それでもいいのだ。だって。
「それは必要ないと思う。
だって、おれがやれるから。
イツカは週一回だけ、おれの代わりしてくれればいいよ。ううん、疲れてたらそれもやらなくっていい。
イツカのいうとおり、ルームクリーニングサービスは週一であるわけだしさ。
体操着とかのクリーニングサービスや、マッサージのことももうやってくれてるんだし。
おれ、イツカに甘えすぎてた。イツカばっかに負担が行くプランにOK言ったおれが悪いんだ。ごめんね、イツカ」
「いや、俺は、……
でも、それってほとんど元の木阿弥じゃん。もたねえよ、また倒れちまう!」
「なら、実習をもっと減らすよ」
「待てよ。
おまえいま実習、毎日一コマしか受けてないよな?! そんなことしたら」
イツカは不安げに訴えるけど、すでにおれには腹案がある。
落ち着いてそれをイツカに伝えた。
「いいって。
おれは当面、メンテと家事でのお前の支援、そして依頼を受けての資金稼ぎに集中する。
お前はガンガン試合して、ポイントを稼いでいく。
で、お前がさきに四ツ星になったら、学園メイドの24時間常駐サービスを受ける。
部屋のことを全面的にお願いできるようにして、それからおれがお前に追いつく。
このほうが、ソナタの治療費もはやくたまる。おれがついオーバーワークをしてしまうことも防げるはず。
だいじょうぶ、すぐに追いつくよ。24時間サービス受けれれば、集中できる環境ができるからすぐだって」
おれはここにくるまえに、携帯用端末の表計算アプリを使って計算しておいたのだ。
作成したグラフを示すと、イツカはうーんとうなった。
「それは、わかった。けど……
それって認められるのか?」
するとアスカがさらりと言った。
「多分、むりだね。
実習受けてなかったら、この学園にいる意味がない。
かといって、カナぴょんはまだ中二生だ。基礎授業はうけなきゃなんない。
素直にメイドサービス頼めば?
まあ、毎日すっかりそこ掃除してとかは、さすがに別料金発生しそうだけどさ」
そのとき、おれとイツカの携帯用端末が同時に鳴った。
画面表示は『グループ通話』。発信元は、『青嵐公』先生。
おれたちはうなずきあうと、通話に応じることにした。
「はい、カナタです」
「イツカだけど、どうしたの?」
『お前ら、土曜に学食で騒ぎを起こしたそうだな。
その件で呼び出しだ。
私設メイドをあっせんする。二人で学長室へ来い』
* * * * *
「ミソラちゃん先生って『銀河姫』なんだよな。
センセも『青嵐公』だしさ……
このガッコの教職員てばマジハンパなくねえ?」
「やっぱり明日のαプレイヤーを育てるんなら、そのくらいの人じゃないとダメなんじゃないかな?」
学長室への道中、イツカがなんとはなしに、こんなことを言ってきた。
そう、ここの学長を務めるのは大人気αプレイヤー『銀河姫』。
ミッドガルド時代には『青嵐公』とタッグを組み、すさまじい戦績を残した超天才軍師だ。
吟遊詩人としても名高く、楽曲ダウンロード数はレモン・ソレイユにも引けを取らない。
専攻はプリースト。地を掃くほどに長い白銀の髪、弱きを助ける優しさから『銀河姫』の二つ名がつけられた、どこか神秘的に美しい女性だ。
おれたちのポテストのあと、この人はみんなに回復とボーナスポイントをくれた。そのおかげで、おれたちに対するみんなの目はとても暖かくなった。
だからおれは、この人にとても感謝している。
今日は、改めてそのお礼を言うにはいい機会だ。
まあ、こんな形での直接対面というのは、いまいちしまらないけれど。
「かもなー。
あ、ミソラっていや、ミソラ姉ちゃんはどうしてるのかな。
ノゾミ兄ちゃんともう結婚したのかな」
「それはまだじゃないかな。
二人のことだもの、ちゃんとみんなを招待して結婚式やってくれるよ」
「そっか、そうだな。
はー、いっそはやくやってくんねえかなー。そしたらミライも俺たちも招待されて、……」
『ミソラ姉ちゃん』ことミソラさんは、ノゾミお兄さん――ミライの十歳上のお兄さんだ――のバディで婚約者だ。
彼女もここ高天原で勤務しているから、里帰りの時にしか会えないのだが、子供のころはよく遊んでくれた。
さらさらのボブヘアーで髪色は白。短めの前髪のせいで、ちょっとおでこな感じがする。
いつもニコニコしていて、かわいい赤縁のメガネをかけていて……
『高天原』との行き来のときに着る、きちんとした紺のスーツも、ふわふわした感じの私服もよく似合う、なんともかわいらしいひとだ。
フルネームはハヅキ ミソラといい、ミソラ先生とはちょうど、姓と名前が逆になっている。
『青嵐公』先生もなんだかノゾミお兄さんに似ているし、高天原には不思議な縁が多いようだ。
そういえば、『青嵐公』先生の名前って……
「こんちわー。呼び出しできたんだけど」
ここまで考えたとき、ひときわ大きなイツカの声がして、おれは我に返った。
みれば目の前に、学長室の大きな入り口。
そして、その左右に控える学園メイドの姿があった。
ドアはすでにフルオープンになっており、明るい室内が見えた。
といっても、ここから見えるのは前室のようだ。
まずは、クロークらしきカウンター。
すぐ奥に、応接セットがワンセット。ふっかふかのじゅうたんに、渋いソファーとローテーブルがそろっている。
しかしおれたちはそこに留められることなく、さらに奥、部屋の右側に設けられた、大きな木製の扉へと誘導されていった。
イツカがつぶやく。
「……なんか医者っぽいな」
「たしかに」
「こちらです。どうぞノックして中へ」
その扉を目の前にしておれたちはおもわずフリーズした。
そこには、なんだかすっごく違和感のあるプレートがかかっていたのだ。
「………… ここなの?」
「はい」
全体的に丸っこい形と、かわいらしい色使いの在室プレート。
かわいらしい、まるっこい文字で『在室ちゅう☆』と記されている。
おれは思わず、いま一度メイドさんに確認をとっていた。
「ほんとにここ?」
「はい」
メイドさんはにこにこしている。
どうやらこれは、毎度のイベントらしい。
おれたちは顔を見合わせた。
「どうするよカナタ」
「どうするもこうするも、入るしかないよ……ね?」
「うーん…… だな」
イツカが一歩進み出て、ドアをノックする。
「どーぞー」
これまでも放送で何度か聞いた、ミソラ先生の声が聞こえ、イツカはドアを開く。
そこでおれたちは仰天した。
目の前に立ってニコニコしていたのは、短め前髪のおでこスタイル、セミロングの白い髪、赤縁の眼鏡のかわいい女性。
着ているものは見覚えのある――ミソラさんお気に入りの紺のスーツ。
そう、それは、どう見ても。
「ミ、ミソラさん――?!」
「なんでこんなとこいるの?!」
「えへへー、ひさしぶり。
あれからわたしね、がんばって学長になったの。
機密だから言えなくってさ。おどろいたよね?」
あんぐりと口を開けるおれたちの前で、ミソラさんは姿を変えた。
するりと髪が伸び、着ているものもワンピース風の白のローブに。
肩の後ろからは、ちょこんと可愛くシロフクロウの羽根がのぞく。
有名な『銀河姫』の姿だ。
でも赤縁の眼鏡と、ニコニコとした顔はそのまま。
おれたちはふたりの『ミソラさん』が同一人物であることを認めざるを得なかったのである。
「え……あのっ、名前っ?!」
「あー。αになると基本個人だから、どのタイプの名前も個人名が最初に来るようになるの。わたしの名前だとやっぱまぎらわしいよね!」
「つか姿違いすぎだし!! なんで?!」
「ロングってかっこいいけど邪魔なんだよね。あんな長かったら踏んづけてころんじゃうし。
だから表面換装だけロングにして、足元は透過かけてるの。
まあ、まずは座って。今日は二人にうれしいお知らせがあるんだから!」
そう言ってミソラさんが身をひるがえせば、その後ろに思ってもみなかった姿が見えた。
小柄な体躯を、真新しい紺のスーツに包んだその少年は、おれたちを見てニッコリと微笑んだ。
「ひさしぶり、ふたりともっ!」
その頭には、チョコレート色のボタン耳。
キラキラ大きな瞳はきれいなエメラルド色。
そう、それは。
「ミライ――!!」
気が付けばおれたちは、三人で団子になっていたのであった。
またしてもなんとブクマいただけました!
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